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みそギ!~三十路で始めるギター教室~  作者: ボラ塚鬼丸
Bonus track2~Californication編
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Piano Man/Billy Joel

 さて、効率的にアズサの練習をするにはどうしたモノか……と、学校から帰宅して以降そればかり考えている。


 歌が上手い、というよりイイ声をしているのは確かであるが、ただ英語で歌を歌うだけではダメな気がする。


 グランマも言っていたが、英語は発音じゃなく、伝えるという気持ちが大切だから、しっかり感情を乗せられるような努力をしなくてはならないのだろう。


 とはいえ、素人のアズサに完璧を求めてもプレッシャーになるだけだから、本人も言ってた通り『保険』を掛けておくべきである。


 今朝方、アズサから手渡されたアニソンのコンピレーションアルバムをカバンから取り出し、プレイヤーに入れる。


 部屋から音が漏れ出て、それを耳にした父親と無駄に揉める心配が無いよう、プレイヤーにヘッドフォンを差し込んだ。


 再生ボタンを押すと、古いテレビ番組の特集で目にした、私が生まれる前のアニメの主題歌が流れてきた。


 当然リアルタイムで観たコトは無いが、夕方の再放送を何度か目にしたコトもあるし、有名な曲なので正確な歌詞はわからなかったものの、鼻歌でメロディをトレース出来る程度には知っている。


 CDを流し続けていると、ここ数年の作品も入っているようで、まったく知らない楽曲もあって、歌詞カードやジャケットの裏面に記載されている曲名を何度も見返してしまった。


 知らないアニソンを今から覚えて本番に臨むよりも、私でも知っているような定番曲をストックしておく方が、いざという時に対応出来そうな気がしたので、2~3曲に絞って覚えるコトにした。


 まず1番のサビまで聴いたら最初に戻り、同じところまで流したら一旦止めて、ヘッドフォンを今度はノートPCに差し込んで、動画サイトでピアノの教則ビデオを探す。


 当然楽譜など持ち合わせていないので、耳コピで拾えなかった部分を動画で補完してメモを残す。


 さらに6.3㎜の変換アダプタをヘッドフォンジャックに装着して、部屋にあるキーボードに差し込んで演奏するという、デジタルとアナログを駆使した練習方法である。


 あくまでも『保険』としてなので、フルコーラスではなく、テレビサイズの1分半に収まる程度で覚えられれば、私のキャパシティーでも十分対応出来そうだ。


 さすがに毎日こんな行動を取っていると、父親に怪しまれる可能性が高いので、アズサと練習できた日だけ、自宅でアニソンを覚えるコトにしようと思った。


 明日はアズサがクラスの当番なので、私一人で音楽室に行って、今日覚えたアニソンの練習でもしよう。



 翌日の放課後、アズサの教室の前を通ると、他のクラスメイトの輪から外れて、片隅で黙々と作業しているアズサが見えた。


 変に気を遣わせても申し訳ないので、そそくさと通り過ぎて音楽室に到着すると、使用可能な時間まで30分を切っていた。


 とはいえ、一人で練習するので準備と言ってもピアノの鍵盤蓋を開くだけなので、すぐに弾き始められるのは良い。


 動画サイトを観ながら殴り書きしたメモを取り出し、前日に覚えた楽曲を弾いてみる。


 グランドピアノは自宅のキーボードよりタッチが重く、テンポがズレやすい点に注意しながら数回通して弾いて修正。


 たかが1分半の曲といっても、知名度が高いので誰が聴いてもミスが目立ってしまいそうなので、気になる箇所は何度も弾きなおした。


 そうこうしているうちに、扉が開いてキクチが登場し、あっという間に練習時間は終了した。


「お疲れ……って、あれ? 今日は一人だけ?」


「ええ、セノオさんはクラスの模擬店準備なので」


 キクチは担いでいたギターを下ろしながら、ふぅんと頷いた。


「てっきりセノーが逃げ出したのかと思ったよ。まぁケガもあったんだろうけど、アイツ前の部活も変な時期に辞めてっからね?」


 同じ学年とはいっても、2学期までアズサは違う学科だったのだから、詳しい事情は知らないのだろう。


「アズサは……逃げたりしないわよ?」


 彼女が抱えている悩みの、100分の1も理解してあげられてないかもしれないが、アズサを軽く見られてつい頭に血が上ってしまい、気が付いたら震えそうな声を抑えてキクチに突っかかっていた。


「あっそ……まぁアタシにしたらどっちでもイイんだけどね? 仮入部のアンタらに、まともなライヴが出来るなんて期待してないから」


 そう言ったキクチは、こちらに目もくれず自分のギターを取り出してチューニングを始めている。


 悔しい……バンド経験が無いとはいえ、聴いてもいないのに、私達の音楽が期待されていないなんて。


「ええ、そうね。期待なんてしてなくても、きっと本番当日に一番盛り上がるのはアズサの歌だから」


 自分のコトだけをバカにされたのなら、こんな返しはしなかったのだと思うけれど、アズサの歌を聴いて受けた衝撃ごと否定されたのが我慢ならず、捨て台詞とともにピアノを閉じてカバンを引ったくる。


「へぇ……そりゃアタシがギターヴォーカルやってるトリのバンドより、会場を盛り上げてくれるってコトだよな? じゃあ……出順トップで客なんてほとんど居ないお前らに期待してっから」


 これは……ひょっとして俗に言う『やってしまった』というヤツなのかしら?


 いや、ひょっとしなくても、確実に軽音部の部長にケンカを売ってしまったようだ。


 音楽室を出る前に、キクチに弁解しようとも一瞬考えたが、さすがに格好悪過ぎるし……


「わ、私達のコト、タダの素人だと思って足元を掬われないように、キクチさんも練習頑張ってくださいね? それじゃごきげんよう」


 部屋を出る間に、言い訳がましいコトを考えるよりも、さらにキクチを煽るような言葉が口を衝いて出てしまった……もうどうにでもなってしまえ!


 キクチにこれ以上何かを言われる前に、足早に音楽室を出て、勢いよく扉を閉めたのは、余計に喧嘩腰に見えたかもしれない。


 っていうか、ホントにコレどうしよう……ややこしい話になっちゃったけれど、アズサになんて説明したらイイんだろう。

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