HEAVY DRINKER/JUN SKY WALKER(S)
「ってかさ、高3の女子高生がカラオケ行ったコトないなんて、逆に不健全じゃない? そんなんウチらぐらいだってば!」
アズサは既に音楽室に練習へ行くコトよりも、カラオケ初体験に興味が移行してしまっているようだ。
「ホントに、文化祭の練習……ってコトで行くのよね?」
「当たり前じゃん! 今まで友達居なくて行けなかったから、単純にカラオケ行ってみたいとか、そんな理由じゃないからね?」
そこまで言ってないけれど、たぶんそれも含まれてるのよね?
「信じてないワケじゃないけど……でも、ホントに文化祭の曲決めなきゃならないんだからね?」
「わかってるってば! んじゃ放課後また来るね?」
そう言い残して、アズサは颯爽と自分の教室に戻って行ってしまった。
文化祭の練習という名目で、学校帰りにカラオケへ行くなんて……こんなドキドキするコトなのかしら?
定期券を購入する予定だったので、ある程度のお金は持っているけれど、万が一ってコトもあるだろうし、油断は出来なさそうである。
そんなコトばかり考えていたら、授業などあっという間に終わってしまい、いよいよ放課後になった。
「お待たせ! んじゃ行こうか?」
下校や部活の準備で慌ただしくなった教室に、片手で持ったカバンを肩に担いだアズサが、不良っぽい演出で登場。
朝の会話の限りでは、アズサは放課後の過ごし方は部活しか知らないハズなので、学校の帰り道にどこか立ち寄るコトが、きっと不良めいたイメージなのだろう。
やや緊張しつつ、天気の話や今日あった授業の話など、どうでも良い会話を交わしながら下校の波に飲まれる。
学校の最寄り駅を歩いて通り過ぎると、まだ夕方なので、電飾の光っていないネオンサインや大きな看板の立ち並ぶ繁華街に到着。
放課後に寄り道をするのも初めてな上に、勝手がわかっていない二人でカラオケに来てしまった……
見れば中高生だけで来ている人たちも居るので、法外な請求をされるコトは無いだろうけど、一緒に居る相手が頼りないという時点で不安に押し潰されそうである。
アズサは大きく深呼吸をすると、私の手を掴んで自動ドアをくぐる。
「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」
店に入ると、当然ながら前を歩いているアズサに店員さんが話し掛ける。
「あ、ふ、二人です!」
条件反射で人差し指を立てながら答えてしまい、慌てて指を二本に増やす。力強く私の手を握ったアズサの手のひらが汗ばんでいた。
「二名様ですね? 会員様でしょうか? ご利用時間は如何いたしましょう?」
矢継ぎ早に投げ掛けられる質問に、アズサは完全に固まってしまい、そろそろ限界を迎えているようだ。
「……あ、あの、スミマセン! このコ海外から転校して来たばかりで、お店のシステムとかわかってないみたいなんですけど、案内してもらってもイイですか? ウチ、人に説明するの苦手なんで……」
ズ、ズルい……けど、確かに言ってるコトは間違ってないし、ウソもついてない。
「オ、オ願イシマス」
ついカタコトになってしまったが、そんな必要無かったかもしれない。
「かしこまりました。それでは、まず料金ですが……」
店員さんは、ゆっくりとわかりやすく説明してくれた。
2時間以上の利用であれば、どちらか一人だけでも会員登録した方がお得だと言われたので、代表で私が入会書に記入し、今日渡されたばかりの学生証を提示した。
部屋が埋まっているので、カラオケの機種が選べないと言われたが、そこまでこだわりがあるワケではないので、空いている部屋に案内してもらった。
「では、終了10分前に電話が鳴りますので、ごゆっくりお楽しみください」
長いソファが直角に置かれた部屋に通されると、落ち着かないアズサが立ったり座ったりを繰り返す。
「まさか私を囮に使うとは思わなかったのだけれど……じゃあさっそく、あなたの得意な歌を歌ってもらおうかしら?」
「あ、うん。でもその前に、ウチ、とりあえずトイレ行ってくるから!」
ガチャリと部屋の扉を開けて、アズサが廊下に出た瞬間に、他の部屋の歌声が漏れ聞こえる。
予期せず個室に取り残された私は、手持ち無沙汰でタッチパネル式のリモコンを操作した。
ジャンル別や年代別での検索が表示されたトップページの片隅に、洋楽と書かれた項目があったので、画面を進めるとアルファベット順に大量のアーティスト名が表示される。
60年代から70年代のロックバンドや、80年代のパンクやハードロック、90年代のグランジやミクスチャーなど、年に1人も歌わないであろうマニアックなバンド名に曲が2~3曲ぶら下がっていた。
昔がどうだったのかは知らないけれど、最近のカラオケってこんなコトになってるんだ……もしここにグランマが居たら、きっとマイクを離さないのだろうと思い、可笑しくなってしまった。
「ヤバい! この店ムチャクチャ凄いんだけ……グェェェェェェ~」
突然アズサが戻って来たかと思ったら、地鳴りのような呻き声を上げたので、少し怖くなった。
「ちょ、ちょっと! 大丈夫? 何かあったの?」
「いや、トイレの帰りに、そこの廊下にあった機械でジュース飲んでたんだけど……飲み放題だって!!」
そう言えば、さっき説明された時にワンドリンク制じゃなくてドリンクバーだと言っていたわね。理解出来てなかったけれど。
「呻き声じゃなくてゲップだったのね……一体この短時間で何杯飲んだの?」
アズサは声を出さず、こちらに広げて見せた右手の親指を折り畳んでいた。
「4杯って……フードファイターじゃないんだから」
「エリカも行こうよ! マジで色んな種類あったから!! 混ぜてもイイんだよ?」
ここまで喜んでもらえれば、きっとドリンクバーも本望だろう。
とはいえ、ブレンドしてオリジナルドリンクを作るのは、確かに気になってしまう。
「……あ、アイスティーにりんごジュース入れて、炭酸で割るとアップルティーソーダになるよ! 日本だとあんまり置いてないんだよねぇ~…………とか、やってる場合じゃないじゃん! 残り1時間切ってるじゃない!!」
「でも、途中からエリカも楽しそうだったよ? まぁ……部屋戻ろうか」
急に冷静になったアズサに諭されて、廊下をトボトボと部屋に向かって歩く。
「で? アズサの得意な歌、歌ってみてくれるかしら?」
部屋に入ってソファに腰掛け、タッチパネル式のリモコンを手渡すと、アズサは慣れない手付きで文字を入力していた。
送信ボタンをペンでタッチして、しばらくするとモニターにアニメの映像が映し出され、スピーカーからは大きめな音量で主題歌のイントロが流れる。
ちゃんと観たコトは無いが、人気作品の歌だったので主題歌ぐらいは知っていたものの、アズサが歌い出すとあまりの声の大きさに耳を塞いだ。
本人は気持ち良さそうに歌っているので、私がモニター下にある操作盤のボリュームを下げても、まったく気が付いていない様子である。
ただ、小柄なアズサの身体から、こんなにも大きな迫力のある声が出るのだというコトに驚いてしまい、肝心な曲の確認を忘れるほど彼女に見惚れていた。
この声を、この歌を、私のピアノに乗せるのかと思ったら、初めての寄り道やカラオケなんかとは、比べモノにならないほどドキドキしてきた。




