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みそギ!~三十路で始めるギター教室~  作者: ボラ塚鬼丸
Bonus track2~Californication編
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SUN/星野源

 同級生と、下の名前で呼び合ったのはいつ振りだろうか?


 幼稚園児の頃であれば、きっと何の躊躇いもなく自然に出来たコトなのだろうけれど。


 ただ、今は後ろ向きな記憶を辿るよりも、転校初日に友達が出来たコトが嬉しくて、無意識に上がってしまう口角を気にしながら自宅に向かっていた。


「お帰り。学校どうだった? お前のコトだから心配はしてないが、理事が私の後援者だから、くれぐれも問題だけは起こさないようにしてくれよ?」


 珍しく家に居た父親が出迎えてくれたのだが、娘の心配より先に、自分の保身を気にする辺り、私は道具なのだと改めて痛感させられた。


「……特に問題無いです。仮入部ですが部活にも入りましたし」


「はぁ? 部活……って何でそんなモン入ってるんだ? 受験も控えてるんだから、遊んでるヒマなんて無いハズだろ!」


 部活イコール遊びと考えてしまう、古臭くて頭の固い考え方……しかも理由すら聞かれない。


 私が受験に失敗して、世間体を気にしなくてよい状況を作るために、極力無駄なモノは排除しておきたいのだろう。


「卒業まで在籍というのが学校の規則のようですけど……理事がお友達なのに、ご存知無かったでしょうか? それとも、お友達にお願いして私だけ特別待遇にしていただけるのでしょうか?」


 我ながらトゲのある言い方だ。


「はぁ……なら仕方ない。下手なコトして、痛くもない腹を探られるのは得策じゃないからな。籍だけ置いて活動は程々にしておきなさい」


「私もそう思ったのですが、その部は文化祭で活動実績を残さなくてはならないそうなので、友達と二人で注力するつもりです」


 自分の口から出た言葉ではあるけれど、『友達と二人で』というフレーズに照れてしまいそうだった。


「そうか、もう友達が出来たのか! さすが俺の娘だな……ところでそのコ、俺の選挙区に住んでたら、ご両親とも仲良くなっておいてくれよ?」


「どこにお住まいかは存じ上げませんが……転校して早々に、父親の選挙活動を手伝えとおっしゃってるのでしょうか?」


 損得で人付き合いをしろと言う前に、私に父親譲りのコミュニケーション能力なんてモノが、本当に備わっているとでも思っているのだろうか? 自分の娘のコトを見ていないコトが、端々で露呈しまくっている。


「もちろん先々の話だよ。ほら、俺は娘の友人のご家族が、大切な有権者市民なら力になってあげたいから」


 自分を尊敬しろと言わんばかりの物言いであるが、『一応、私も市民なのですけれど?』とは返せず、選挙権を手に入れたら、こんなお友達優遇の政治家ではなく、真っ先に対立候補に投票してやろうと思った。


「お気遣いありがとうございます」


 距離感を保ちつつ、親子とは思えない会話を終了させる。


 ほんの20時間ほど前までアメリカにいたコトがウソみたいに、時差ボケの頭にはすべてが夢のような目まぐるしい一日だった。




 翌日登校すると、転校初日の盛り上がりは消え去っており、恐らく教室内は、私が来る前のテンションに戻っているようだった。


「おいっすエリカ! 今日って部活行くでしょ?」


 昨日、そう呼んでくれと言ったのは自分だけれど、面と向かって急に呼んでくるのは卑怯だと思う。


「おはよう……ア、アズサ!」


「早く行かないと練習する時間無くなっちゃうから、ウチ放課後ソッコーで迎え来るからね?」


 勇気を振り絞って名前を呼んだのに、アズサはお構いなしで会話を続けた。


「そうだったわね。16時までしか使用出来ないって言ってたけれど……ところで何の練習するの? 二人だけで軽音部として成立させられるような楽曲に宛てがあるのかしら?」


 部活に行こうと勢いよく誘って来たものの、アズサがハッとした表情のまま固まっているところを見ると、ひょっとしなくてもノープランであるコトは間違いなさそうだ。


「そこはアレだよ! ほら、あの、エリカが得意な曲をピアノで弾いてだね……それに合わせてウチが歌う、的な?」


 得意な曲と言われても、クラッシック以外の曲なんてグランマに弾かされていたジャニスぐらいしか思いつかない。


「私が得意な曲、っていうコトなら、歌詞が英語の曲……だけど、大丈夫?」


「英語? ちなみにウチ、中間の英語23点だけど……歌えるかな?」


 歌はテストの点数で歌うモノではないけれど、高校3年生がテストで23点を取るのは大丈夫なのかしら? これは危険な予感しかしない。


 自慢じゃないけれど、所謂J-POPのような曲はほとんど知らないので、最悪の場合キクチが言うように童謡でも歌おうモノなら即刻クビである。


「じゃあ……アズサが歌える曲って何かある?」


 もしアズサが歌えそうな曲を演奏するとなれば、一から覚えるコトになりそうだ。


「ウチ? んー、そうだなぁ……強いて挙げるなら……アニソン?」


「アニソン……っていうと、アニメソングのコトよね?」


 最近はバンドやアーティストが楽曲提供してるみたいだけど、そういう類いの曲なら、知名度もあるから何とかなりそうな気もするけれど……


「そう! ドラゴンボールとかコナンとか!! 子どもの頃に観てたアニメの曲なら歌えるよ?」


 そういう類いではないようね……これは改めて選曲する必要がありそう、というより、しなきゃいけないと思う。


「あ、あぁ……ホントにアニメの主題歌なのね? でも、それをキクチさんが許してくれるかは……微妙なトコよね?」


「やっぱダメかな? ……じゃあエリカの得意な曲でやるしかないでしょ! ねぇ? ちょっと歌ってみてよ」


 歌えと言われて歌えるワケがないでしょう……こんな他の生徒も居るトコで、しかもアカペラでなんて。


「ちょ、ちょっと、さすがにこんなトコじゃ歌えないってば!! 歌に自信無いし恥ずかしいから……」


 そもそも歌うのは私じゃないし、音源でもあればそれを参考にして貰えばイイだけの話だから。


「まぁ……確かにこんなトコじゃ歌えないよね? じゃあさ、今日は部活じゃなくてカラオケ行こうよ!」


 場所の問題ではないのだけれど……それにカラオケなんて。


「カラオケ……って、私、行ったコトないのだけれど」


「そうなの? 良かった~! 実はウチも行ったコトなくてさ。中高ずっと部活漬けだったから」


 何だか文化祭のステージに立つ前に、越えなければならないハードルが多い気がするのだけれど……

星野源も私の兄も結婚おめでとうございます。

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