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みそギ!~三十路で始めるギター教室~  作者: ボラ塚鬼丸
Bonus track2~Californication編
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アイム・ア・ビリーバー/SPYAIR

「あ、鬼畜センパイお疲れっす!」


 下級生と思われる生徒がギターケースを背負って音楽室に入ってきた。


「おー、お疲れ! っつーか鬼畜じゃねぇから!! ちゃんと菊池先輩って言えよコノヤロー……とりあえずアタシ後でイイから、先にセッティングしちゃってイイよ?」


「ういっす! 了解っす!!」


 後輩からイジられつつも、軽い会話を交わしているところを見ると、そこまで悪い人じゃないのかもしれない。


 キクチはカラスマスクを外し、中性的な素顔を晒してこちらに向き直った。


「まぁとにかくだ! アンタらがキッチリ文化祭でステージ盛り上げてくれたら、アタシらも正式に部員として迎え入れるよ。あと音楽室の利用だけど、仮入部だから16時までか、アタシらが帰った後だけだからね?」


 そんな劣悪な環境で、しかも短期間で練習しろなんて……やっぱ悪い人なのかもしれない。


「いやぁ、でも部活入れて良かったねハネザーさん!」


 全っ然良くないわよ! ……とは言えず、再び愛想笑いを返すコトしか出来なかった。


 既に帰り支度をしていた私は、今度こそ下校するため昇降口へと向かった。


 さっきまでハツラツとしていたのに、今は無言で隣を歩く妹尾梓との間が持たず、どうでもイイ話が口をついて出る。


「あ、何かキクチさんて、背も高くて男性っぽい人ね? 怖い人かと思ったら、後輩から軽口叩かれてたし、不思議な感じ……」


「んー、そうだねー。ウチもあんまり知ってるワケじゃないんだけど、毎年バレンタインデーには後輩からチョコレート貰ったりしてるみたい」


 女子校って、ホントにそういうコトが起こってるんだ? 男子校でもあったりするのかしら……


 相変わらず会話が続かないので、不思議に思っていたコトを訊いてみる。


「あの……妹尾さん? さっきキクチさんと話してた時に気になったんだけど、チアリーディング部の部長までやってたのに、どうして退部して軽音部に入ろうとしたの?」


 すぐに返答があるかと思ったら、まったく反応が無かったので、俯いたまま歩く妹尾梓の顔を覗き込むと、悲しそうな顔を浮かべていた。


「あー、うん。まぁ……そうだよね。普通は卒業まで部活続けるよね? んーと、何から話したらイイかな……ウチね、ちょっと部活居づらくなっちゃって」


 妹尾梓は、言葉を選ぶというより言いづらいコトを避けるように、ポツポツと話し始めた。


「あ、ゴメンなさい。言いたくない話だったら……」


「ううん? ウチが誘って部活入ろうとしてるんだから、ちゃんと話さないと」


 妹尾梓は歩調を緩めながら、腕組みをしてウンウン唸って悩んでいる。


 さすがに、部長まで務めた部活に居づらくなった理由なのだから、余程のコトがあったに違いない。


 キクチが言っていた『あの話』というのが、妹尾梓が退部し、学科を転籍した理由なのだろうか?


 彼女の言葉が整理できるまで、通り過ぎる教室や、窓の外に見える運動部を眺めながら待った。


「あのさ? スタンツ……ってわかる? 組体操みたいに人の肩とかに乗ってやる演技なんだけど」


 チアリーディングの映像などで、よく見るアクロバティックな技のコトだと思い、彼女の問い掛けに頷いた。


「んで、春の大会でその演技の時に、宙返りする大技やって……大ケガしちゃったんだよね? 後輩が受け止めるのミスって」


「大ケガって……大丈夫なの?」


 普通に生活をしているように見える妹尾梓が、ほんの数ヶ月前にケガをしていたコトに驚いた。


「大丈夫かどうかって訊かれたら、わかんない……かな? 腰椎破裂骨折ってヤツ? らしくて、同じようには運動出来なくなっちゃったけど」


「それで……体育科から転籍を?」


 力無げに笑いながら、妹尾梓は無言で頷く。


「競技中の事故は自分の責任もあるし、ずっと本気でやってきた部活だから、サポートとかアドバイスとか、やれるコトはやろうと思って部に残ったんだけど……みんな前と同じようには接してくれなくてね? ウチが居ない時はそんなコト無いみたいだけど」


 寂しそうに話す妹尾梓は、校庭で活動しているチア部を遠目に眺めて、深い溜め息をついた。


「だからって、何も退部したり転籍するコト無かったんじゃ……」


「うん、そうなんだけどね? 顧問から、出来れば辞めて欲しいって言われて……やっぱ全国レベルだからメンタルに影響するんだってさ!」


 重い……今日初めて会った私に話してイイ内容だろうか?


「それにしてもヒドイ話ね……その顧問も教育者としてどうかと思うわ!」


 こんな話を聞いたら、きっとスーザンも憤慨するに違いない。


「まぁ、ウチも残される側だったらどうかな? って考えたんだけど、やっぱり全体の士気に関わるコトなら……来てほしくないなぁって思っちゃった」


「そんな……」


 こんな話を聞かされて、どう返したら良いかわからずに口ごもる。


「とにかく! 軽音部に仮入部したからには、文化祭で結果残して正式な部員を目指そう!!」


 音楽室を後にして、この僅かな時間で妹尾梓の過去を聞かされたが、彼女はそんな辛い境遇を、おくびにも出さないよう甲斐甲斐しく振る舞っていた。


「でも……何か巻き込んじゃってゴメンね? さっきも言ってたけど、ウチ、あんまり友達居ないから」


「アハハ! 巻き込んだっていう自覚はあったのね? まぁ……部活に在籍しなきゃならないっていうのなら、仕方無いじゃない? 改めて宜しく、妹尾さん」


 話しながら歩いていると、いつの間にか昇降口に到着しており、私は立ち止まって妹尾梓に右手を差し出した。


「じゃあ……友達としても、これからよろしく! あと、妹尾さんて呼びづらいでしょ? アズサでイイよ。ハネザーさんは……はねぴょんでイイ?」


 何故かはわからないけれど、地方自治体や空港などの利権が頭を過る。


「いや、たぶん色んな意味でダメだと思うから……エリカでイイわ」


 私とアズサは、下駄箱の前で固い握手を交わした。

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