カフェ・ド・鬼/電気グルーヴ
他者との距離感が近い……こういう人は昔から苦手だった、というよりも、こんなにグイグイと距離を詰めてくるクラスメイトなんて、今まで出会ったコトが無いから正直怖い。
小学校では、週7の習い事で同級生と遊べず、アニメやマンガ、ゲームなどの会話に入れた試しが無く、中学校では父親の職業からか、真面目でお堅い生徒というイメージを持たれてしまい、所謂『ぼっち』だったにも関わらず、痩せ我慢で凛としたキャラクターを演じていたコトもあり、人を寄せ付けないオーラを纏ってしまっていたのである。
そんな私も、アメリカでの生活でやや社交的になれたような気がしていたが、こちらの意思を汲み取るコトなくパーソナルスペースに侵入してくる相手と、いざ対峙してみると恐怖を覚えるモノだ。
「え、えぇ、はじめまして妹尾、さん? 私、羽根澤絵里香。エリーチカじゃなくてエリカだから……あは、アハハハ」
まぁ色んな方が居て当然でしょう。きっとこのコも、明日には私に対する興味なんて失くなってるハズだから、あと少しだけ耐えれば大丈夫……だと思う。
「うん。よろしくー♪ ……ところで、ハネザーさんて部活は何部に入る予定?」
部活? この時期に部活? 卒業まで大した期間も無いのに、そんなの入るワケないじゃない……
「部活……っていうと、その、部活動のコトかしら? そう言われても、通常なら3年生は引退する時期だろうし、そもそも私、どの部にも入る予定が無いのだけれど……」
「え! そうなの? おかしいなぁ……転入生とか帰国子女って免除になるのかな? あのね? この学校って卒業まで何かしらの部活に入部してなきゃならないんだけど……知らなかった?」
聞いてないわよそんな校則! だいたい部活動必須なんて時代錯誤もイイところじゃない!!
「ゴメンなさい……知らなかったのだけれど、参考までにセノオさんは何部に入ってるのかしら?」
これはたぶん、自分の部活に勧誘してくるつもりね? まぁそれならそれで、入部だけして幽霊部員で卒業を待てば良いだけじゃない。
「え、ウチ? ウチも今は部活入ってないよ? 元々入ってたトコは先月で退部しちゃったから!」
この時期に退部する意味がわからない……想定していたパターンがハズレて、自分の持っている引き出しが空になってしまった。
「だから、転校してきたばっかのハネザーさんと一緒に、どっか入ろうと思って! ほら、1人より2人の方が心強いじゃん?」
何か巻き込まれた感じはするけれど、知ってしまった以上は、いずれかの部活に入部しなきゃならなそうな気がしてきた。
ただ、たとえ幽霊部員だとしても、今さら入ってきて先輩面されるのは、無駄に後輩から嫌われそうでイヤだ。
「じゃあ……セノオさんは私と同じ部活に入ろうとしているのかしら? どこかアテがあるのならご意見を聞きたいのだけれど」
ここは新参者の私より、この学校の在籍期間が長い彼女に倣った方が得策だろう。
最上学年なのだから、きっと部長や副部長に友達が居て、緩い部活にコネで入部する際、私も一緒の方が気まずくないと考えているのかもしれない。
「アテ? ウチのコト迎え入れてくれる部活か……えーと、うーん、無いよ!」
「いや、無いってコトは無いでしょ? ほら、同級生の友達が居る部活とか……」
アテがあって誘いに来たワケじゃないのかしら? 高3で部活入るのに手探りって……
「ウチ、学校の友達ってあんまり居ないんだよね? 前の部活の部員ぐらいしか絡んでないし……あ、でも1人だけ話したコトある人が居たわ!」
友達居ないって、何か人格的に問題でもあるのかしら? 前の部活も辞めなければ良かったのに……いや、もしかしたら人格的に辞めざるを得ない状況だったのかもしれないのか。
「とりあえず……その人の部活を訪ねてみたらどうかしら? 友達とは言えなくても、お互いに面識あるなら話がしやすいかもしれないし。じゃあ、頑張ってね?」
可能であれば、深く関わらない方が良さそうという勘が働いて、見たコトもない相手に妹尾梓を押し付け、改めて帰途につこうとした。
「アハハ! いや頑張ってじゃなくて、ハネザーさんも一緒に行くんだってば!!」
どさくさに紛れて帰ろうと思っていたけれど、やはりそう簡単には解放してくれそうになく、妹尾梓は私の手首をガッシリと掴み、教室を出て廊下を歩き始めた。
彼女が向かっている部活が、運動部なのか文化系の部活なのか、わからないまま連れられていたが、階段を駆け上がり最上階に到着したので、文化部であると思われる。
廊下の突き当たりにある金属製の分厚い扉の上には、『音楽室』と書かれていたので、きっと吹奏楽部か合唱部だろうか?
「失礼しやーす! 誰かいませんかね?」
そもそも今日が、その目当ての部活がある日なのかどうかも不明のまま、妹尾梓は重々しい扉をガチャリと開けた。
「誰も居ないけれど……今日は活動日なのかしら?」
がらんとした音楽室は、机と椅子が部屋の後方にまとめられており、合奏も合唱もしやすそうなスペースが確保されているが、無音で静寂が耳に突き刺さるほどである。
「え? 部活って毎日あるんじゃないの?」
それはその部の方針によるでしょう? もしかして行き当たりばったりで行動してる……っぽいな、このコだったら。
無人の教室内を、ウロウロと歩き回る妹尾梓を眺めていると、扉が開く音がした。
「オイ! 誰だお前ら? 勝手に入ってんじゃねぇよ!!」
声の方を向くと、ここが女子校でなければ男性と見紛うような長身の、首もとまでジップアップしたジャージを纏った黒髪ロングヘアーの生徒が立っていた。
顔は黒いマスクをしていてよく見えないが、尖ったデザインマスクは暴走族やヤンキーが装着しているモノのようで、明らかにヤバい人に絡まれてしまったと感じた。
「あ! 鬼畜だ!!」
そんな怖い見た目の女子生徒に対して、臆するコトなく妹尾梓は声を掛ける。
「あぁ? くだらねぇ呼び方してんじゃねぇよ! テメェ!!」
友達が居ないという妹尾梓は、『鬼畜』と呼ばれている彼女を訪ねていたのだろうか?
もう完全に、ひと波乱起こりそうな予感しかしないのだけれど……




