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みそギ!~三十路で始めるギター教室~  作者: ボラ塚鬼丸
Heart-Shaped Box編
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カレーライスの女/ソニン

『♪~』


「そうそう! イイじゃんアミオさん」


 ミチヨとエリカの言う通りにギターを弾き語ってみるが、ホントにコレで良いのだろうか?


「……あのさ、サビのトコでEからFに行くのが難しいんだよね? ダウンピッキングでストロークのリズムが変わって……Big me talk ab……」


「ちょ、おい!やめろ!! ……アミオさん、マジでいい加減にしなさいよ?」


 やっぱり歌うとミチヨに怒られるんだよなぁ。


『♪~』


「そう! その感じ。それならリズム崩れてないよ」


 いや、心配なのはリズムだけじゃないんだけど……


『♪~』


「うん。英語の発音も良くなってるわね。じゃあ、時間も遅いから今日はこの辺にしておいたらどうかしら?」


 実感は湧かないが、そう言ってもらえるなら良しとしよう。


「ってコトで、アタシ達はそろそろ帰るよ。さっきも言ったけど、明日はスタジオ練習お休みだから自主練しといてね? くれぐれも、勝手に歌詞で歌わないように!」


 だからそれがわからんのよ……まぁ言う通りにするしかないけど。とりあえず、落ち着いて風呂にでも入って寝るか。


 ユウコとのスタジオまで、あと一週間程度しかなく非常に不安ではあるが、明日は俺も仕事が休みなので、昼間からギターの練習でもしよう。




 翌朝は、前の晩に深酒しなかったおかげで、スッキリとした目覚めであった。


 真夏なので、涼しい午前中に掃除や洗濯を終わらせ、昼からはギターをハードケースから取り出して練習に勤しむ。


 傍らにユウコから貰ったA3コピー用紙を広げ、スマートフォンでFoo Fightersの『Big Me』を動画サイトで流しながら、存分にギターを弾きまくった。


 正直、Tab譜を目で追いかける余裕は無いので、ヴォーカルパートの五線譜の上に書かれているコードしか見ていないのだが……


 しかし、どんなに大きな音を出しても壁を叩かれなかったので、隣人はおそらく仕事にでも行っているのであろう。


 こんなコトが出来るのも、土日に出勤のあるサービス業ならではである。


 飽きもせず同じ曲の練習を延々と続けていたが、夕暮れが近づくと西日で全身汗だくになり、美しい真っ赤なギターのボディを、右腕から滴る汗で濡らしてしまいそうになった。


 家の中でも熱中症になるコトがあると、テレビで言っていたのを思い出して、練習を切り上げ冷蔵庫の麦茶をガブ飲みする。


 どうせスタジオ練習が無い日は、ミチヨとマキが部屋に来てメシの催促をしてくると思ったので、肉の入っていないカレーを大量に作ってやったのだが、きっとこんなモノは30分もあれば空になるだろう。


 日が完全に落ちた頃、案の定といった感じで玄関のドアが叩かれた。


「お! 今日はカレーっすか? アミオさんはわかってるねぇ。んじゃサクラとエリカも呼んじゃお♪」


 家で一番大きい鍋で作ったカレーが、一瞬で無くなる予感は的中。


 肉が入っていないというクレームに続き、辛いアテはビールに合わないというミチヨの意見により、キッチンの戸棚に入っていた焼酎を勝手に空けられたのは想定外だったが……


 っつーか、なんでソコに入ってるの知ってんだよ!


「いやぁアミオさん! アタシ達はね、アミオさんがどんなバンドに入っても、恥ずかしくないようなギタリストに育て上げたいんすよ!」


 安い発泡酒ではなく、俺の秘蔵の焼酎だからか、いつもとミチヨの酔い方が違う気がする。


「そうですよ! マツノさんが上手くならなかったら、借金のカタにギター教えてる甲斐が無いんですから!!」


 すっかり出来上がったサクラの絡み方も、面倒臭いオッサンのようだった。


「はいはい。お陰様で上達してますよ。だからこうやって、出来る限りのおもてなしをさせていただいてるんじゃない」


 サクラに関して言えば、質流れからギターを救ってやった時点で義務は果たしている気もするが、わざわざスタジオ練習に付き合ってもらっているので、大人としての礼節はわきまえているつもりである。


「でもさ、アミオくんがバンド楽しめるようになったらイイよね?」


「そうね。そうなってくれたら私達も嬉しいわね」


 恩着せがましくない、マキとエリカの期待には、純粋に応えたいと思った。


「うん。ホントありがとう。俺も頑張るよ」


 また明日からスタジオ練習が始まるが、以前のような緊張や不安は無くなっているように感じる。


「じゃあアタシ達も頑張って教えるから、今度からはカレーに肉入れてよ!」


 ホントにコイツだけは……




 翌日からは、再び仕事帰りに一つ前の駅で降りてスタジオの階段を上り、爆音に身を晒す日々が続いた。


 演奏は問題なく出来るようになったのだが、曲のコードチェンジを意識し過ぎた結果、4拍目で身体が真上に伸びる癖が付いてしまったようだ。


 小学校の音楽の時間に、伴奏を気にして前後に揺れながらリコーダーを吹く同級生女子や、合唱コンクールで指揮者の動きに合わせ、眉を上下させながら歌う他校の生徒を思い出していた。


 そうしてL☆Dとの練習の日々が終わり、ユウコとの初スタジオの日は、いよいよ明日に迫っていた。




「ま、アタシ達もやるだけやったから大丈夫でしょ?」


「他の人の演奏が聞こえなくても、焦らず集中を切らさないように!」


 自分が今まで生きてきた中でも、この数日はよくやった方だと思うし、注意点も頭と身体にしっかりと叩き込んだという実感がある。


 最後の事前練習が終わった時に、ちょうどユウコからメッセージが届いた。


『お疲れさん! 明日は19時に渋谷の「ポワトリン」てスタジオ集合で!』


 続けて地図アプリのURLが送られてきたので、集合時間の10分前に設定して経路案内を確認する。


 未だ見ぬ歳上のメンバーが、怖くない人であるコトに期待しつつ、自宅を目指しギターを抱えて夜の住宅街を歩いた。

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