Train Tracks/Izzy Stradlin and the Ju Ju Hounds
完全な二日酔いで業務に就くハメになったのは、当然のコトだがL☆Dの4人に付き合って深酒したのが原因だった。
頭数が増えたコトで気が大きくなったのか、散々っぱら飲み食いする彼女達を見ていたら、ついついワリカン負けしたくないという貧乏性に火が点き、ピッチが上がってしまったのだ。
飲み過ぎたコトを自覚した頃に、4人の手持ちが合計で2,000円しか無いとか何とか言われ、驚きと共に興奮したのが悪かったのだろう。
一気に酔いが回って帰宅時のコトはよく思い出せない……が、財布がほぼ空に近い状態というのは、やはりそういう結果だったようだ。
どういう配分か知らんが、4人の所持金合計が2,000円て……部活帰りの高校生だってもう少し持ってるだろうが!
騙し騙し午前中の業務をこなして、休憩室の隅で項垂れていたのだが、最近ずっとこんな調子な気がした。
そもそも誰かと休憩時間中に談笑するコトなど無いが、オオノに『最近変わった』と言われてからというモノ、自分がどんな感じで、どうやって職場に溶け込んでたんだろうか? と考えてしまう。
「お、ギター青年! 練習しとるかね?」
と、このように俺に話し掛けてくる人も、ゼロだった頃からは確実に増えている。
「練習……してますよ。してますけど、不安しか無いっす」
ユウコは、俺が突っ伏しているテーブルの右隣のイスを引くと、背もたれに肘を掛けてこちら向きで座った。
「別に上手くやろうとしなくてイイよ。末野くんが楽しかったら」
楽しくやる……『音』を『楽しむ』と書いて『音楽』なんて言葉は、明けない夜は無いとか、止まない雨は無い、ぐらい擦り倒されてる感じがしたので、あえて口には出さなかった。
「楽しむだけの余裕があればイイんすけどね……ユウコさんはバンド楽しいっすか?」
「え! ワタシ? んーまぁ楽しいっちゃ楽しいけど……半分は意地みたいなトコもあるかなぁ?」
意地? そこまで深い話はしていないが、楽しいコト優先で生きていそうな印象だっただけに意外だった。
「アハハ、意地でやってるんすか! っていうか何に対してです?」
「何に対してかって言われると、その辺は複雑だなぁ……」
「まぁ複雑なら追及しませんけど……俺も楽しめるぐらいにはなりたいモンです」
変な地雷踏んで、イヤな思いをさせても申し訳ないので話題を切り替える。
「末野くんは、きっちりギター弾けるようになるトコからだね?」
いつの間にか、相手を気遣って会話らしい会話が出来ているコトに、自分でも驚いた。
「とりあえず、これから毎日練習しますけど……あんまり期待しないでください」
特に理由は思い付かないが、スタジオでサクラ達から特訓を受けるコトになったのは、ユウコには話さないでおこうと思った。
「あと10日ぐらいだから、しっかり練習しといてね?」
そう言い残して、ユウコは男前な後ろ姿で立ち去った。
二日酔いが改善する間もなく、今日も仕事終わりでスタジオである。ギターは昨晩そのまま置いてきてしまったが、さすがに今日は飲みには行かず、真っ直ぐ持ち帰って練習したい。
重い足取りで、自宅の最寄り駅から一つ手前で電車を降りて、前日同様にスタジオへ向かう。
「お、アミオさん! 昨日はご馳走様でした♪」
「お、おう。お疲れ」
ミチヨから、開口一番お礼と共に深々と頭を下げられてしまい、昨晩の飲み代に言及するタイミングを失った。
そういうトコ、ちゃんと心得てるのがズルいんだよなぁ……
「あー、マツノさん。まだ他のお客さん入ってるんで、あと30分ぐらい待っててもらえます? ロビーで……ってココのベンチのコトですけど、ギター弾いててイイんで」
「ボクたちが教えとくから大丈夫だよ。んじゃアミオくん、ギター出しといて?」
重々しい金属製の扉の奥からは、うっすらと他の客の演奏が漏れ聴こえており、そちらに気を取られているウチにマキからハードケースを渡された。
まぁ急いでいるワケじゃないし、アンプを通して弾いて以降、ギターの練習が出来ていなかったので丁度良かった。
「私が昨日弾いてたところ、ちゃんと覚えてる? Tab譜の読み方も理解出来てるかしら?」
唯一しっかりと楽譜が読めるエリカに『理解出来てるか?』と訊かれると困る……解ってる人とは、そもそも理解のレベルが異なるからなぁ。
「理解っていうか……昨日は練習したかったのに、帰らせてくれなかった人達が居たんでね」
結構な割合で皮肉を混ぜたつもりで返したのだが、エリカは不敵な笑みを浮かべるだけだった。
「結果的に、昨日はアミオくんにご馳走になっちゃったけど、それとギターの練習は別モノだからね?」
弾けなかった時の保険で言ったつもりだったのだが、どう『結果的』に俺がご馳走させられるハメになったか、コイツらホントに覚えてないんだろうか?
「まぁまぁアミオさん、とりあえず一通り弾いてみたら?」
器の小さい男と思われるのは癪だが、ミチヨよ、お前が言うな! まぁまぁじゃねぇわ。
出来る限り自分の感情を押し殺して、ギターを膝に乗せチューニングする。この辺りの動作には、自分的にやや慣れてきたと思う。
「じゃあ……いきます!」
左手でグーパーを繰り返してから、リラックスしたところでCのフレットに指を下ろし、オリジナルよりも若干遅いテンポでカウントを取る。
俺のピッキングが不安定というコトもあるが、アンプを通して弾いた音に比べると、ムチャクチャ弱々しく貧相な音色がギターから鳴った。
CからAmは薬指を外すだけなので、楽にコードチェンジ出来たし、そのままsus4すっ飛ばしてG。
危うい感じではあるがFも何とか鳴るようになり、その進行をもう2回しでAメロのパート。
弾きながらだとさすがに歌は歌えないが、ミチヨが鼻歌でメロディラインをガイドしてくれていた。
コードがFからEに移り、Bメロに突入する。Eから再びFへの移行が難しく、リズムが崩れてミチヨが笑い、鼻歌も吹き出しそうになっている。
曲の構成は2パターンしかないので、コード進行も覚えやすいのだが、逆に単調で誤魔化しが利かず、グダグダのままエンディングを迎えてしまった。
「左手おっそい! 激遅!! コードチェンジがモタモタしてて『イィィィィ!!』ってなっちゃうから! あと、右手のリズム悪い」
批評が早い。落ち込む隙すら与えてくれないのね。
「自分でも遅いのは気付いてるんだけどね……これってやっぱ反復練習なんでしょ?」
「そうなんだけど、アミオくんの場合はオンタイムの"間"が身体に染み付いてない」
染み付いてないっつったって、ちょっと前まで完全な素人なんだから、そりゃ当然だと思うんだけど。
「そうね……じゃあ、わかりやすい曲で4拍のサイクルを叩き込んだらどうかしら?例えば、私達の持ち曲とか」
「おー、イイね。じゃあアレやろう!! アミオさん、スタジオ空いたらアタシらの曲も追加で演るから」
あらエリカさん? 余計なコト言ってオジサンの負担増えちゃってません?
コレ、まともにギター弾けるようになるんだろうか? 俺。
危ねえ……更新忘れてた!!




