Brand New Song/聖飢魔II
初めてのスタジオ体験を終え、ケーブルを纏めてギターをケースに仕舞うと、L☆D (覚えておいでの方もいらっしゃると思うが、サクラ達のバンドであるリトル☆デイトの略)の練習が始まった。
俺に付き合って演奏していた時とは違い、4人は遠慮なくバチバチとお互いのスキルをぶつけ合っていた。
能力モノのアニメや映画だったら、きっと音圧にバチバチと衝撃波や雷のようなエフェクトが掛かり、この密室ではポ◯モン症候群を引き起こしそうな勢いである。
ライブで聴いたコトのある曲も、ステージと客席という距離や隔たりが無い分、各パートの迫力ある演奏が目の前で巻き起こる。
何かのTV番組企画で、有名バンドのプライベートライブに招待されたファンのように、アーティストが自分の為だけに演奏してくれているような気持ちになってしまい、不覚にもやや興奮していた。
「あ、サクラ! さっきのサビからCメロに行くトコだけど、ロールっぽいオカズじゃなくて、ドン! ドン! みたいな単発にしてみてくれない? 何か垂れ流しっぽくてメリハリが無いわ」
「うん、わかった。サビから一回通す?」
「いや、ちょっと待って! あのさ、サビ前のブリッジ、いまギターのリフ4回しだけど2回しにしない? なんかスッキリしないんだよねー。野暮ったいっていうかドン臭い感じがする」
「そうね。歌い出し待ってるの長く感じるから、その方が良さそう」
「んじゃブリッジ2回でCメロのオカズ変えてみるから。Bメロの後半からやるね? 1.2.3.4」
普段はあんなにも適当なミチヨが、サクラに対して注文しており、マキもエリカも遠慮なく完成されたと思われる楽曲を壊していく。
素人目には、何の問題も無いと思っていたその曲が、そこの部分だけ改善して演奏されると、やはり直前に聴いた楽曲よりも明らかに聴きやすく、格好良かったコトに驚いた。
バンドの曲が出来上がるのって、こういうマイナーチェンジを繰り返して生成……というか、精製されてゆくのだと初めて知った。
「なんか忙しない構成になったね……ライブ間違えそうだから、一回アタマから通してやってみようか? あ、マツノさん! スマホで録音してもらってもイイですか?」
「え! 俺のスマートフォンで? デフォルトのボイスレコーダーアプリぐらいしか入ってないよ?」
「後で確認するだけだから、そんなに音質は気にしないよ! 終わったら共有してくれれば大丈夫」
大丈夫って言われても心配だわ……ポケットからスマートフォンを取り出して、ミチヨに指示された通りにこれまで使ったコトのないアプリを立ち上げ、録音スタンバイの状態にしておいた。
「んじゃやろうか! 録音スタートお願いします」
戸惑いながらも画面表示された赤いボタンをタップすると、不安な俺をよそに演奏が始まった。
前半は問題なく進み、先ほど構成を変更した箇所に差し掛かると、4人はアイコンタクトを取りながら、曲は後半に雪崩れ込む。
ブリッジは2回しでサビに入り、一度しか来ないCメロの導入はメリハリのあるドラムの装飾音。
さっき4人が話していた時は、何のコトを言っているのかさっぱり理解できなかったが、編曲の過程を知った上で演奏を聴いていると、つい録音しているコトを忘れて感嘆の声を上げそうになってしまった。
曲がエンディングを迎えると、サクラが俺に向けてスティックで×印を作ったので、レコーダーアプリの停止ボタンをタップした。
「うん、良さそうだね。じゃあ今日はこの辺で上がろうか!」
「はーい、お疲れ! アミオくん、ボク達が片付けてる間、いま録ったヤツ聴かせてよ」
アンプの電源を落とし、ケーブルをまとめているマキに言われたので、急いで音声データの保存先を探し、ボリューム最大で再生する。
「あら、意外と聴けるわね。今後はアミオのスマートフォンで録ってもらおうかしら?」
きっと録音させられる上に、スタジオ代のワリカン要員にされるのだろう。正直ご免被りたいモノである……が、エリカの言うとおり意外と音質も良く、各パートの音も聴き取れるコトに驚いた。
「録音担当は困るけど、音楽ってこうやって出来るんだね? 初めて知ったよ。俺、作曲者が楽譜とか書いて、それ見て演奏するんだとばっかり思ってたから」
「アハハ! ちなみにアタシ達、ほとんど楽譜なんて読めないから、当然書けるワケないんだけどね?」
「え! 読めないの? 楽譜。マジで? じゃあ、もらったコレはどうしたら……」
クタクタのトートバッグから、昼間ユウコに渡されたコピー用紙を取り出す。
「おぉー! バンドスコアのA3コピーって、なんか懐かしいね。ボクも持ってたなぁ」
「あー、高校生の頃なんて財布事情に余裕無いから、アタシかマキのどっちかが買って、こっそり学校で大量にコピーしてたよね?」
買ったりコピー取ったりしてるんじゃないか。楽譜読めないのに必要なのか?
「私はピアノやってたから読めるけど、それ、アミオはちゃんと見たの?」
「あ、エリカは読めるんだ? ……いや、楽譜なんて中学校の音楽の授業以来だよ。当時も読めなかったけど、普通に生きてたらお目にかかるコトなんてないから」
そもそも、線の上にオタマジャクシが羅列している印刷物を解読して、楽器が演奏できるシステムが理解出来ん。
「ちなみに私、ドラムの楽譜なんて英語の文章読むより時間掛かるぐらいだけど、特に困ったコト無いですよ?」
サクラに言われて、Drumと書かれた部分を見ると、黒いオタマジャクシ以外の記号が目立つ……あれ? 楽譜って五線譜って言われるぐらいだから、線は5本のハズだよな?
「ってコレ、よく見たらギターは6本線でベースは4本線じゃない? 誤植? 印刷ミス? しかも数字書いてあるし」
「誤植なワケないじゃん! それTab譜って言うんだよ。何弦の何フレット押さえるか書いてあって、その通りに押さえれば譜面どおりの音が鳴る仕組みだから」
「まぁ……あとは耳コピだね。アミオくんの場合、何回も曲を聴いてリズム覚えるのが優先だと思う」
コードの表といいTab譜といい、譜面が読めなくても何とかなりそうという希望が湧いてきた。
「なんか俺にも出来そうな気がするよ! 早速帰って練習するわ」
「いやいやいや、アミオさん! 今日は記念すべきスタジオデビューの日ですぜ? ここは祝杯を挙げるべきでしょ!!」
怖い……ミチヨのこういうトコ、ホントに怖い。
「あのさ……ミチヨさん? そんなコト言って、次回も○○が弾けた記念とか、いちいち理由つけてタカろうって魂胆だろ?」
ミチヨは、俺に見透かされたコトに驚いている様子だった……っつーか、コッチはお前にどんだけ騙されてると思ってんだよ!
「ま、まぁまぁ、マツノさん。今日は初回なんで、軽く打ち上げ的な会でも開きましょうよ! 近くに美味しい焼き鳥屋さんもあるんで」
間髪入れずにサクラがミチヨに乗っかってきた。こういう時の彼女達のチームワークには頭が下がる。
いつの間にか片付けは終わっており、スタジオ代はキッチリ五等分で支払わされ、店の施錠のためサクラだけを残して、俺は3人に連れられ通りを出たところの焼き鳥屋に連れ込まれた。
自発的にギターを練習したいという気持ちをへし折られた俺には、ここの払いもキッチリ五等分なんだろうか? という不安しかなかった。




