可愛いアノ娘/Th eRockers
「ところでスェーノさん、ちょっとご相談があるんすけど……」
職場での架電が一段落ついて、休憩前のタイミングで、不意に問題児のオオノが話し掛けてきた。
「スエノだから、ス! エ! ノ! スェーノだと、清野さんみたいになっちゃうでしょ? 俺は北区赤羽じゃなくて、大田区池上だから!!」
「何のコトかよくわかんないんすけど、相談乗ってくださいよ……とりあえず喫煙所行きましょーよ!」
一時の気の迷いで吸ったタバコは、あれから一度も吸ってないにも関わらず、俺は無理矢理に喫煙所へ連れて行かれた。
「いや、俺もうタバコ吸わないんだけど……」
そんな俺のコトなどお構い無しに、オオノはポケットから取り出したボックスから、タバコを一本抜き取って火を点け、ついでといった感じで数本飛び出した箱を俺に差し出すが、それを制すと吸い込んだ煙と共に話始めた。
「まぁ聞いてくださいよ! 折り入って相談なんすけど……俺と同期のアズサちゃん居るじゃないっすか? 妹尾梓ちゃん。俺……あのコのコト好きになっちゃったんすよね」
ほう。同僚に恋をしたと。ただ、何故それを俺に相談するのだろう?
「……お、おう。そうか……それじゃ頑張ってくれたまえ」
自慢じゃないが、恋愛経験など最近の小学生以下である。励ましの言葉と大きな頷きで、その場を立ち去ろうとしたが、ガッシリと腕を掴まれる。
「ちょ! ちょっと!! ソコでなんすけど、スェーノさんて見るからに恋愛奥手じゃないっすか? だから、一般論として聞きたいんすよね……彼女、俺のコトとかどう思ってますかね?」
「知らねぇよ! っつーか、見るからに恋愛奥手で悪かったな!! 仰る通りだよコノヤロー!」
やや大声を張り上げるが、オオノはヘラヘラしていて何も響いていない様子だ。
「いや、ほら、職場のSVとして? 俺よりも彼女と接する機会多いじゃないっすか! あのコ……俺のコト何か言ってませんでした?」
いや、言ってるワケねぇだろ? コイツは何を根拠に職場でモテてると勘違いしているのだろうか?
「何か……って、特に何も言ってないけど?」
勘違いを助長させても困るし、ヘタな色恋沙汰で職場の空気が悪くなるのも御免である。
オオノは、俺が何の情報も持っていないコトを知ると、深い溜め息をついた。
「あのさ……ガッカリされても困るんだよね。だいたい君は職場に何をしに来てるのかね? ナンパなら他所でやってくれる?」
これは早々に諦めさせて、業務に専念してもらう方向だな。
「冷てぇなぁスェーノさん! 部下が困ってるんだから、そこは泥船に乗ったつもりで! って引き受けるべきじゃないっすか!!」
うん。沈んじゃうね……泥だから。まぁ、あながち間違っちゃいないんだけど。
「泥船じゃなく大船な? カチカチ山か? まぁ……まず、そういうトコじゃないか? 直すべきは」
「まぁ……船の構造とか詳しくないんでアレっすけど、とりあえず彼氏とか居るか探ってくださいよ」
何故このやり取りで、俺が快諾したと思うのだろうか? 若いって怖い。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! 俺そういうの苦手だから……」
「またまたぁ~スェーノさん! 最近オペレーターのみんなから、面倒見が良くなったとか、頼りになるって評判ですよ? 前は死んだ魚みたいな目をしてたのにって」
悪口か? 悪口なのか? スタッフみんなで俺のコト、そんな風に言ってるのか?
「死んだ魚みたいな目のヤツに相談するか? 普通」
「いやいやいや、"前は"ですって! 今はそんなコトないですから! っつーか、最近変わりましたよね? 取っつきやすくなったっていうか……何か良いコトでもありました?」
落ち込むなぁ……ちょっと前までは、みんなから暗くて取っ付きづらいと思われてたのか。
「良いコトなんて無いよ……友人の訃報を知ったり、人前で恥かいたり、むしろ悪いコトしか無い」
「マジっすか……俺、てっきりアイちゃんと付き合い始めたのかと思ってましたよ」
「は? ちょ、え? 何が? ……っつーか、アイちゃん? ってのはアレか? 正社員の佐向亜依子さんのコトを言ってるのか? だとしたら……付き合ってねぇよ!」
っつーかコイツ、何を馴れ馴れしく『アイちゃん』なんて呼んでるんだ?
「……そうっすよねぇ? まぁさすがにそりゃ無いっすよね? スェーノさんには荷が重いっつーか、手に負えない感じっすから」
「そ、そうだよ! だいたい、何で俺と佐向さんなんだよ!!」
いや、コレどっから話が漏れてんだ? 俺が彼女に想いを寄せてるなんて、誰にも言ってないハズなのに。
「え? だって好きですよね? アイちゃん。いっつも目で追ってるし、アイちゃんと話してる時って、明らかにキョドってて他の人と違うし」
漏れてんの俺かー! もうコレ、話逸らすしかないじゃないか。
「はいはいはい、もうイイだろ? こんな話止めよう。もう恋は終わり!!」
パンパンと手を叩いて話を遮る。
「いや、俺そういう
『蒙古岩 or 李』
みたいな、ことわざ詳しくないんで、難しいコト言われてもわかんないっすよ」
「俺だってそんなことわざ知らねぇよ! だいたい途中で英語入ってることわざなんて無ぇし、そんな二択に直面する機会無ぇから!!」
モンゴルの岩と、中国籍と思われる人を選ぶってどんなシチュエーションで、一体どんな教訓が隠されてるってんだよ……
「あー、そうなんすか……まぁ、スェーノさんにはアイちゃんより、もっと手堅い女性の方がイイと思うんすけどね」
手堅いってなんだよ……オオノほどの若さも、誇れる特技や才能も無い俺は、理想を高く持つなってコトなのか?
「まぁ、アレだ。とにかく俺はキューピッド的な仕事は出来ないから! 立場上も経験上も!!」
自分がどうにもなってないってのに、人の恋愛にどうこう言えるワケがないのだ。
喫煙所を出ると、オオノは吸っていたタバコを灰皿で揉み消して、急いで後ろを付いてきて、引き続いてあれやこれやと俺に協力をあおいだ。
ギターが弾けるとか弾けないに関わらず、そもそも俺が佐向亜依子には釣り合わないのだと、自他共に認めてしまうのは怖かった。
だいたい俺に相応しい女性なんて存在するのだろうか?
ああ、もうどこか俺の知らないパラレルワールドでも構わないから、せめて幸せになっている自分が居てくれたらと切に願いながら、オペレーションルームに戻った。
ってコトで、連載再開しましたので新章も宜しくお願い申し上げます♪




