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みそギ!~三十路で始めるギター教室~  作者: ボラ塚鬼丸
Heart-Shaped Box編
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可愛いアノ娘/Th eRockers

「ところでスェーノさん、ちょっとご相談があるんすけど……」


 職場での架電が一段落ついて、休憩前のタイミングで、不意に問題児のオオノが話し掛けてきた。


「スエノだから、ス! エ! ノ! スェーノだと、清野さんみたいになっちゃうでしょ? 俺は北区赤羽じゃなくて、大田区池上だから!!」


「何のコトかよくわかんないんすけど、相談乗ってくださいよ……とりあえず喫煙所行きましょーよ!」


 一時の気の迷いで吸ったタバコは、あれから一度も吸ってないにも関わらず、俺は無理矢理に喫煙所へ連れて行かれた。


「いや、俺もうタバコ吸わないんだけど……」


 そんな俺のコトなどお構い無しに、オオノはポケットから取り出したボックスから、タバコを一本抜き取って火を点け、ついでといった感じで数本飛び出した箱を俺に差し出すが、それを制すと吸い込んだ煙と共に話始めた。


「まぁ聞いてくださいよ! 折り入って相談なんすけど……俺と同期のアズサちゃん居るじゃないっすか? 妹尾梓ちゃん。俺……あのコのコト好きになっちゃったんすよね」


 ほう。同僚に恋をしたと。ただ、何故それを俺に相談するのだろう?


「……お、おう。そうか……それじゃ頑張ってくれたまえ」


 自慢じゃないが、恋愛経験など最近の小学生以下である。励ましの言葉と大きな頷きで、その場を立ち去ろうとしたが、ガッシリと腕を掴まれる。


「ちょ! ちょっと!! ソコでなんすけど、スェーノさんて見るからに恋愛奥手じゃないっすか? だから、一般論として聞きたいんすよね……彼女、俺のコトとかどう思ってますかね?」


「知らねぇよ! っつーか、見るからに恋愛奥手で悪かったな!! 仰る通りだよコノヤロー!」


 やや大声を張り上げるが、オオノはヘラヘラしていて何も響いていない様子だ。


「いや、ほら、職場のSVとして? 俺よりも彼女と接する機会多いじゃないっすか! あのコ……俺のコト何か言ってませんでした?」


 いや、言ってるワケねぇだろ? コイツは何を根拠に職場でモテてると勘違いしているのだろうか?


「何か……って、特に何も言ってないけど?」


 勘違いを助長させても困るし、ヘタな色恋沙汰で職場の空気が悪くなるのも御免である。


 オオノは、俺が何の情報も持っていないコトを知ると、深い溜め息をついた。


「あのさ……ガッカリされても困るんだよね。だいたい君は職場に何をしに来てるのかね? ナンパなら他所でやってくれる?」


 これは早々に諦めさせて、業務に専念してもらう方向だな。


「冷てぇなぁスェーノさん! 部下が困ってるんだから、そこは泥船に乗ったつもりで! って引き受けるべきじゃないっすか!!」


 うん。沈んじゃうね……泥だから。まぁ、あながち間違っちゃいないんだけど。


「泥船じゃなく大船な? カチカチ山か? まぁ……まず、そういうトコじゃないか? 直すべきは」


「まぁ……船の構造とか詳しくないんでアレっすけど、とりあえず彼氏とか居るか探ってくださいよ」


 何故このやり取りで、俺が快諾したと思うのだろうか? 若いって怖い。


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! 俺そういうの苦手だから……」


「またまたぁ~スェーノさん! 最近オペレーターのみんなから、面倒見が良くなったとか、頼りになるって評判ですよ? 前は死んだ魚みたいな目をしてたのにって」


 悪口か? 悪口なのか? スタッフみんなで俺のコト、そんな風に言ってるのか?


「死んだ魚みたいな目のヤツに相談するか? 普通」


「いやいやいや、"前は"ですって! 今はそんなコトないですから! っつーか、最近変わりましたよね? 取っつきやすくなったっていうか……何か良いコトでもありました?」


 落ち込むなぁ……ちょっと前までは、みんなから暗くて取っ付きづらいと思われてたのか。


「良いコトなんて無いよ……友人の訃報を知ったり、人前で恥かいたり、むしろ悪いコトしか無い」


「マジっすか……俺、てっきりアイちゃんと付き合い始めたのかと思ってましたよ」


「は? ちょ、え? 何が? ……っつーか、アイちゃん? ってのはアレか? 正社員の佐向亜依子さんのコトを言ってるのか? だとしたら……付き合ってねぇよ!」


 っつーかコイツ、何を馴れ馴れしく『アイちゃん』なんて呼んでるんだ?


「……そうっすよねぇ? まぁさすがにそりゃ無いっすよね? スェーノさんには荷が重いっつーか、手に負えない感じっすから」


「そ、そうだよ! だいたい、何で俺と佐向さんなんだよ!!」


 いや、コレどっから話が漏れてんだ? 俺が彼女に想いを寄せてるなんて、誰にも言ってないハズなのに。


「え? だって好きですよね? アイちゃん。いっつも目で追ってるし、アイちゃんと話してる時って、明らかにキョドってて他の人と違うし」


 漏れてんの俺かー! もうコレ、話逸らすしかないじゃないか。


「はいはいはい、もうイイだろ? こんな話止めよう。もう恋は終わり!!」


 パンパンと手を叩いて話を遮る。


「いや、俺そういう

蒙古岩(モウコイワ) or ()

みたいな、ことわざ詳しくないんで、難しいコト言われてもわかんないっすよ」


「俺だってそんなことわざ知らねぇよ! だいたい途中で英語入ってることわざなんて無ぇし、そんな二択に直面する機会無ぇから!!」


 モンゴルの岩と、中国籍と思われる人を選ぶってどんなシチュエーションで、一体どんな教訓が隠されてるってんだよ……


「あー、そうなんすか……まぁ、スェーノさんにはアイちゃんより、もっと手堅い女性の方がイイと思うんすけどね」


 手堅いってなんだよ……オオノほどの若さも、誇れる特技や才能も無い俺は、理想を高く持つなってコトなのか?


「まぁ、アレだ。とにかく俺はキューピッド的な仕事は出来ないから! 立場上も経験上も!!」


 自分がどうにもなってないってのに、人の恋愛にどうこう言えるワケがないのだ。


 喫煙所を出ると、オオノは吸っていたタバコを灰皿で揉み消して、急いで後ろを付いてきて、引き続いてあれやこれやと俺に協力をあおいだ。


 ギターが弾けるとか弾けないに関わらず、そもそも俺が佐向亜依子には釣り合わないのだと、自他共に認めてしまうのは怖かった。


 だいたい俺に相応しい女性なんて存在するのだろうか?


 ああ、もうどこか俺の知らないパラレルワールドでも構わないから、せめて幸せになっている自分が居てくれたらと切に願いながら、オペレーションルームに戻った。

ってコトで、連載再開しましたので新章も宜しくお願い申し上げます♪

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― 新着の感想 ―
[一言] 待ってました! 相変わらずの見事で軽妙なキャラのやり取り、楽しく拝見しました。 また火曜日にお楽しみが戻ってきて、本当に嬉しいです。
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