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みそギ!~三十路で始めるギター教室~  作者: ボラ塚鬼丸
teenage riot編
60/175

Teen Age Riot/Sonic Youth

「……んで、ボク達に何か言い訳があったら聞くけど?」


 墓場での弾き語りから、約5時間ほど経過した現在、俺はイノベの寺の大広間で、マキとエリカを前にして正座をしているワケで。


「あ……いや、なんか、急にストラップの長さが気になって……ホント、ギターが低すぎるっていうか、とにかく弾きづらかったです」


「はぁ…………ギターは弾けてないわ、途中で歌詞は忘れるわ…………っつーかニャ~ニャ~言ってたのは何なの? 歌ナメてるの?」


 そうなのである。ここまで読めば大抵の皆さんはお気付きかと思うが、俺は本番で大失敗をしたワケで。


「歌詞……覚えてたハズなんすけどねぇ………やっぱ、曲を止めるよりは、ニャ~ニャ~言ってでも歌い続けた方が良いのではないか……という判断でした」


 イマイの墓前では、俺の弾き語りでアキやクレアが感動してくれたのに、本番ではコードを間違えるわ歌詞は飛ぶわ、ホントに地獄のような時間を過ごさせて頂いたワケで。


「あのさ……ボクも! エリカも! 自分の練習あったのに!! アミオ君の練習に付き合ってたよねぇ? んで、さっき弾けてたし歌えてたよねぇ? それなのに、何で先週よりヘタクソになってるかなあ?」


「そうよね……観てるこっちが恥ずかしくなるような内容だったわ……とりあえず、エレカシに謝ってくれるかしら?」


 弾き語りをミスっただけで、どうしてここまで言われなきゃならないのか……もちろん彼女達の時間を奪ってまで教わっていたのだから、キッチリやり遂げるべきだったとは思うが。


「ホント……面目ない」


 それでも俺は、深々と頭を下げるしかなかったワケで。


「いやぁ~佐世保少年! いいギターだったよ!! お姉さん感動した」


 大声の方に目をやると、広間の奥では、タダ酒でゴキゲンに酔ったミチヨが、少年の背中をバシバシ叩きながら絡んでいるのが見えた。


「あ、いや、佐世保じゃなくて伊万里ですって。長崎県じゃなく佐賀県の……」


 ミチヨは馴れ馴れしく困り顔の少年に話し掛けているが、連れの美少女が明らかに不機嫌そうにしている……早く気付いてあげるべきだろう。


「佐世保少年! 略してサセボーイでしょうが!! ……あ、何か響きイヤらしいね? サセボーイ♪」


「だから、伊万里ですって! これ……もう4回目ですよ?」


 とりあえずサセボーイって何だよ! 未成年であろう相手に対して、酒の席でホントに迷惑なヤツだ。


「ところで、あんな若いコ達の出演なんてあった? 俺が気付かなかっただけかもしれないけど……説明会には居なかったよね?」


 お説教を回避すべく、話を逸らしてみる。


「あー、なんか飛び入りで参加した高校生みたい。九州からヒッチハイクして、長距離トラックに乗せてもらって来たんだってさ」


 ヒッチハイクであんなに可愛い彼女と旅行かよ! しかもあの少年、俺と同じくらい地味そうに見えるのに……やっぱギター弾けるとモテるってコトなのだろうか?


 とりあえず、あんな可愛いコと運転中に隣でイチャつかれたら、ドライバーは悔しくて秋田のマリア像が如く血の涙を流すだろう……最近の高校生ってスゲェな。


「特にあの可愛いコ! 打ち込みに合わせてメタルっぽいギター弾いてたんだけど、ボクが高校生の頃あんなに上手く弾けなかったなぁ……」


「え! あの女の子も弾いてたの? マジかよ……自信無くすわ」


 ズブズブの素人である俺が嫉妬するのもお門違いであるが、こんなコトならもっと早くギター始めときゃ良かった。


「ちなみにアミオは……ああいうコがタイプなの?」


 俺への質問に、エリカが含みを持たせているような気がして、脳内で言葉を探し回った。


「あ、いや……タイプって言うか、まぁ……一般的に可愛いコじゃない?」


 誘惑めいた問いかけだったが、俺には心に決めた佐向亜依子が居るのだと、自信無さげに自分に言い聞かせる。


「ふ~ん。でもね、あのコ…………男の娘だよ?」


「ウっソ! ……マジで?」


 肩まで伸びた艶々で真っ直ぐな黒髪に、大きな二重まぶたの瞳と、鼻筋の通った顔立ちは、どっからどう見ても美少女そのものだった。


 俺は男子校出身だが、もしあんなコがクラスメイトだったら、

『ホントの私デビュー』

っつって、おかしな感情が芽生えていた可能性だってある。


 っつーか、最近の高校生ってホントにスゲェな……


「アミオは私とあのコ、どっちが可愛いと思う?」


 くっ……またコイツは、そんな気も無いくせに、平気で俺にそういうコトを言って困らせる。


 返事に困って見事にキョドっていると、耳元で更なる追い討ちをかけてきた。


「それとも……やっぱり、初恋の人が忘れられないかしら?」


 ビックリして正座を崩し、座敷で後退りすると、誰かの足に背中が当たった。


「あ、チェーいた!」


 振り向くと、そこにはイノベに連れられた、クレアとアキが居た。


「いやぁ~実にスエらしいライブだったよ。アタシ笑いを堪えるの必死だったんだから……あは! ニャ~ニャ~言ってたの思い出しちゃった!!」


「あのね……俺だって初心者なりに頑張ったんだよ!」


 頑張った……なんて言葉を、自分で口にしたのはいつ振りだろう? どんなに不恰好でも、何かに取り組んだ記憶がほとんど無い。


「チェー、ぜんぜんヘタクソだったよ? おそとではパパみたいにじょうずだったのに!」


「ちょ、ちょっと! クレアちゃん? ……あ、あれは、たまたま上手くいっただけだよ。グダグダになった本番がホントの俺だから」


 しかし、俺の周りがこんなに騒がしいのは、中学のあの頃以来かもしれない。


「あれ? 本番で失敗した人だ!! ねぇねぇ、なんでさっきサチオさんみたいに弾けてたのに、本番あんなダメな感じだったんですかぁ?」


 一部訂正。騒がしいのは中学の頃以来ではなく、質屋でこのコのギターを救ってからだ。


「ああもう! 初心者がイマイみたいに弾けるワケないだろ? そういうコト言ってると、一括で借金返済させるからな!」


 俺を囲む全員が、その場でドッと笑った。ただ、その中にイマイだけが居ないのは、本当に寂しい。


「ねぇチェー? また、くぅといっしょにおうたうたってくれる?」


 イマイが残したクレアが、俺を真っ直ぐ見つめてそう言ったのだが、俺にはそれが、イマイからの言葉のように聞こえてならなかった。


「うん。いいよ……これからもずっと一緒に歌ってあげるよ」


 なんだかクレアの父親にでもなるような言い種だったが、確かにこの年頃の子どもには、父親は必要だろう。


 ほんの一瞬、佐向亜依子のコトが頭を過ったが、覚悟を決めてアキの方を向いた。


「あ、あのさ……ヨシダ! イマイが居なくなって大変だと思うし、子どもも父親が必要だろうから……俺」


「ゴメンなさい! 無理です」


「いや、まだ全部言ってないから!!」


 こんな告白めいたコトを口にするのですら、生まれて初めてだったってのに、即答かよ……


「いや、さすがに無いでしょ? 旦那亡くして半年も経たないで新しい男とか」


 まぁ言われてみれば、確かにその通りだけど……一世一代の告白が、こうも無惨に蹴散らされるとは思ってもみなかった。


「でも、まぁ……悪い気はしないモンだね。アタシもまだまだイケてるんじゃん♪ って思えたし……ただ、もしアンタと一緒にでもなったら、イマイが嫉妬して化けて出るかもね?」


 簡単に言ってくれるなよ……こっちは腹を括って伝えようとしたんだから。


「うん……でも、必死なトコは伝わったかな。しかし、こういうハズし方とか、スエはホント相変わらずだよねぇ」


 アキの笑顔をまともに見るコトが出来ない。


 しかも、まだ『相変わらず』なんだ、俺は。あの日から何一つ変われていないのだ。


「あ、あのさ……相変わらずって言われるの、結構傷付くんだぜ? 成長してないみたいに言われて……でもさ、俺だって変わらなきゃって、15年も何もしてなかったから! 本気で何かしようって……」


 いくらイマイが俺をヒーロー扱いしてくれてたからと言って、何も変わっていないコトを突き付けられるのは、やはりどこか悔しくて、ツラい。勇気を振り絞って声を荒らげてしまった。


「あ、あー。うん。ゴメン……そういう意味じゃないんだよ……傷付けたなら謝るよ……でも、何て言うか、たぶんイマイも生きてたら言ってると思うんだよね?


スエは相変わらず『いいヤツ』だなぁ


ってさ。ホント、バカにするつもりなんて、全っ然無いんだから!」


 生まれて初めて言われた『いいヤツ』というその4文字に、俺は目頭が熱くなり、後半の言葉など耳に入ってなかった。


「あー『いいヤツ』って、絶対言いそうだわ! イマイはスエノ教の信者だったからね。仏門に入った俺より信仰心深かったよ、アレは」


 イノベも後ろから畳み掛ける。


「う、うるさいよ! 俺はそんなんじゃ……」


 イマイが生きてたら……いや、もっと早く俺がアイツに会いに行けてたら、本人の口からその言葉を聞けてたのかもしれないと、急に寂しくなった。


「あれ? もしかして泣いてる? さっきアタシのコト泣かせたから、これでおあいこにしてあげる!」


「いや、別に泣いてねぇし!」


 アキが笑いながらそう言うのを、足元でクレアが不思議そうに見上げていた。


「ねぇねぇ? チェーがくぅのパパになるの? ……くぅ、ぜったいイヤだからね!!」


「……あ、え? あぁ……うん。そうだよね、イヤだよね?」


 結局のところ、例え『いいヤツ』だったとしても、俺は誰からも求められてないってコトか……


「でもね! くぅはチェーのおよめさんになら、なってあげてもイイよ!」


「キャー! スエに"お義母さん"て呼ばれちゃう!!」


 こ、コイツは……どっちかと言ったら、娘と一緒になる方がイマイが化けて出そうだろ! あと、みんなで笑ってんじゃねえよ!


「スエは若いコにモテモテだなぁ……しばらく会わない間に、女の子いっぱい引き連れてウチの寺に来るし、イマイもそうだったけど、ギター弾けるヤツって、やっぱモテるのか?」


「コレはモテるって言わないだろ! イマイの場合は元々モテてるヤツがギター弾いただけだし!! だいたいお前に『キモい』って言われてから、俺は人前で歌ったりしてないんだからな?」


 やっと俺のトラウマを、イノベに伝えられた気がする。


「俺が? スエに? 『キモい』なんて言ったっけ? 全っ然覚えてないわ」


 傷付けた側は、だいたい覚えてないモノであるが、たった今、このエピソードをイノベはサクラから聞かされているようだ。


「あー、はいはいはい。確かに言ってるわ! だってさ、二人しか居ないカラオケで、アイドルの淡い恋愛ソングとか熱唱されたら、そりゃ気持ち悪いでしょ? 俺ノンケだし」


「俺だってノンケだわ!!」


 大声でやり取りを続けているウチに、知ってる顔以外も俺達を取り巻いており、酒を片手に一緒に笑っているのが見えた。


 この感覚がやはり懐かしくて、それでもイマイだけが居ないのが寂しくて、わかってはいるのにアイツを探してしまう。


「アハハハ! ホントにバカだねぇ……」


 アキが笑っている。イマイは居ないけど、みんなが俺の周りで笑ってくれている。


 ひとしきり笑って、アキが真面目な顔をして、俺の正面に来て両頬をバチンと手のひらで挟む。


「……ねぇスエ? アタシと一緒になろうと思ってくれたコト、笑ってゴメン。正直嬉しかったんだけど、アンタはちゃんと生きてるでしょ? アタシとこのコのタメに、アンタを犠牲したなんてコトになったら、イマイに怒られちゃうよ……だからさ、アンタはアンタのやりたいコトを、これからもずっとやり続けてよ! アンタが変わらないでいてくれたら、アタシも頑張って生きてくから!!」


「ふぁ、ふぁい……」


 両頬を挟まれたままで、ちゃんと返事が出来ない俺に、アキが俺の耳元で声のトーンを落として言った。


「あとね……アタシ、意外と面倒臭い女だから、スエの覚悟じゃ足りないかもよ?」


 離れ際にウインクして、挟んだ俺の顔を解放する。


「んもー! そういうの……ズルいでしょ!!」


「じゃ、これからもアタシのコト見ててよ? アタシが幸せに生きてくトコ!!」


 あぁコレ、イマイに告白させた時のコト思い出して言ってんだろうな…………仕方ない、イマイの代わりにはなれないけど、ちゃんと見届けてやるか。


 何だか長い長い宿題が、今日でやっと終わったような気分だ。


 一人取り残されて、不貞腐れて、机に突っ伏して過ごしてきたけど、顔を上げたらみんな待っててくれてたのか。


 モテるとかモテないとかの前に、俺は誰かと真剣に向き合っていなかったのかもしれない。


 しかし疲れる一日だったなぁ……理由はわかってるけど、誰かに言っても信じてもらえなそうだから、俺の胸にだけしまっておこう。


 墓場でギター弾いた時、俺の身体に入ってただろ? イマイ。


 俺はウーピーゴールドバーグじゃねぇんだから、人のコト憑り代にするんじゃねぇよ!


 まだまだ宴は終わる気配がなさそうだけど、そんなコトを考えてたら、イマイの笑い声が聞こえた気がしたんだ。


 今日はもうしばらく、この懐かしい感覚に浸っていよう。

Special Thanx


しろいきせきと、あかいたま。〜え。令和もはじめなのに、聖飢魔Ⅱですか!?〜

油布大助


https://ncode.syosetu.com/n5733ft/


作品のキャラクターを出させて頂くコトに快諾くださった、油布大助先生、本当にありがとうございました。

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