Teen Age Riot/Sonic Youth
「……んで、ボク達に何か言い訳があったら聞くけど?」
墓場での弾き語りから、約5時間ほど経過した現在、俺はイノベの寺の大広間で、マキとエリカを前にして正座をしているワケで。
「あ……いや、なんか、急にストラップの長さが気になって……ホント、ギターが低すぎるっていうか、とにかく弾きづらかったです」
「はぁ…………ギターは弾けてないわ、途中で歌詞は忘れるわ…………っつーかニャ~ニャ~言ってたのは何なの? 歌ナメてるの?」
そうなのである。ここまで読めば大抵の皆さんはお気付きかと思うが、俺は本番で大失敗をしたワケで。
「歌詞……覚えてたハズなんすけどねぇ………やっぱ、曲を止めるよりは、ニャ~ニャ~言ってでも歌い続けた方が良いのではないか……という判断でした」
イマイの墓前では、俺の弾き語りでアキやクレアが感動してくれたのに、本番ではコードを間違えるわ歌詞は飛ぶわ、ホントに地獄のような時間を過ごさせて頂いたワケで。
「あのさ……ボクも! エリカも! 自分の練習あったのに!! アミオ君の練習に付き合ってたよねぇ? んで、さっき弾けてたし歌えてたよねぇ? それなのに、何で先週よりヘタクソになってるかなあ?」
「そうよね……観てるこっちが恥ずかしくなるような内容だったわ……とりあえず、エレカシに謝ってくれるかしら?」
弾き語りをミスっただけで、どうしてここまで言われなきゃならないのか……もちろん彼女達の時間を奪ってまで教わっていたのだから、キッチリやり遂げるべきだったとは思うが。
「ホント……面目ない」
それでも俺は、深々と頭を下げるしかなかったワケで。
「いやぁ~佐世保少年! いいギターだったよ!! お姉さん感動した」
大声の方に目をやると、広間の奥では、タダ酒でゴキゲンに酔ったミチヨが、少年の背中をバシバシ叩きながら絡んでいるのが見えた。
「あ、いや、佐世保じゃなくて伊万里ですって。長崎県じゃなく佐賀県の……」
ミチヨは馴れ馴れしく困り顔の少年に話し掛けているが、連れの美少女が明らかに不機嫌そうにしている……早く気付いてあげるべきだろう。
「佐世保少年! 略してサセボーイでしょうが!! ……あ、何か響きイヤらしいね? サセボーイ♪」
「だから、伊万里ですって! これ……もう4回目ですよ?」
とりあえずサセボーイって何だよ! 未成年であろう相手に対して、酒の席でホントに迷惑なヤツだ。
「ところで、あんな若いコ達の出演なんてあった? 俺が気付かなかっただけかもしれないけど……説明会には居なかったよね?」
お説教を回避すべく、話を逸らしてみる。
「あー、なんか飛び入りで参加した高校生みたい。九州からヒッチハイクして、長距離トラックに乗せてもらって来たんだってさ」
ヒッチハイクであんなに可愛い彼女と旅行かよ! しかもあの少年、俺と同じくらい地味そうに見えるのに……やっぱギター弾けるとモテるってコトなのだろうか?
とりあえず、あんな可愛いコと運転中に隣でイチャつかれたら、ドライバーは悔しくて秋田のマリア像が如く血の涙を流すだろう……最近の高校生ってスゲェな。
「特にあの可愛いコ! 打ち込みに合わせてメタルっぽいギター弾いてたんだけど、ボクが高校生の頃あんなに上手く弾けなかったなぁ……」
「え! あの女の子も弾いてたの? マジかよ……自信無くすわ」
ズブズブの素人である俺が嫉妬するのもお門違いであるが、こんなコトならもっと早くギター始めときゃ良かった。
「ちなみにアミオは……ああいうコがタイプなの?」
俺への質問に、エリカが含みを持たせているような気がして、脳内で言葉を探し回った。
「あ、いや……タイプって言うか、まぁ……一般的に可愛いコじゃない?」
誘惑めいた問いかけだったが、俺には心に決めた佐向亜依子が居るのだと、自信無さげに自分に言い聞かせる。
「ふ~ん。でもね、あのコ…………男の娘だよ?」
「ウっソ! ……マジで?」
肩まで伸びた艶々で真っ直ぐな黒髪に、大きな二重まぶたの瞳と、鼻筋の通った顔立ちは、どっからどう見ても美少女そのものだった。
俺は男子校出身だが、もしあんなコがクラスメイトだったら、
『ホントの私デビュー』
っつって、おかしな感情が芽生えていた可能性だってある。
っつーか、最近の高校生ってホントにスゲェな……
「アミオは私とあのコ、どっちが可愛いと思う?」
くっ……またコイツは、そんな気も無いくせに、平気で俺にそういうコトを言って困らせる。
返事に困って見事にキョドっていると、耳元で更なる追い討ちをかけてきた。
「それとも……やっぱり、初恋の人が忘れられないかしら?」
ビックリして正座を崩し、座敷で後退りすると、誰かの足に背中が当たった。
「あ、チェーいた!」
振り向くと、そこにはイノベに連れられた、クレアとアキが居た。
「いやぁ~実にスエらしいライブだったよ。アタシ笑いを堪えるの必死だったんだから……あは! ニャ~ニャ~言ってたの思い出しちゃった!!」
「あのね……俺だって初心者なりに頑張ったんだよ!」
頑張った……なんて言葉を、自分で口にしたのはいつ振りだろう? どんなに不恰好でも、何かに取り組んだ記憶がほとんど無い。
「チェー、ぜんぜんヘタクソだったよ? おそとではパパみたいにじょうずだったのに!」
「ちょ、ちょっと! クレアちゃん? ……あ、あれは、たまたま上手くいっただけだよ。グダグダになった本番がホントの俺だから」
しかし、俺の周りがこんなに騒がしいのは、中学のあの頃以来かもしれない。
「あれ? 本番で失敗した人だ!! ねぇねぇ、なんでさっきサチオさんみたいに弾けてたのに、本番あんなダメな感じだったんですかぁ?」
一部訂正。騒がしいのは中学の頃以来ではなく、質屋でこのコのギターを救ってからだ。
「ああもう! 初心者がイマイみたいに弾けるワケないだろ? そういうコト言ってると、一括で借金返済させるからな!」
俺を囲む全員が、その場でドッと笑った。ただ、その中にイマイだけが居ないのは、本当に寂しい。
「ねぇチェー? また、くぅといっしょにおうたうたってくれる?」
イマイが残したクレアが、俺を真っ直ぐ見つめてそう言ったのだが、俺にはそれが、イマイからの言葉のように聞こえてならなかった。
「うん。いいよ……これからもずっと一緒に歌ってあげるよ」
なんだかクレアの父親にでもなるような言い種だったが、確かにこの年頃の子どもには、父親は必要だろう。
ほんの一瞬、佐向亜依子のコトが頭を過ったが、覚悟を決めてアキの方を向いた。
「あ、あのさ……ヨシダ! イマイが居なくなって大変だと思うし、子どもも父親が必要だろうから……俺」
「ゴメンなさい! 無理です」
「いや、まだ全部言ってないから!!」
こんな告白めいたコトを口にするのですら、生まれて初めてだったってのに、即答かよ……
「いや、さすがに無いでしょ? 旦那亡くして半年も経たないで新しい男とか」
まぁ言われてみれば、確かにその通りだけど……一世一代の告白が、こうも無惨に蹴散らされるとは思ってもみなかった。
「でも、まぁ……悪い気はしないモンだね。アタシもまだまだイケてるんじゃん♪ って思えたし……ただ、もしアンタと一緒にでもなったら、イマイが嫉妬して化けて出るかもね?」
簡単に言ってくれるなよ……こっちは腹を括って伝えようとしたんだから。
「うん……でも、必死なトコは伝わったかな。しかし、こういうハズし方とか、スエはホント相変わらずだよねぇ」
アキの笑顔をまともに見るコトが出来ない。
しかも、まだ『相変わらず』なんだ、俺は。あの日から何一つ変われていないのだ。
「あ、あのさ……相変わらずって言われるの、結構傷付くんだぜ? 成長してないみたいに言われて……でもさ、俺だって変わらなきゃって、15年も何もしてなかったから! 本気で何かしようって……」
いくらイマイが俺をヒーロー扱いしてくれてたからと言って、何も変わっていないコトを突き付けられるのは、やはりどこか悔しくて、ツラい。勇気を振り絞って声を荒らげてしまった。
「あ、あー。うん。ゴメン……そういう意味じゃないんだよ……傷付けたなら謝るよ……でも、何て言うか、たぶんイマイも生きてたら言ってると思うんだよね?
スエは相変わらず『いいヤツ』だなぁ
ってさ。ホント、バカにするつもりなんて、全っ然無いんだから!」
生まれて初めて言われた『いいヤツ』というその4文字に、俺は目頭が熱くなり、後半の言葉など耳に入ってなかった。
「あー『いいヤツ』って、絶対言いそうだわ! イマイはスエノ教の信者だったからね。仏門に入った俺より信仰心深かったよ、アレは」
イノベも後ろから畳み掛ける。
「う、うるさいよ! 俺はそんなんじゃ……」
イマイが生きてたら……いや、もっと早く俺がアイツに会いに行けてたら、本人の口からその言葉を聞けてたのかもしれないと、急に寂しくなった。
「あれ? もしかして泣いてる? さっきアタシのコト泣かせたから、これでおあいこにしてあげる!」
「いや、別に泣いてねぇし!」
アキが笑いながらそう言うのを、足元でクレアが不思議そうに見上げていた。
「ねぇねぇ? チェーがくぅのパパになるの? ……くぅ、ぜったいイヤだからね!!」
「……あ、え? あぁ……うん。そうだよね、イヤだよね?」
結局のところ、例え『いいヤツ』だったとしても、俺は誰からも求められてないってコトか……
「でもね! くぅはチェーのおよめさんになら、なってあげてもイイよ!」
「キャー! スエに"お義母さん"て呼ばれちゃう!!」
こ、コイツは……どっちかと言ったら、娘と一緒になる方がイマイが化けて出そうだろ! あと、みんなで笑ってんじゃねえよ!
「スエは若いコにモテモテだなぁ……しばらく会わない間に、女の子いっぱい引き連れてウチの寺に来るし、イマイもそうだったけど、ギター弾けるヤツって、やっぱモテるのか?」
「コレはモテるって言わないだろ! イマイの場合は元々モテてるヤツがギター弾いただけだし!! だいたいお前に『キモい』って言われてから、俺は人前で歌ったりしてないんだからな?」
やっと俺のトラウマを、イノベに伝えられた気がする。
「俺が? スエに? 『キモい』なんて言ったっけ? 全っ然覚えてないわ」
傷付けた側は、だいたい覚えてないモノであるが、たった今、このエピソードをイノベはサクラから聞かされているようだ。
「あー、はいはいはい。確かに言ってるわ! だってさ、二人しか居ないカラオケで、アイドルの淡い恋愛ソングとか熱唱されたら、そりゃ気持ち悪いでしょ? 俺ノンケだし」
「俺だってノンケだわ!!」
大声でやり取りを続けているウチに、知ってる顔以外も俺達を取り巻いており、酒を片手に一緒に笑っているのが見えた。
この感覚がやはり懐かしくて、それでもイマイだけが居ないのが寂しくて、わかってはいるのにアイツを探してしまう。
「アハハハ! ホントにバカだねぇ……」
アキが笑っている。イマイは居ないけど、みんなが俺の周りで笑ってくれている。
ひとしきり笑って、アキが真面目な顔をして、俺の正面に来て両頬をバチンと手のひらで挟む。
「……ねぇスエ? アタシと一緒になろうと思ってくれたコト、笑ってゴメン。正直嬉しかったんだけど、アンタはちゃんと生きてるでしょ? アタシとこのコのタメに、アンタを犠牲したなんてコトになったら、イマイに怒られちゃうよ……だからさ、アンタはアンタのやりたいコトを、これからもずっとやり続けてよ! アンタが変わらないでいてくれたら、アタシも頑張って生きてくから!!」
「ふぁ、ふぁい……」
両頬を挟まれたままで、ちゃんと返事が出来ない俺に、アキが俺の耳元で声のトーンを落として言った。
「あとね……アタシ、意外と面倒臭い女だから、スエの覚悟じゃ足りないかもよ?」
離れ際にウインクして、挟んだ俺の顔を解放する。
「んもー! そういうの……ズルいでしょ!!」
「じゃ、これからもアタシのコト見ててよ? アタシが幸せに生きてくトコ!!」
あぁコレ、イマイに告白させた時のコト思い出して言ってんだろうな…………仕方ない、イマイの代わりにはなれないけど、ちゃんと見届けてやるか。
何だか長い長い宿題が、今日でやっと終わったような気分だ。
一人取り残されて、不貞腐れて、机に突っ伏して過ごしてきたけど、顔を上げたらみんな待っててくれてたのか。
モテるとかモテないとかの前に、俺は誰かと真剣に向き合っていなかったのかもしれない。
しかし疲れる一日だったなぁ……理由はわかってるけど、誰かに言っても信じてもらえなそうだから、俺の胸にだけしまっておこう。
墓場でギター弾いた時、俺の身体に入ってただろ? イマイ。
俺はウーピーゴールドバーグじゃねぇんだから、人のコト憑り代にするんじゃねぇよ!
まだまだ宴は終わる気配がなさそうだけど、そんなコトを考えてたら、イマイの笑い声が聞こえた気がしたんだ。
今日はもうしばらく、この懐かしい感覚に浸っていよう。
Special Thanx
しろいきせきと、あかいたま。〜え。令和もはじめなのに、聖飢魔Ⅱですか!?〜
油布大助
https://ncode.syosetu.com/n5733ft/
作品のキャラクターを出させて頂くコトに快諾くださった、油布大助先生、本当にありがとうございました。




