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みそギ!~三十路で始めるギター教室~  作者: ボラ塚鬼丸
teenage riot編

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欠けボタンの浜/HUSKING BEE

 曲の終わりで、イントロと同じDのコードが風に巻き上げられると、再び辺りには静寂が戻り、静かに涙を流すクレアのすすり泣く声を浮き彫りにした。


 舞い上がった風を追いかけて、しばらく何も無い空を見上げていたが、俺達を包み込むような空気が解けると、アキが後ろからクレアを抱き締める。


「スエ……凄かったね! ……パパみたいで格好良かったね!!」


 アキは美人が台無しになるぐらいグシャグシャに泣きながら、クレアを振り向かせて、優しく微笑みかけた。


「うん……でも、パパ……もうあえないの? くぅね、パパが……パパがオバケになってもイイからあいたいよ……」


 改めて父親の死を受け入れたクレアから、辛い現実を突きつけられてアキの顔が歪む。


「うん……クレアは寂しい? ママもね……凄く…………寂しいんだよ………………だからさ……パパのコト、絶対に……絶対に忘れないであげてね?」


 言葉に詰まりながら、アキはまるで自分にでも言い聞かせるように、クレアを励ました。


「……うん。くぅもね……パパがいなくて、すごくさびしいよ…………だから、たのしかったコトとか……うれしかったコトとか………いっぱい、いっぱいわすれないよ………」


 声にならない返事をするアキを、今度はクレアが抱き締めて、二人は大声を出して泣いた。


「くぅね……さびしいけど……がんばる。だから……だからママもげんきだして?」


「……そうだよね。泣いてたら、パパ心配しちゃうモンね」


 残された母娘(おやこ)が健気に支え合いながら、生きる決意をするという姿は、中年予備軍の俺の目には感動的に映った。


「はぁーあ、スエのせいでマジ、チョー泣いたんだけど。ムカついたから、あとで参道の出店でビール奢ってよね!」


「は? なんでそうなるんだよ!」


 ひとしきり涙を流してスッキリとした表情のアキが、手のひら返しで悪態をついた。


 数秒前の俺の感動を返しやがれ!


「でも……ありがとう! お陰でアタシも、あの人と……ちゃんとお別れ出来た気がする」


 涙目で強がった後、突然の笑顔で素直にお礼とか……もうさぁ、そういうツンデレやめてくれないかしら?


 ホヤホヤの未亡人に恋心とか抱きたくないんだけど……


「お……おう。まぁ? ……俺に? 出来るコトなんてそんなに無いけど……」


 急に照れ臭くなって、全力のバタフライでガンガン目を泳がせながら、気持ち悪い返事を返すのが精一杯である。


「良かったね? パパ。スエは……やっぱヒーローだったよ」


 アキはとっくにイマイへの報告に移行しており、幸いにも気味悪い返しは届いていなかったが、まだ俺をヒーローなどとおだてているコトに対しては、正直なところ申し訳なさしか無かった。


 ふと我に返って、本番を前にワンステージこなしているコトに気付くと、肩から下げているギターが急に重く感じた。


 大それたコトをしてしまった感はあるが、ここでの役目を終えたギターをケースに仕舞う。


「マツノさん……ギター、上手くなりましたね? お二人が同級生だったコトにも驚きましたけど、弾き方がサチオさんみたいでビックリしました!」


 しゃがんでギターケースを閉じていると、背後からサクラが話し掛けてきた。


「いや……たまたま上手く弾けた感じ。あと、アイツがバンドやってたなんて1ミリも知らなかったよ。そんなに人気あったの?」


「人気? ありましたよ! 私みたいな中学生からバンドマンまで、ライブは毎回お客さんがパンっパンに入るぐらいだったし、ホントに格好良かったんですから!! パンクっぽい曲も多くて……特にギターのサチオさんがヴォーカルの曲なんて、もうエモ過ぎて思い出しただけで鼻血出そうですよ!」


 テンションが上がったサクラの目が完全にイっちゃっており、明らかに面倒臭そうだったので、深掘りしないでおこうと瞬時に判断したのだが、俺の知らないイマイを、このコは知ってるんだよなぁと思うと、悔しいような寂しいような気がした。


 もしあの日、ボタンを掛け違えるコトが無かったら、俺にもう少しだけ勇気があったら、信頼していた友人達に寄り添うコトが出来ていたら……


 間違いだらけの長い時間を悔やんでも、15年という月日はあまりに長く、たとえ何かを成し得たとしても、何者にもなれなかった俺のような人間に対しても、すべてにとって平等であると同時に、残酷で無慈悲で、もう取り戻すコトが出来ない儚いモノなのだと、改めて痛感させられた。


 そんな中、交わるコトの無かった俺達を、唯一繋げてくれたのがギターっていうのも不思議だ。


 イマイに影響されてバンドを始めたサクラが、偶然俺と出会ってギターを教えてくれているコトと、サクラの誘いで出演するハメになったイベントをきっかけに、15年振りの友人と再会して……お別れが出来たのは、奇跡としか言い様がない。


 俺もこの先ギターを弾き続けたら、イマイが見ていた景色が見えるのかなぁ?


 生きてりゃそんな話が出来たかもしれないのにさ、

お前……なに死んでんだよ……


 あんなに格好良かったのに、こんなに可愛い嫁と娘も居るのに……死んでんじゃねぇよ!


 会ってなかった15年なんて無視して、三十路でギター始めた俺のコト、からかったりしろよ!


 俺だってさぁ……寂しいよ……


「チェー……だいじょうぶ?」


 クレアに声を掛けられて、自分がボロボロと涙を流しているコトに気が付いた。


 アキやクレア以上に現実味の無かったイマイの死を、俺もやっと心の底から受け入れられたのだろう。


「うん……ありがとう。もう大丈夫だよ。俺もクレアちゃんのパパにお別れしてたんだ……あ、そうだ、今度さ、クレアちゃんのパパのお話聞かせてくれないかな?」


 クレアにお前を忘れさせないように、いや、俺がお前のコトをもっと思い出せるように、いつまでも語り継いでいくよ。


「イイよ! あのね、パパね、ちょーかっこよかったんだよ!!」


 いつまでも泣いてたって仕方ないよな? みんな笑顔でお前のコト、ずっと話しててやるからさ。

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