思い出せなくなるその日まで/back number
「なんか……ゴメンね? 久々に会ったのにこんな話で……」
アキが申し訳なさそうにそう言ったが、俺はそんなコトを言って欲しかったワケじゃない。
「いや、正直ショックだし……頭が追い付いてないってのが今の感想だよ」
「ハハ……そうだよね? アタシもバタバタし過ぎてて、旦那が亡くなったってのに涙の一滴も出てないからね……やっぱ冷たい嫁だって思われてるかなぁ?」
一番近くでイマイの死に直面しているアキがそう言うのだから、俺が受け止められないのも当然と言えば当然だ。
「ねぇママぁ……またパパいないよ? ホント、いつも来ないね」
クレアはアキの足元でワンピースを掴み、肩がはだけるほどそれを引っ張っていた。
「うん……そうだね」
アキは諦めのような表情で、溜め息混じりにクレアの頭を撫でる。
「……葬儀にも出たし、ホントは理解出来る歳のハズなんだけどね? 意識的に情報を遮断してるみたいで……」
確かに、初めて会った時から感じているが、とても幼くして父親を亡くしている子どもとは思えないほど、快活な印象を受けていた。
「アタシが気丈過ぎるぐらいに振る舞ってたのも悪いんだろうけど……現実を受け止めないまま大きくなると、心と身体の解離が進んで、鬱とか無感情になるってカウンセリングでも言われてて……」
アキの父親が亡くなったのは小学5年生の時だったが、クレアはどう見ても小学校入学前だ。
さすがに未就学の子どもには、自分の父親が若くして他界したコトを理解させ、現実を受け入れさせるのは容易ではないだろう。
こんな時に何も言えず俯くしか能がないのだから、つくづく自分の無力さを痛感させられる。
「でもさ……一緒に居た時間が長かったからか、旦那のスマートフォンとかカードの解約したり、色々アタシに名義変更する度、何だかあの人の想い出まで失くなっていく気がして……この子もこのままパパのコト忘れちゃったら寂しいなぁ」
会わなかった15年の内、俺はイマイを忘れたコトはなかったが、確かに思い出す頻度は少なかった。
「15年も会ってないから、俺スゲェ緊張してたのにさ……死んじゃダメだろうよ……せっかくギターも練習してきたのに」
イベントに出演するというのもあるが、あの頃を思って必死で練習していたのだから、半分以上はイマイの為と言っても過言ではない。
「あ、そうか、今日ってこの後ライブなんだよね? 今年はあの人も出るって言ってたんだけどね……」
「え! イマイが? 何で出るの?」
事前の顔合わせで、テラソニックというイベントが寄席やフラメンコなどの出演もあるコトは知っていたが、イマイにはサッカー少年のイメージしか無かったので、他の一芸に秀でていたコトに驚いた。
「何で……って、スエと同じだよ? 弾き語り!」
手品かカラオケとかだと思った。ゴメンな? イマイ。
「へぇ~そんな特技あったんだ?」
「あったも何も、高校でケガしてサッカー辞めてから、ずっとギター弾いててバンドもやってたんだよ? インディでアルバム2枚出してたし」
アルバム出してたって、本気のヤツじゃないか!
「マジかよ……知らなかったとは言え、そんなヤツの前で危うく素人芸を炸裂させるトコだったのか……」
披露する相手が居ない今となっては、恥をかくコトも無いのだが、同時にヘタクソなギターをからかわれるコトも、一緒に演奏して歌うコトも無いのだと思うと寂しくなった。
「えー、イイじゃん! せっかく練習したんだったら、イマイにも聴かせてあげてよ!」
「うん、そうだな。スエの出番まで時間あるし、リハだと思って気軽にやったらイイよ」
気軽にって、墓場の真ん中でギター掻き鳴らせって言うのか?
「は? イヤだよ!! だってお前らニヤニヤしてるじゃん」
ここは何としてでも回避の方向で進めたい。
「おうた……うたわないの?」
気付くとクレアが背後でシャツを引っ張っていた。そんな期待するような目で俺を見ないでくれよ……
「あ! 見つけた!! おーい、アミオさーん」
声の方に振り返ると、ミチヨを先頭にして、西日を背後に受けたリトルデイトの4人がこちらに歩いて向かっていた。
「いやぁ間に合った! アミオさん、これから歌うトコでしょ?」
「いやいやいや、歌わないから! っていうか、君らは何しにここまで来たの?」
確かに俺を呼び出したのはエリカだけど、わざわざ同級生との時間を作ってくれたんじゃなかったのか?
「何しにって、アミオさんの歌を聴きに来たに決まってるじゃん! 墓場をステージにしたら日本一だから」
そんな特殊な演奏家イヤだわ! っていうか机じゃなく墓場をステージにって……『紡木たく』みたいに言うんじゃないよ。
「そうだよ! ボクらがギター教えたんだから、ちゃんと確認しないと!!」
だからって、4人でゾロゾロ来なくたってイイじゃない。
「あれ? お弁当屋さんの!」
唐突にアキが発した声で、クレアがミチヨに走り寄った。
「おー! クレアちゃんだ!! 元気? このオジサンに変なコトされなかった?」
ミチヨは足元に駆け寄るクレアを、ヒョイと抱え上げた。
……いや、オジサンそんなコトしないから。あと、子どものお母さんの前でそういうコト言わないでよ。
「あれ? スエと知り合いなの? 意外な組み合わせ!」
「えー! くぅちゃんママこそアミオさんと知り合いだったんですね!」
だからアミオって誰なんだよ。同級生に通じない名前で呼ばないでよ。
「アハハ! アミオさんって呼ばれてんだ? アタシら小学校からの同級生なんだよ」
もう何でもイイけど、君たちもこの後ライブなのよね? とりあえずこの場で弾き語りさせるとか、余計なコトだけは勘弁してくれ。
「あ! あれ? ……あなた、もしかして……」
ミチヨと談笑していたアキが、後ろに立っていたサクラに目を留めて、驚いた表情で声を上げた。




