Believe/Lenny Kravitz
自宅から夜道を2分ほど歩いてコンビニに到着すると、アルコールコーナーの冷蔵庫から、普段買うより少し高い6本セットの発泡酒を手に取る。
先ほどの自爆行為を思い出すと、目の前にあるアイスの棚に頭から突っ込みたくなる衝動に駆られるので、何も考えないようにして伏し目がちにレジへ直行。
会計を済ませ、元来た道を引き返して自室前に戻ってきた。
ドアノブを捻っても開かないのは、家を出る時カギを持たずにシリンダーの内側のボタンを押してしまったようで、アナログなオートロックが発動した為である。
安アパートだからそういう構造のドアなんだよ!
『ゴンゴンゴン』
「申し訳ない……自分の家に入れなくて困っております……」
自宅をノックし、小声で懇願して中に居る他人に開けてもらうという状況。
パタパタと足音が聞こえると、すぐに扉が開き、マキが出迎えてくれた。
「あ、えーと……ただいま?」
「あ、うん……おかえり?」
もう情けなくて涙も出ない。
「とりあえず、お察しの通り動揺を隠せず駄々漏れなんですが……」
コンビニのレジ袋に入ったままの発泡酒を手渡し、呆れ顔の女子二人に対してありのままを吐露する。
「ええ、アミオの自爆には興味が無いけれど、逃げずに当日イベントに出てくれたらそれで良いわ」
淡々としているが、お陰様で恥ずかしさは薄れて行きそうな良い傾向である。
「それで、アミオくんが弾きたいコードってFとBだっけ? バレーコードで諦める人って多いんだよねー」
諦めるって何だよ。コード表で見たら、押さえるトコが多かったけど、そんなにハードル高いの?
「あ、ああ、うん、そう。BとFだね。あとはアドキューとスススーみたいなヤツ」
「add9(アドナイン)とsus4(サスフォー)ね? そっちは最悪弾かなくてもイイんじゃない?」
「え? コード弾かなくてイイとかあんの?」
×印が付いた弦を一本だけ弾かないコトはあったが、扱いが雑というか投げ遣りというか、さっきからマキが不安になるようなコトしか言っていない気がする。
「曲中の前後のコードにもよるけど、装飾音で入れてるだけなら、たぶん母音は同じだから弾かなくて平気。たぶんだけど」
曖昧な部分が多過ぎて、平気な印象をまったく受けないんですが……
「それよりエレファントカシマシの曲名は判明したの? アミオが弾こうとしてるのって、きっとその曲なのでしょう?」
そういえば、教えてくれってメッセージ送ったのに、テメェで調べろっていう感じの回答してくれたのはエリカだったな。
「そうそう! ネットで調べたら判ったんだよ。コードも載ってたから、それで訊いたんだけどね?」
ポケットからスマートフォンを取り出して、ブラウザの画面を開いて二人に見せる。
「あー『悲しみの果て』は解ったけど、もう一曲は『四月の風』だったのか! ボク昨日のヒントで『俺たちの明日』だと思った……意外と選曲シブいね?」
シブい選曲かは解らないが、弾きたい曲はそのくらいしか無いのだ。
「教えるは教えるけど、初心者にこの曲は結構難しいんじゃない? 他に無かったの?」
「他には……無い! その2曲だけ」
難易度だけなら選びようは幾らでもあっただろうが、そんな気持ちの乗らない曲を歌うコトに、一体何の意味があるのか解らなかった。
「そう。じゃあアミオの選んだ曲で良いんじゃないかしら? そのやる気を信じるコトにするわね?」
あっさりと受け入れられて怖いくらいだったが、残りの2週間は全力で取り組むしかない。
と、気合いを入れて思ったのであるが……
「ちょっとアミオくん? まったく音鳴らないじゃん……やる気あんの? ボクもう帰るよ?」
人差し指で全部の弦を押さえつつ、残りの3本の指をバラバラに配置するバレーコードって、全然鳴らないじゃん!
これは、諦めたくなる気持ちも理解出来る。
「アミオ……ふざけてるの? さっきから口が開きっぱなしよ?」
ええ、ふざけてるように見えるかもしれないけど、ネックを握らなきゃならないのに、徐々に左手の握力が低下していて口元が緩い。
今にもヨダレが垂れてしまいそうなのだ。
「アミオくん、2週間で弾けると思う? コード押さえるのも大変だけど、ストロークもあるんだからね?」
「は、はーい……頑張りまーす……」
ホントに頑張れるのか? 俺。
これ以上無いぐらいの猫背で、ネックを不自然に折れ曲がった左手で抱えながら、芽生えてくる不安に蓋をしつつギターを弾き続けた。




