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みそギ!~三十路で始めるギター教室~  作者: ボラ塚鬼丸
teenage riot編
52/175

Can You Keep A Secret?/宇多田ヒカル

 中学時代に俺をイジメてくれてたヤツらが、上司として職場に配属されるという悪夢で目が覚めた。


 昨晩、思い出したくもない過去の記憶を引っ張り出されたお陰で、人生の半分を振り返り、完治しているハズの傷痕を無理矢理に抉じ開けられた気分である。


 起き抜けにスマートフォンの通知を確認するが、メッセージの返信は無かった。


 ギター教えるって言ってたのに、薄情なヤツらだなぁ……


 まぁどうせ彼女達のコトだから、明け方まで深酒でもしてたのだろう。


 夜まで待ってれば連絡も来るハズだと思い、その日もキッチリと座敷牢のような職場で働き抜いたのだが、帰り道にも何度か確認しても、やはりメッセージは届いていなかった。


 既読は付いてるんだけどなぁ……まぁ仕方ないから、帰って独学でギターの練習でもしよう。


 ミチヨの弁当もアテにしていたが、連絡も無いのでコンビニで適当に買い込んで帰宅。


 薄暗い階段を上ると、俺の部屋の前に人影が二つ並んでいた。


「あれ? なんか珍しい組み合わせだね……もしかして俺の帰り待ってたとか?」


 待ち構えていたのはマキとエリカだった。


「ボク達もいま来たトコだよ。あと5分待って帰って来なかったら連絡するつもりだったけど」


「リズム隊は西口商店街のバンド練習なのよ。だから今日は私とマキだけ……それじゃあ寂しい?」


 イタズラっぽく笑いかけるエリカにドキッとした。


 そういうの良くないよ? オジサン勘違いしちゃうから。


「とりあえず入りなよ。何も無いけど」


 玄関先の狭い廊下で立ち話ってのも、近隣に迷惑なので自室のカギを開ける。


 いつの間にか、部屋に女性を招くコトが自然に出来てるなぁと、彼女達に続いて靴を脱ぎながら思った。


 コンビニで買った雑な夕飯は、ダイレクトに冷蔵庫へ仕舞い、代わりに常備しているドラッグストアのPB商品である、安い発泡酒を3本取り出す。 


「あ! そう言えば返信くれなかったでしょ? 遅くまで呑んでたんだろうけど、無視はやめてよ……傷付くから」


 マキとエリカに発泡酒を手渡しながら、オジサンを独りにするコトが、どれだけ残酷かという話を懇々と説いてやろうと思った。


「あのさ、アミオくん……」


 思い詰めたような顔でマキが口を開くと、発泡酒を受け取ったマキの手をエリカが床に制して遮る。


「ねぇアミオ、昨日は挨拶も無く帰ったじゃない? ……なんか元気無さそうだったし」


 言葉を選ぶようにエリカが話を引き継ぐ。イノベから何か訊いたのか?


「あー、うん。ゴメン。もしかして主催者側から怒られた?」


 マキもエリカも俯いて首を横に振るだけだった。


「んーじゃあ、イノベから何か言われたとか?」


 二人がハッとした表情で顔を上げるが、上手く言葉に出来なさそうな様子を見て、恐らくイノベが中学時代の話でもしたのだろうと察した。


 一回り近く年下の女の子達に、メチャクチャ気を遣われてる感じがして申し訳なかった。


「15年……」


「え?」


 マキとエリカのどちらが聞き返したか確認せず、発泡酒を開けてグイと喉を潤す。


 シラフで話すには内容が重すぎるから。


「ずっと……死んだみたいに生きてきたんだよね、俺」


 二人の顔が、派手にケガした時の傷口でも見るが如く、眉間にシワが寄ってゆく。


 イノベからどんな伝わり方したんだろう?と、少し可笑しくて緊張が緩む。


「……15年、っていうと、二人とも小学校入るか入らないかぐらい? って考えると長いよなぁ……」


 正直、人に話すコトじゃないんだけど、彼女達に……というより、誰かにぶちまけて、その頃の俺を供養したかったんだと思う。


 友人に面白くイジられていた中学2年生が、中学3年生になって心無い同級生からイジメに遭ったという話を、出来るだけ生々しくないように気を付けながら、主観で伝える。 


「っつって、もう昔の話だからね? ……あ! でも、こういうコト聞いたからって態度変えないでよ?」


 時折、まったくダメージを受けていないような虚勢を張りつつ、発泡酒に口を付ける。


「それでさ……まぁ昨日からずっと考えてたんだけど、どうせイベントで昔の友達に観られるんだったら、俺は全然元気でやってるぞー! ってトコを見せよう……かと」


 たかが350mlの発泡酒を飲み干した程度では、こんな話を黙って聞かれているコトに耐えられなくなった。


「いや……あの、ちょっと! 何か言ってよ!!」


「あ、ああ、えっと……うん。物凄いカミングアウトされたんだけど、ボク達……」


 先ほどと同様に、エリカがマキの手を握り、皆まで言うなといった感じの目配せをしてコクコク頷く。


「あのね? アミオ、私達がイノベさんから聞いた話って……アミオの初恋の相手がアキさんだったってコト、だけで……」


「そうそう! その人が結婚して子どもも居るのに、アミオくんは独りで可哀想だから励まそう……と思った、だけ……だったり?」


 自分の頬や耳に、猛スピードで血液が集まって行くのがわかった。


 ……は、恥ずかしい!!


 これじゃ発泡酒片手に、勝手に自分語りをしてただけのオジサンじゃないか!


 俺は両手で顔を覆い、冷蔵庫に駆け寄って発泡酒を取り出し、それを一気に空けた。


「ちょ、ちょっと買い物してくるから、しばしお待ちくださいませ」


 発泡酒が最後の一本だったのもあるが、コンビニまで行く間に冷静になろうと思い、部屋を飛び出した。

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