Shape of My Heart/Sting
即バレするほど特徴的な顔はしてないハズなんだが、そんなに俺のコト見てたのか? って気持ちになる。
「あ、あぁ、久しぶり……ヨシダ」
「え? ちょっと……気付いてたなら言ってよ! アタシが恥ずかしいじゃん」
そう言って子どもの口元を拭いたり、服の汚れを払ったりしている姿は、ホントにお母さんなんだなぁと改めて思う。
「クレア、おじちゃんにお礼は言ったの?」
「お、おじちゃんて……俺がおじちゃんならヨシダはおばちゃんだからな? 同級生よ!」
アキをおばちゃんと呼ぶにはまだまだ若過ぎるが、おじちゃん呼ばわりされて咄嗟にカチンときてしまった。
「アハハ! っていうか『ヨシダ』って久し振りに呼ばれたよ。もう5年以上『イマイ』だから」
そうか、結婚して姓が変わったのか。
「って、え? イマイって……あのイマイ? ……そうか! 社長じゃなくて佐知夫か!!」
娘さんの情報で、玉の輿に乗ったと思ってたんだけどなぁ。
「社長? もしかしてクレアが言ってた? ハハハ! まだちゃんと喋れないから」
「そっか。イマイとねぇ……あのまま結婚したの?」
「あのまま結婚て! 付き合って10年経ってたから!! まぁ色々あったけどね? ところでスエはどうしてたの? みんな会いたがってたよ?」
アキとイマイが結婚するまで10年。そこから5年で二人とも親になってるってのに。
『どうしてた』と訊かれても、正直なところ『どうもしてなかった』としか答えられない。
「まぁ……ぼちぼち生きてたよ」
俺は言葉を濁しながら、苦笑いで返すしか術が無かった。
「ねぇママ……このひとチェー?」
『チェー』って何だよ! ベトナムのスイーツか?
「そうだよー! パパがいつも言ってた『チェー』だよぉー!!」
アキも乗っからなくてイイから。さっきまでちゃんと『スエ』って呼んでたじゃない!
足元から視線を感じて目を落とすと、クレアが俺のシャツの裾を掴んでいた。
「チェー! ホントにいたんだ!!」
「ホントにって架空の人物だと思ってたのかよ! イマイもどんな伝え方してんだよ……」
キラっキラした瞳で、
『あなたトトロって言うのね!』
ぐらいの勢いで来たと思ったら、今度は俺の股の間をトンネルのようにくぐりまくっている。
酔拳の殺し屋『鉄心』じゃねぇんだから、股ぐらくぐられても困る……
何度も言うが、子どもの扱いには慣れてないので、困り顔でアキを見る。
「アハハ! スエって相変わらずだね……って、そうだ! こんなコトしてられないんだ! クレア、パパの友達のお坊さんのトコ行くよ!!」
『相変わらず』という言葉にズキッとした。
もちろんアキに悪気は無いんだろうが、そういうフレーズに対して卑屈になってしまっているからか、
『相変わらず成長していない』
という風に聞こえてしまう。
鉛でも飲み込んだような気持ちを隠して平静を装う。
「もしかしてイノベのトコ行くの? 今イベントの会合やってるよ?」
クレアを捕まえたアキが、ハッとしてこちらに振り返る。
「あちゃー、そうだった! それ今日かー。仕方ない……クレア、また来ようか?」
手を繋いで帰ろうとするが、クレアは首をブンブン横に振っており、残像で阿修羅像のようになっている。
「もー! ワガママ言わないでよ…」
アキは顔を拭いながらクレアをなだめる。ヨダレか鼻水が飛んでたのね。
「いやぁだ! くぅ、チェーとあそぶモン!」
クレアはアキの手を振りほどき、俺の後ろに隠れた。
「凄い……私、初めて見たかも」
エリカさん、急にどうした?
「え? 何が?」
「初めて生で見れた……ストックホルム症候群」
「誰が誘拐犯だよ! 無意味なカットインしなくてイイから!!」
急な大声でクレアがビクッとしたので、その隙を見逃さずアキが抱き抱えた。
「ハハハ! スエって誰からもイジられるよね? じゃあ、また今度ゆっくり」
「やだー! チェー!!」
担がれたままこちらに手を伸ばすクレアと、時々振り返って手を振るアキを見送る。
明るく振る舞ってはいたが、手汗が酷くムチャクチャ疲れた。
「はぁ……エリカさん、悪いけど俺このまま帰るわ。イノベとリトルデイトのメンバーによろしく」
幸い荷物らしい荷物も持ってなかったので、ここで帰っても問題無さそうである。
「え? ちょっと! 挨拶しなくてイイの? 住職と同級生なんでしょ?」
もう説明も面倒なぐらい疲れてしまい、エリカの方に振り返り手を振ると、アキが帰った方角と別の方向に向かって歩いた。
イノベとアキに会ったコトにより、このままだと近々イマイにも会わされそうな気がするなぁ……
一人一人なら何とかなりそうだが、さすがに一堂に会すると厄介だよなぁ……
やっぱ中学フェイドアウトしたコトとか、謝ったりするべきかなぁ……
っつーか、ホントに俺、イベントで弾き語りとかすんのかなぁ……
などと腕組みしながらブツブツ独り言を呟き、頭を抱えながら帰路に就いていると、気付けばもう家はすぐそこだった。




