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みそギ!~三十路で始めるギター教室~  作者: ボラ塚鬼丸
teenage riot編
50/175

Shape of My Heart/Sting

 即バレするほど特徴的な顔はしてないハズなんだが、そんなに俺のコト見てたのか? って気持ちになる。


「あ、あぁ、久しぶり……ヨシダ」


「え? ちょっと……気付いてたなら言ってよ! アタシが恥ずかしいじゃん」


 そう言って子どもの口元を拭いたり、服の汚れを払ったりしている姿は、ホントにお母さんなんだなぁと改めて思う。


「クレア、おじちゃんにお礼は言ったの?」


「お、おじちゃんて……俺がおじちゃんならヨシダはおばちゃんだからな? 同級生よ!」


 アキをおばちゃんと呼ぶにはまだまだ若過ぎるが、おじちゃん呼ばわりされて咄嗟にカチンときてしまった。


「アハハ! っていうか『ヨシダ』って久し振りに呼ばれたよ。もう5年以上『イマイ』だから」


 そうか、結婚して姓が変わったのか。


「って、え? イマイって……あのイマイ? ……そうか! 社長じゃなくて佐知夫(サチオ)か!!」


 娘さんの情報で、玉の輿に乗ったと思ってたんだけどなぁ。


「社長? もしかしてクレアが言ってた? ハハハ! まだちゃんと喋れないから」


「そっか。イマイとねぇ……あのまま結婚したの?」


「あのまま結婚て! 付き合って10年経ってたから!! まぁ色々あったけどね? ところでスエはどうしてたの? みんな会いたがってたよ?」


 アキとイマイが結婚するまで10年。そこから5年で二人とも親になってるってのに。


 『どうしてた』と訊かれても、正直なところ『どうもしてなかった』としか答えられない。


「まぁ……ぼちぼち生きてたよ」


 俺は言葉を濁しながら、苦笑いで返すしか術が無かった。


「ねぇママ……このひとチェー?」


 『チェー』って何だよ! ベトナムのスイーツか?


「そうだよー! パパがいつも言ってた『チェー』だよぉー!!」


 アキも乗っからなくてイイから。さっきまでちゃんと『スエ』って呼んでたじゃない!


 足元から視線を感じて目を落とすと、クレアが俺のシャツの裾を掴んでいた。


「チェー! ホントにいたんだ!!」


「ホントにって架空の人物だと思ってたのかよ! イマイもどんな伝え方してんだよ……」


 キラっキラした瞳で、

『あなたトトロって言うのね!』

ぐらいの勢いで来たと思ったら、今度は俺の股の間をトンネルのようにくぐりまくっている。


 酔拳の殺し屋『鉄心』じゃねぇんだから、股ぐらくぐられても困る……


 何度も言うが、子どもの扱いには慣れてないので、困り顔でアキを見る。


「アハハ! スエって相変わらずだね……って、そうだ! こんなコトしてられないんだ! クレア、パパの友達のお坊さんのトコ行くよ!!」


 『相変わらず』という言葉にズキッとした。


 もちろんアキに悪気は無いんだろうが、そういうフレーズに対して卑屈になってしまっているからか、

『相変わらず成長していない』

という風に聞こえてしまう。


 鉛でも飲み込んだような気持ちを隠して平静を装う。


「もしかしてイノベのトコ行くの? 今イベントの会合やってるよ?」


 クレアを捕まえたアキが、ハッとしてこちらに振り返る。


「あちゃー、そうだった! それ今日かー。仕方ない……クレア、また来ようか?」


 手を繋いで帰ろうとするが、クレアは首をブンブン横に振っており、残像で阿修羅像のようになっている。


「もー! ワガママ言わないでよ…」


 アキは顔を拭いながらクレアをなだめる。ヨダレか鼻水が飛んでたのね。


「いやぁだ! くぅ、チェーとあそぶモン!」


 クレアはアキの手を振りほどき、俺の後ろに隠れた。


「凄い……私、初めて見たかも」


 エリカさん、急にどうした?


「え? 何が?」


「初めて生で見れた……ストックホルム症候群」


「誰が誘拐犯だよ! 無意味なカットインしなくてイイから!!」


 急な大声でクレアがビクッとしたので、その隙を見逃さずアキが抱き抱えた。


「ハハハ! スエって誰からもイジられるよね? じゃあ、また今度ゆっくり」


「やだー! チェー!!」


 担がれたままこちらに手を伸ばすクレアと、時々振り返って手を振るアキを見送る。


 明るく振る舞ってはいたが、手汗が酷くムチャクチャ疲れた。


「はぁ……エリカさん、悪いけど俺このまま帰るわ。イノベとリトルデイトのメンバーによろしく」

 

 幸い荷物らしい荷物も持ってなかったので、ここで帰っても問題無さそうである。


「え? ちょっと! 挨拶しなくてイイの? 住職と同級生なんでしょ?」


 もう説明も面倒なぐらい疲れてしまい、エリカの方に振り返り手を振ると、アキが帰った方角と別の方向に向かって歩いた。


 イノベとアキに会ったコトにより、このままだと近々イマイにも会わされそうな気がするなぁ……


 一人一人なら何とかなりそうだが、さすがに一堂に会すると厄介だよなぁ……


 やっぱ中学フェイドアウトしたコトとか、謝ったりするべきかなぁ……


 っつーか、ホントに俺、イベントで弾き語りとかすんのかなぁ……


 などと腕組みしながらブツブツ独り言を呟き、頭を抱えながら帰路に就いていると、気付けばもう家はすぐそこだった。

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