ルシアンヒルの上で/RED WARRIORS
「おースエノ! 立派な演説だったぜ?」
「俺も聞いたよ。美しき友情って感じだったな! ジャージもよく似合ってるじゃん♪」
目の前にはいま一番会いたくない……いや、これまで生きてきた中で会いたくないランキングぶっちぎりでトップの顔触れがあった。
あぁ……そうか。一人で勝手に終わった気でいたけど、そんな単純な話じゃないよな。
「お、おぉ、何か…俺が、学校来なくて……迷惑、してるヤツが居るって……聞いたから」
さっき校庭で拡声器越しに話した時とは、比べ物にならないくらい動悸が激しくなって、冷や汗が頬を伝う。
「俺達も迷惑してたんだぜ? まるでお前のコトをイジメて登校拒否に追い込んだみたいに言われて……なぁ?」
そう言って、名前も思い出せない首謀者が、後ろに引き連れた三人の取り巻きに同意を求めた。
「あ、ああ、ゴメン……迷惑掛けたね……うん、それじゃ、俺、も、もう行くから」
自分の意思とは裏腹に、声が震えているのが解ったが、それを悟られまいと必死に平静を装う。
「いやいや、待てよ! 久々に会ったのに寂しいじゃねぇか」
淡々と話しているように見えるが、悪意にも似た怒りが含まれているのがひしひしと伝わってきた。
一刻も早くこの場を立ち去りたかったが、そう簡単に解放してくれそうにない様子である。
「そんなにビビるなよ。それじゃ俺達がイジメてるみたいだろ?」
一体どうすりゃイイっていうんだ? コイツらの目的が解らないコトが一番不気味だ。
「だからさ、ちょっと俺達とお喋りしようぜっつってんだよ!」
「あ、ああ、わかったよ……それで、俺はどうしたらイイ?」
出来るだけ、コトを荒立てたくはない。可能な限り刺激しないように下手に出る。
「簡単なお願いだよ。まぁそんなに慌てんなって! 俺ら友達だろ?」
薄ら笑いの口元から発せられた『友達』という言葉に吐き気がした。
「さっきお前がイマイを擁護したみたいに、俺らのコトも弁解してくれって話だよ。ちょっとフザケてただけだって」
そのちょっとしたおフザケで、こっちは登校出来なくなってるんだけどな……沸々と怒りが込み上げるが、俺としてはさっさとここから逃げ出したかった。
「う……うん。みんなに、そう、伝えておくから」
中学生の俺の自尊心が死んだ瞬間だった。
「ハハハ! そう? 悪いね! わかってくれて嬉しいよ。友達として」
自分がいまどんな顔をしているのか解らないが、きっとヒドイ顔なのだろう。
「ちなみに、余計なコト言ったら罰ゲームだから! スエノが学校来ないなら、仲良しのイノベとかイマイとか……彼女のヨシダに実行、で、イイよな?」
俺だけでは飽きたらず、親友と呼べる数少ない人間にまで手を出そうとしているとは……このクズ野郎!!
「だ、大丈夫だって。じゃあ俺、先生に……フザケてた、だけ、だって伝えてくる……から」
あわよくばこのまま午後の授業に出て、明日からも登校しようなどと思っていたが、そんな希望は粉々に砕かれた。
親友という人質まで取られてしまい、淡い期待も叶わぬ夢と化す。
不本意ではあるものの、クズ共の弁明のため職員室に向かおうと思ったが、ズタズタのジャージで『イジメられてません』と言ったところで火に油である。
俯いたまま、急いで教室に向かい制服に着替え、フワフワと現実味を帯びていない状態で担任教師の元へ。
自分が何を言ったかも覚えていないが、長期欠席はイジメが原因ではなく、健康上の理由だと伝えたコトだけは確かだ……と思う。
結果的にイマイは救えたが、俺自身は振り出しに戻った感じで、その後は保健室登校や課題の提出により灰色のスクールデイズは終了。
見えない人質を取られ、被害が及ばないよう出来るだけ友人達と関わらずに過ごしたので、当然だが卒業式も欠席。
人付き合いが怖くて堪らなかったが、高校だけは行ってくれという両親の願いで、知ってるヤツが誰も居ない片道2時間半も掛かる私立の男子校に通った。
もちろん友人など誰も作らずに、である。
それから、流れに任せて大学まで卒業させて貰えたのは有難かったが、特に思い出など一つも無く今に至る。
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と、こんなツラいコトを10話と半分も使いながら、時間にしてモノの数秒でフラッシュバックさせつつ、今まさに目の前にいる30歳のイノベと対峙しているのだ。




