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みそギ!~三十路で始めるギター教室~  作者: ボラ塚鬼丸
teenage riot編
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Scarborough Fair Canticle/Simon & Garfunkel

「おいイマイ! しっかりしろよ!!」


 突然部屋に入ってきた俺に、イマイとアキはビクンと肩をすくめて硬直した。


「ちょ、ちょっと! 何なの? コレ」


 一呼吸置いて、それまでの空気を払拭するように、アキが俺を問い詰める。


 俺はお構い無しに、イマイに対しての叱責を続けた。


「ウダウダ悩んでる時間なんて無ぇんだぞ? 誰かに取られてもイイのかよ! 男らしく腹括れよ」


 とは言え、好きな女の子を他のヤツに譲ってる時点で、ホントに男らしくないのは俺なんだが。


「イヤだ……」


 ここまで言われて黙っているほどイマイもヘタレではないようだ。


 グッと両手の拳を握り締めて、イマイは隣に座るアキの方に向き直る。


 アキはアキで、俺が叫んだ内容を理解してか、これから起こるコトを察してどぎまぎしている。


「ヨシダ……俺……」


「は、はい!」


「俺、お前が好きだ! 他の誰かになんて取られたくない!! 俺と付き合って欲しい」


 おお、遂に言いやがった…けど、アキは俯いたままだ。


「うん、嬉しい……でも……」


 え? 断るの? 困るコトなんて無いだろ。


「アタシさ、5コ下の弟が居て……いま小3なんだけど、色々と手が掛かるんだよね? だから……」


 それを聞いた俺は、小学校5年生の時、病気で亡くなったアキのお父さんの葬儀を思い出していた。


 幼いながらも気丈に振る舞うアキは、涙を浮かべて泣きたいのも我慢し、事態を把握していない弟の手を握り、焼香する参列者に頭を下げていた。


 その頃は俺もガキだったから、他人事のように傍観するしか術が無かったが、今はアキがこの数年間をどんな想いで生きてきたか理解出来る。


 『お姉ちゃんだから』とか『弟が居るんだから』と、多くの犠牲を払って来たのを目の当たりにする場面に出くわすコトもあったからだ。


 ただ、中学2年生で相思相愛の同級生から受けた告白まで我慢しなきゃならないなんて残酷過ぎる。


「ヨシダ……素直になれよ! お前はどうしたいんだよ!!」


 きっとアキは、弟のコトや家庭の事情を理由に断ろうとしているのだろうと思ったが、矢も盾もたまらず叫んでしまった。


「は、はぁ? アンタには関係無いでしょ? アタシは……アタシ、だって……」


 違う。俺はアキにこんな顔をさせるタメにこの作戦を計画したんじゃない。


「もう我慢すんなよ! 俺もイノベも小学校の頃からお前のコト見てんだよ!! 家庭の事情は知ってる……けど、それはお前が幸せになっちゃいけないって理由にはなんねぇだろ」


「でも……」


 勢いに任せて核心を突いてしまったので、アキが辛そうな顔でこちらを見ている。


「イマイ、お前の意中の人はこう言ってるけど……どうする?」


 頑ななアキから、蚊帳の外にいるイマイに矛先を変えた。


「諦められないよ。俺は……そういうのひっくるめてヨシダを守りたいし、ヨシダが大変なら俺が支えたい。それじゃダメかな?」


 よく言ったイマイ! 男らしいじゃないか。


 アキは少し躊躇ったが、意を決してイマイの顔を見上げる。


「うん……わかった。宜しくお願いします」


 そう言ってすぐに俯いたアキが、少し涙目になっているように見えた。


 父の葬儀で悲しくても泣かなかった彼女が、自分の幸せのタメに嬉し涙を流している。余計なお世話だったかもしれないけど、無理矢理にでも告白させて良かった。


「やった! スゲェ嬉しい!!」


 イマイがマイクを握り、大声で叫んだのを聞いてイノベが両手でドリンクを抱えて部屋に入ってきた。


「遅ぇよ! 外で待たされる身にもなれっての」


 イノベはテーブルにドリンクを置くと、通話中だったPHSを切って無言のまま俺にもう一方の回収をアゴで命じた。


 そんなコトすっかり忘れてたので、ソファの隙間からPHSを取ってポケットに仕舞う。


「ちょっと……盗み聞きとか趣味悪くない?」


 アキから向けられる冷ややかな視線をかわして、テーブルのドリンクを全員に配る。


「いやぁめでたい! とりあえず乾杯でもしようじゃないか!!」


「いや、誤魔化さないでよ!」


「それでは、ヨシダとイマイの記念日に乾杯~!」


 俺は俺で今日が失恋記念日なのだが、コレは墓場まで持って行くとしよう。


「んじゃ一仕事終わったトコで、イマイはもう一曲ぐらい歌っとけ!」


 タッチパッドでエレファントカシマシのページを開いたまま、それをイマイに渡すと、幸せの絶頂期といった感じで鼻歌まじりに曲を選んでいた。


 そしてイマイは『四月の風』という曲を熱唱していたが、途中でチラリとアキを見て、

『愛する人に捧げよう』

という歌詞を、恥ずかしそうに歌うのが、何とも可愛らしく思えた。

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