Pretender/Official髭男dism
「とにかく、景気付けに一曲歌っとけ! そしたら俺ら席外すから」
小声且つ早口でイマイに作戦を伝え終わると同時に、ガチャリと部屋のガラス扉が開いた。
「あれ? 部屋ココでイイんだよね? 他のコまだ来てないの?」
ドアの隙間から、恐る恐る首だけ突っ込んだアキが、部屋の様子を伺っている。
「まぁとりあえず入りなよ。そのウチみんな来るだろうから」
怪しさ満載のカラオケルームに招き入れると、俺とイノベはこの後に巻き起こるであろう事態を想像して、つい口角が上がってしまっていた。
「え! ちょっと怖いんだけど!! アンタら何か企んでるでしょ?」
この空間に漂う罠めいたモノに勘が働いたのか、アキは一向にソファに座ろうとしない。
「大丈夫だってば! イマイも居るんだから安心しなよ」
アキを誘導して、ガチガチに緊張しているイマイの隣に座らせると、お互いに無言で会釈している。
急に他人行儀になってんじゃねぇよ!
「んじゃ、イマイから一曲歌ってよ。何にする?」
タッチパッド式のリモコンをイマイに渡すと、意を決して選曲→送信。大きく息を吐いてマイクを握った。
ディスプレイに映し出されたのは、イマイが好きなエレファントカシマシの『悲しみの果て』だった。
前奏無しで始まった曲に合わせ、イマイはやや投げやりにも取れる歌い方で、大声を張り上げている。
間奏で何度も咳払いをしつつ、血管が張り裂けんばかりに歌い終えると、俺とイノベはワザとらしいぐらいに拍手と歓声を上げた。
「いやぁイイ熱唱だった! 見てたら喉乾いちゃったよ。ドリンク取ってくるからちょっと待っててくれる?」
そう言って俺は、後ろ手で自分のPHSからイノベのPHSに電話を掛けて、ソファの隙間に隠す。
イノベは気付かれないようにボタンを押して、通話状態のまま二人で部屋を出た。
直前に俺達を呼び止めるアキの声が聞こえたが、お構い無しにドアを閉じると、イノベの手元のPHSから少し遅れてその声が響いた。
「よし! 第一段階終了だな」
イノベに送話口を親指で押さえさせて、こちらの声が俺のPHSから漏れないように注意させる。
通話料が無料っていう利点を活かして、PHSを盗聴機代わりに室外から中の様子を探るとは、我ながら良いアイデアだ。
「お前も悪趣味だなぁ。二人のタイミングでつき合わせてやれよ」
イノベはやれやれ顔でそう言うが、アイツらを二年間も見てればお節介も焼きたくなるモノだ。
実際、イマイは何度か女子からも告白されているが、それを申し訳なさそうに断っているのも知っていたし、逆にアキだって想いを寄せている男子生徒が居るコトぐらい知っている。
……と言うか、ココに一人アキを好きな男が居るんだから間違いない。
それでもアキがイマイに好意を持っているコトと、イマイもアキのコトが好きなのを知っている以上、二人が付き合う方が良いに決まっている。
少なくとも俺は、小学校の頃から見ているアキが、イマイの前では恋する女の子の顔になるコトに悔しさを感じてはいるものの、彼女の幸せを願ってしまうのを止められなかったのだ。
「世話焼きのモブが、血の涙を流しながらココまで骨を折ってるんだ。上手く行ってもらわなきゃ困るよ」
二人が付き合う記念日が、俺の失恋記念日になるってのも皮肉ではあるが、正直な気持ちとしては二人には幸せになってもらいたい。
「お、何か話してるぞ?」
イノベのPHSに耳を寄せるが、さっきアイドルソングを熱唱した時に怒られたコトが頭を過り、差し障りない程度で聞き耳を立てた。
「あ……あのさ、ヨシダは受験勉強とか……してる?」
おお! さりげない勉強の会話から。
「うん……アタシ私立の女子高受けるんだ」
え! アキって女子高行くの? 高校離れちゃうじゃん!!
「そっか……俺、サッカー強い学校の推薦貰うのに必死だよ。意外と偏差値高いから、スポーツだけじゃダメみたいで」
イマイも近所の都立じゃないのか……みんな進路はバラバラなんだな。
「……」
「……」
会話が続いてねぇ。ああ、もう! じれったい!!
「ダメだ、俺ちょっと行ってくるわ。イノベはドリンク4つ持って来て!」
「は? いや、早過ぎるだろ! せめて一話分ぐらい様子見ろよ!!」
この調子で行くと文字化けみたいな話になるだろう? そんなモン誰が読むっていうんだ!
俺はイノベの制止を振り切り、勢いよく部屋の扉を開いた。




