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みそギ!~三十路で始めるギター教室~  作者: ボラ塚鬼丸
teenage riot編
36/175

I Call Your Name/The Beatles

「ほら! みんな大好きタダ酒だよ! アミオさんも飲んで飲んで」


 会場の誰よりも嬉しそうに、ミチヨが手元のグラスにビールを注いでくる。


 正直こちらとしては、同じ空間に居る同級生に身バレしないかが心配過ぎて、酔うに酔えない状況である。


「あれ? あの時のお兄さん! ギター弾いてます? もー、このコ達って金払い悪くて困っちゃうよね?」


 大声で絡んできたのは、サクラとミチヨが助っ人で入るという質屋の店主だった。


「あ、はい。いつぞやはどうも。彼女達とお知り合いだったんですね?」


 あんなにも情け容赦無い対応しといて、知り合いっていうのも凄い人だな。


「知り合いっていうより、こっちは被害者みたいなモンだよ。金にならないような楽器持ってきては金貸してやってるんだから。お兄さん来た時は本気で売ってやろうと思ったのになぁ……」


 あぁ、やっぱ本気だったんだ。


 まぁ仕事だから当然と言えば当然なのだが、どこに行っても貧乏バンドという印象を持たれている彼女達に哀れみすら抱いた。


「だけどコイツら、金は無いけど技術だけはあるんだよ。ギター歴40年以上の俺が助っ人頼むぐらいなんだから……ってホント、北口には負けんなよ? 盛り上がらなかったらギャラ払わないからな?」


 ミチヨとサクラのグラスに、片手で交互にビールを注ぎながら、質屋の店主はギラギラとした目付きで、対岸に座る別の商店街バンドを睨み付けていた。


 その視線の先には、マキとエリカが中年男性達に囲まれて激励を受けていたので、空いた座布団の上を平行移動して、会話が耳に入る場所に座り直した。


「アイツら毎年毎年、ウチの方が集客多かったとか細かいコトばっかり言いやがるから、今年はキッチリとカウントしとけよ!」


 中心の男性が、傍らに座らせている若手を怒鳴り付けていたので、隙を見計らってマキから内情を聞き出す。


「あのさ、これって今どういう状況なの?」


「あー、コレ? 毎年のコトみたいなんだけど、ボクのバイト先とミチヨのバイト先って線路のこっちと向こうで別れてるじゃん? 簡単に言うと、地域の代理戦みたいなイベントになっちゃってんだよね」


 別れてるじゃん? って言われてもすぐに思い出せないが、ミチヨは弁当屋でマキがDVDレンタル屋か、と、頭の中で駅前の立地を思い浮かべる。


 ああ、確かに近いけど線路を挟んで両側に位置している。


「でもさ、代理戦…って言っても、さっきの説明じゃコンテストみたいな要素無かったよね?」


「んー、確かに優劣を競うワケじゃないんだけど、年に一回のお祭りで、どっちが盛り上がったとかお客さんが多かったとか、そういうのに火が点いちゃったみたいなんだよ」


 まぁ確かに、腕に自信があればお互いのプライドを刺激しそうなモノだ。


「おや? 君は西の人間か? スパイ行為は許さんぞ!」


 先ほどまで若手の男の子を怒鳴っていた、質屋の店主と同世代とおぼしき中年男性が絡んできた。


「いやいやいや、西とか東とか無いですから! 俺、ただのギター初心者で、今回も無理矢理エントリーさせられただけなんで」


 面倒なコトに巻き込まれるのはゴメンだ。


 それに大声出されて注目を浴びると、井ノ辺に見付かってしまうじゃないか。


「そうか、ならイイけど……君、そんなコトより西口が当日に演る曲目聞き出してきてくれないか? 上手くいったらウチの店で一杯奢るよ」


 スパイ容疑の次はスパイ活動の依頼か。素性も知れない人間から頼まれても、危ない橋など渡る気がしない。


「あ、紹介しとくわ。アミオ君、こちら北口商店街でイタリアンレストランやってる笠井さん。昔スタジオミュージシャンやってたベーシストだよ」


 スタジオミュージシャンとか出演すんのかよ! ギター歴数ヶ月の俺が居るトコじゃねぇだろ。


「あんな何十年も素人でやってるギターとはワケが違うんだよ。今年もこっちには歌姫が付いてるし、なぁ!」


 そう言って、笠井は隣に座っているエリカの肩をバンバン叩いた。


 明らかにエリカが怪訝そうな顔をしているので、不快なのだろうと察して、なるべく目を合わせないようにグラスのビールにチビチビと口を付ける。


「楽しんで頂けてますか? いやぁ商店街の皆さんには、ホントいつもお世話になっております」


 ビール瓶を両手に持った井ノ辺が、ヒートアップ寸前の西口と北口の仲裁といった感じで、交互に酌をして回ってきた。


「おう住職! 今年こそ北口とどっちが上か決めてもらうからな!!」


「はぁ? そんなモン聞くまでもなく決まってんだろ? ウチに勝とうなんて100年早ぇわ」


 事態が余計に悪化してる気がするので、井ノ辺に気付かれないように場所を移動しようとしたが、慣れない正座で足が痺れて尻餅をついた。


「あらら、大丈……夫?」


 起き上がろうとした時、俺を気遣ってくれた井ノ辺と目が合ってしまった。


「あれ? やっぱスエ…だよな? さっきから気になってたんだよ」


 井ノ辺の口から発せられた『スエ』という、何年も呼ばれていない名前に戸惑う。


 いくら広い座敷だろうが、これだけ同じ空間に居れば流石に鉢合わせるよな。


「い、いえ、人違いです。私はマツノですから。マツノアミオです」


 今さら誤魔化せるハズもないが、ヤケクソでエントリーしている偽名を名乗って、俺はこの場を遣り過ごそうと思った。

実際のところ、地元の商店街やら町会は、こんなに殺伐としておりません。

池上は楽しい街ですよ♪

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