今夜はブギー・バック/スチャダラパーfeaturing小沢健二
「あ、マツノさん! こっちこっち!」
人通りの無くなった暗い本門寺の参道に、勝手にエントリーした上に俺を呼び出したサクラだけでなく、マキ、ミチヨ、エリカまでもが待ち構えていた。
「あー、そう言えばリトルデイトも出るんだっけ?」
「いやいや、さすがにお寺で爆音は出せないから、アタシら別々のバンドに助っ人で駆り出されてるんだよ。昭和歌謡のコピバンでね」
助っ人? まったく理解出来ん。まぁこれから打ち合わせなんだから、すぐにわかるだろう。
「もう結構集まってますよ! 早く中に入りましょう」
サクラに促されて、寺の正面から中に入ると、三~四十畳はゆうにあろうかという大広間に、老若男女がひしめいている。
座敷に座る人を掻き分け、俺達は末席の座布団に腰を下ろした。
「えー、定刻を過ぎましたので始めさせて頂きます。イベント主宰の当院住職を務めさせて頂いております井ノ辺です。宜しくお願い致します」
頭は丸めてるが、やっぱ井ノ辺だわ……GTOの時の池内博之かと思うぐらい相変わらずの男前だ。
しかも中学の頃に、カラオケで俺の歌を『キモい』っつった張本人。
コイツの記憶の中で、当時と今の俺の風体が著しく変わっているコトだけを祈りつつ挨拶を聞き流すが、物持ちが良く中学の頃から着続けているパーカーがあるぐらい、体型に変化がないどころか、お陰様で毛髪も2323(フサフサ)である。
続いて町会やら商店会やらの会長が挨拶をすると、揃いの蛍光色ジャンパーを纏った実行委員会的な若者の諸注意が始まった。
井ノ辺に、俺の素性がバレないようにするにはどうしたら良いか、というコトを考えていて上の空だったが、要約するとこうだ。
・会場になる寺は四ヵ所(中での飲食禁止)
・チケットはリストテープ式で会場の行き来は自由
・車両通行止めにした参道で商店会のテントを張って、そこで飲食物の販売を行う
・出演者も自分の出番以外は各会場での観覧可
・持ち時間オーバーは強制終了
他にも細かいコトを言ってたが、まぁ弾き語り初心者は隅っこで大人しくしてれば問題無いだろう。
続いて出演者の挨拶が始まった。
「えー毎度どうも、寄席で参加させて頂きます、游玄亭南無留と、こっちは緒礼儀と申します」
「フラメンコで出演します、瀬古ハレオです」
バンドだけじゃなくて、落語やフラメンコなんかも出るのか。本格的な演目が多そうで、急に緊張してきた。
「西口商店街の石田です。今年は北口のバンドには負けないんで、シクヨロ!」
あれ? 見たコトあると思ったら、いつぞやの質屋の店主じゃないか。
っていうか、サクラとミチヨも一緒に立ち上がってペコペコしてるけど、助っ人ってソコなの?
「北口商店街の笠井です。今年も西口より盛り上げますので宜しくお願いします!」
今度は別の年配男性と一緒に、エリカとマキが挨拶してる。
リトルデイトは半々に分かれて出演するようだ。
それにしても、商店街のオッサン連中がバチバチと険悪なムードを醸している。
その他にも20組ほどの挨拶が続き、遂に俺の番になってしまった。
「ほら! マツノさんの番ですよ!」
サクラに促されて座敷の隅で立ち上がると、周囲の目が一斉に注がれた。
伏し目がちに井ノ辺をチラりと確認すると、ハッとした顔をしているので素知らぬ顔で挨拶をした。
「えっと、弾き語りで参加します末……マ、マツノです。初心者です。宜しくお願いします」
危うく本名を言いかけたが、何とか誤魔化せた……と、思う。
井ノ辺は、訝しげな表情でこちらを見ては小首を傾げている。
あぁ、やっぱ来るんじゃなかった。
「ありがとうございました。以上24組の出演者の皆さん、当日は大いに盛り上がっていきましょう。宜しくお願い致します!」
実行委員の締めの挨拶で、会場は拍手に包まれた。
「それでは、ここから懇親会に移らさせて頂きます」
え? 懇親会?
「いよっ! 待ってました!!」
ミチヨが運ばれてくるビールを、ニヤニヤしながらグラスに注ぎ始める。
結局それが目的か。
俺はただただ井ノ辺に見つからないよう、気配を消すコトだけに集中した。




