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みそギ!~三十路で始めるギター教室~  作者: ボラ塚鬼丸
teenage riot編
34/175

奇跡の地球/桑田佳祐&Mr.Children

「なるほど……実家からお母さんが上京するから、私に彼女のフリをして欲しいと……そういうコトですか」


「あ、いや、あの……サクラさん? 俺そんなコト一言も言ってないですよね?」


 サクラは久々にウチに来たと思ったら、よくわからないコトを言い出した。


 大体そんなラブコメのド定番イベントなんてやるワケないだろう。


「それよりさ、俺ってまだギター弾き続けるってコトになってるの?」


「当たり前ですよ! バトルモノでもないクセに……あんな

『オレ達の戦いは始まったばかり』

みたいな終わり方で納得出来るワケないじゃないですか!」


 無駄に高い熱量で話すサクラが心配になった。


「あ、ちなみに今は生活苦でちょっとハイになってるだけです。借金もちゃんと返しますからご安心ください」


 そう。俺はこのサクラという少女にお金を貸して、代わりにギターを教えて貰っている。


 たまたま立ち寄ったリサイクルショップで、質草だったギターが流れる直前に偶然救ってあげたのだ。


 職場の後輩にモテようと思って、ギターでも弾けるようになったら……なんて考えてた矢先だっただけに、何の疑問も持たずにギターを始めてしまったのである。


 まぁ借金完済まで教えてもらうという契約だったものの、やる気が起きずに一度は辞めようとしたんだが……


 この少女達から、脅迫にも似た条件提示によって、生まれてこのかた本気で何かに取り組んだコトが無かった俺が、お陰様で多少はギターが弾けるところまでは辿り着けて、人前で歌う事までやってのけたのだ。


「ところで! あのお花見以降ギター弾いてます? やっぱり辞めるとか……言わないですよね?」


 怖い。女の子の懇願ほど怖いモノは無いと、ここ数ヶ月で骨身に染みている。


 ギターを弾いていると言えば弾いているし、コードも幾つか覚えてはいるものの、あれから特に進歩しているとは言いづらい。


「まぁ、弾いてないワケじゃないんですけどね。何かモチベーションが上がらないというか、目標が無いんで上手くなってる気がしないというか……」


 弾いていると答えても、じゃあ弾いてみろ、と言われてしまえば、即刻ウソがバレるのは明白だったので、当たり障りのない程度でお茶を濁す。


 あと、よくよく考えたら、

『坊主orビンタ』

みたいな条件提示が無ければやる気が起きないとか、どんだけマゾヒストなんだよ俺。


「ところでマツノさん! テラソニックって知ってます?」


「テラ……ソニック?」


 おかしなテンションだったサクラが、急に冷静になって俺に問い掛けて来た。


 メガ→ギガと来てテラ。


 最初は小さなライブハウスから始まったイベントは、いつしか国内最大級のフェスになった……


 って感じの何かだろうか?


「何かのイベント? それがどうかしたの?」


「マツノさんの名前でエントリーしておきましたので」


「はぁ??」


 どんな罰ゲームだよ!名前から察するに、モンスタークラスのイベントじゃないのか?


「いやいやいや、俺まだ初心者だよ? そんな大勢の前でギターなんて弾けるワケないじゃん!」


「そんなコトないですよ? オープンマイクみたいなステージもあるんで」


 スタジアムみたいなトコに飛び入りで出るヤツとか居るのか?


 まぁ逆に、野心の塊みたいなヤツらが殺到するような気もするが……


「そもそもどこでやるの? 幕張メッセとか、お台場みたいなトコ?」


「何言ってるんですか? 地元ですよ。本門寺の周りのお寺です」



 寺ソニック!!



「あー、そういう感じか。寺ね。寺。テラソニックね」


 確かに寺町なら、そんなイベントの一つや二つあってもおかしくなさそうなモノだ。


「あ、ひょっとしてマツノさん、テラソニックのテラが、『地球(テラ)』だと思ったんでしょ?」


 竹宮惠子先生……っつーか、誰が地球規模のイベント想像するんだよ。


「いや、思ってないけど……」


「目標が必要だからテラソニックなんですよ! 目的が無かったら人間進歩しないんですから!」


「目的は……そう、そうね。確かに無いよね。うん」


 本来の目的は職場の後輩にモテたいからなどと、バンドに本気で向き合っている彼女達には口が裂けても言えない。


「と、言うコトで明日の夜に顔合わせがあるので、一緒に来てください」


「明日? 俺、仕事なんだけど……何時にどこまで行くの?」


「他の参加者も地元で働いてたりする人ばっかりだから、20時に本門寺の裾野にあるお寺です。待ち合わせして一緒に行きましょう!」


 本門寺の裾野……イヤな予感がするなぁ。知ってるヤツの寺だったら面倒臭い。


「ちなみに何て寺?」


「えーっと、確か『妙昭院』だったと思います」


 うわぁやっぱりそうか……


 かつて一緒にカラオケ行って、俺の歌を『キモい』って言ったヤツの実家だ。


「そこにさ、チャラチャラした若作りの坊さん居ない?」


「あー、井ノ部さんですよね? 井ノ(イノベ)寛人(ヒロト)さん。その人がテラソニの代表ですよ」


 マジか……そんなヤツの前で俺が弾き語りするなんて知られたら、笑い者にされるだけじゃないか!


「あのー、やっぱ出ないって選択肢は無いでしょうか?」


「ダメに決まってるじゃないですか! ちゃんとマツノアミオってエントリーしてるんですから!」


 だから誰なんだよマツノアミオって!


 ……いや、待てよ? 実名じゃないなら気付かれない可能性だってあるじゃないか。


 何とか覆面被ったりして誤魔化す方向で頑張ってみるか。


「顔隠して出ても平気かなぁ? もしくは誰だかわかんないぐらいのメイクするとか」


「え? お寺でやるんですよ? 初来日した時に京都で記念撮影したKISSみたいになりますよ? っていうか、実力に見合ってない出で立ちで悪目立ちしてどうするんですか」


 あー、確かにそうね。


 井ノ部も俺のコト覚えてない可能性あるし、行くだけ行ってみるか。


 最悪覆面でもすればイイだろ……


「じゃあ、不本意ですが行きますよ」


「オッケー! では明日の20時前ぐらいに、本門寺の総門で待ってますね? ちなみに当日は私も出演しますから」


 え? 出るの? 所謂対バンてコト?


 不安だけを残したまま、あっという間に翌日の顔合わせを迎えてしまった。

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