奇跡の地球/桑田佳祐&Mr.Children
「なるほど……実家からお母さんが上京するから、私に彼女のフリをして欲しいと……そういうコトですか」
「あ、いや、あの……サクラさん? 俺そんなコト一言も言ってないですよね?」
サクラは久々にウチに来たと思ったら、よくわからないコトを言い出した。
大体そんなラブコメのド定番イベントなんてやるワケないだろう。
「それよりさ、俺ってまだギター弾き続けるってコトになってるの?」
「当たり前ですよ! バトルモノでもないクセに……あんな
『オレ達の戦いは始まったばかり』
みたいな終わり方で納得出来るワケないじゃないですか!」
無駄に高い熱量で話すサクラが心配になった。
「あ、ちなみに今は生活苦でちょっとハイになってるだけです。借金もちゃんと返しますからご安心ください」
そう。俺はこのサクラという少女にお金を貸して、代わりにギターを教えて貰っている。
たまたま立ち寄ったリサイクルショップで、質草だったギターが流れる直前に偶然救ってあげたのだ。
職場の後輩にモテようと思って、ギターでも弾けるようになったら……なんて考えてた矢先だっただけに、何の疑問も持たずにギターを始めてしまったのである。
まぁ借金完済まで教えてもらうという契約だったものの、やる気が起きずに一度は辞めようとしたんだが……
この少女達から、脅迫にも似た条件提示によって、生まれてこのかた本気で何かに取り組んだコトが無かった俺が、お陰様で多少はギターが弾けるところまでは辿り着けて、人前で歌う事までやってのけたのだ。
「ところで! あのお花見以降ギター弾いてます? やっぱり辞めるとか……言わないですよね?」
怖い。女の子の懇願ほど怖いモノは無いと、ここ数ヶ月で骨身に染みている。
ギターを弾いていると言えば弾いているし、コードも幾つか覚えてはいるものの、あれから特に進歩しているとは言いづらい。
「まぁ、弾いてないワケじゃないんですけどね。何かモチベーションが上がらないというか、目標が無いんで上手くなってる気がしないというか……」
弾いていると答えても、じゃあ弾いてみろ、と言われてしまえば、即刻ウソがバレるのは明白だったので、当たり障りのない程度でお茶を濁す。
あと、よくよく考えたら、
『坊主orビンタ』
みたいな条件提示が無ければやる気が起きないとか、どんだけマゾヒストなんだよ俺。
「ところでマツノさん! テラソニックって知ってます?」
「テラ……ソニック?」
おかしなテンションだったサクラが、急に冷静になって俺に問い掛けて来た。
メガ→ギガと来てテラ。
最初は小さなライブハウスから始まったイベントは、いつしか国内最大級のフェスになった……
って感じの何かだろうか?
「何かのイベント? それがどうかしたの?」
「マツノさんの名前でエントリーしておきましたので」
「はぁ??」
どんな罰ゲームだよ!名前から察するに、モンスタークラスのイベントじゃないのか?
「いやいやいや、俺まだ初心者だよ? そんな大勢の前でギターなんて弾けるワケないじゃん!」
「そんなコトないですよ? オープンマイクみたいなステージもあるんで」
スタジアムみたいなトコに飛び入りで出るヤツとか居るのか?
まぁ逆に、野心の塊みたいなヤツらが殺到するような気もするが……
「そもそもどこでやるの? 幕張メッセとか、お台場みたいなトコ?」
「何言ってるんですか? 地元ですよ。本門寺の周りのお寺です」
寺ソニック!!
「あー、そういう感じか。寺ね。寺。テラソニックね」
確かに寺町なら、そんなイベントの一つや二つあってもおかしくなさそうなモノだ。
「あ、ひょっとしてマツノさん、テラソニックのテラが、『地球』だと思ったんでしょ?」
竹宮惠子先生……っつーか、誰が地球規模のイベント想像するんだよ。
「いや、思ってないけど……」
「目標が必要だからテラソニックなんですよ! 目的が無かったら人間進歩しないんですから!」
「目的は……そう、そうね。確かに無いよね。うん」
本来の目的は職場の後輩にモテたいからなどと、バンドに本気で向き合っている彼女達には口が裂けても言えない。
「と、言うコトで明日の夜に顔合わせがあるので、一緒に来てください」
「明日? 俺、仕事なんだけど……何時にどこまで行くの?」
「他の参加者も地元で働いてたりする人ばっかりだから、20時に本門寺の裾野にあるお寺です。待ち合わせして一緒に行きましょう!」
本門寺の裾野……イヤな予感がするなぁ。知ってるヤツの寺だったら面倒臭い。
「ちなみに何て寺?」
「えーっと、確か『妙昭院』だったと思います」
うわぁやっぱりそうか……
かつて一緒にカラオケ行って、俺の歌を『キモい』って言ったヤツの実家だ。
「そこにさ、チャラチャラした若作りの坊さん居ない?」
「あー、井ノ部さんですよね? 井ノ部寛人さん。その人がテラソニの代表ですよ」
マジか……そんなヤツの前で俺が弾き語りするなんて知られたら、笑い者にされるだけじゃないか!
「あのー、やっぱ出ないって選択肢は無いでしょうか?」
「ダメに決まってるじゃないですか! ちゃんとマツノアミオってエントリーしてるんですから!」
だから誰なんだよマツノアミオって!
……いや、待てよ? 実名じゃないなら気付かれない可能性だってあるじゃないか。
何とか覆面被ったりして誤魔化す方向で頑張ってみるか。
「顔隠して出ても平気かなぁ? もしくは誰だかわかんないぐらいのメイクするとか」
「え? お寺でやるんですよ? 初来日した時に京都で記念撮影したKISSみたいになりますよ? っていうか、実力に見合ってない出で立ちで悪目立ちしてどうするんですか」
あー、確かにそうね。
井ノ部も俺のコト覚えてない可能性あるし、行くだけ行ってみるか。
最悪覆面でもすればイイだろ……
「じゃあ、不本意ですが行きますよ」
「オッケー! では明日の20時前ぐらいに、本門寺の総門で待ってますね? ちなみに当日は私も出演しますから」
え? 出るの? 所謂対バンてコト?
不安だけを残したまま、あっという間に翌日の顔合わせを迎えてしまった。




