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みそギ!~三十路で始めるギター教室~  作者: ボラ塚鬼丸
Bonus track ~思い出にもなれない~
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青すぎる空

「しかし……ねぇ?」


「まぁミチヨらしいっていうか、ボク達らしいっちゃらしいけど……」


 読者の皆様が一話読み飛ばしたワケではなく、数分前まで確かに最高潮のテンションでステージ上に居たハズのアタシは、ライブハウス脇の階段で項垂れていた。



「普通あのタイミングで切れる? ベース弦って」



 そうね。うん。切れないよ普通は。ベースの弦切ったコトなんて、今まで一回有るか無いかだし。


 しかもライブの最後の曲で、あとは後奏だけっていうトコまで来て切れるっていう。


 音圧が薄くなった演奏を、ギターとドラムだけで何とか立て直そうとしてくれたのも、逆にバタバタさせる原因になったっていうか。


 きっかけはアタシだったのに、完全なもらい事故に巻き込まれたマキとサクラが不憫でならない。


 メンバー3人から、責められるでも慰められるでもない対応を取られて、絶賛自己嫌悪中。


「いや……あの、ホント申し訳ない」


 謝ってどうなるモノでもないけど、居直って逆ギレするほどのクズでも無い。


 救いの無いドラマのエンディングみたいに、全員の口数が減っていく中、アタシを囲むメンバーの後ろから声が聞こえた。



「あの……何か、悩んでいらっしゃいます?」



 顔を上げると、人垣の隙間から申し訳なさそうに話し掛けるリエコが見えた。


 声に引き寄せられるようにフラフラと立ち上がって、汗だくにも関わらずリエコを抱きしめた。


「そういうの……間に合ってますから! もぅ……ゴメン!! せっかく来てくれたのに最後あんな感じで」


「ううん? 私、ライブハウスに来るの初めてで、凄く楽しかった」


 あれから数年が経ったってのに、相変わらずアタシはこのコの初めて記念日に立ち会ってしまう。


「私のワガママ聞いてくれてありがとう。音楽、続けてくれてたんだもんね?」


「リエコもありがとう。アタシ達との約束守ってくれて」


「うん。ダメ出ししに来たよ」


 さっきまで落ち込んでたのに、やっとアタシ達の願いが叶ったんだって思ったら、急に身体の力が抜けた。


 抱きしめてたリエコから腕をほどいて、ペタンとその場に座り込む。


 見上げるとメンバー3人とリエコ、アミオさんがアタシを覗き込んでいた。


「あー、紹介するよ。アタシとマキの大親友のリエコ」


 リエコは全員と目を合わせて、一人一人に頭を下げてた。


「んで、ウチのメンバーのサクラと、エリカ、と……何? ローディー? のアミオさん。ライブ中にリエコの護衛してもらってたんだよ」


 リエコは改めてみんなに頭を下げて、アミオさんには二回ペコペコとお辞儀していた。


「アミオさんて、変な感想言ってくれるんだよ。じゃあ、今日の感想ヨロシクぅ~」


 アミオさんが初めてアタシ達のライブに来た時の、全身ズタズタで死んだ婆ちゃんに会ったっていう感想がツボってたんだ。


「え? は? 何その無茶振り……あー、えっと、最後はトラブルに見舞われてたけど、今日は振り切れてた感じがして良かった。うん。何か、突き抜けるような青い空みたいな……」


 アタシはビックリして、リエコとマキを見ると、二人とも目を丸くしてこっちを見てた。


 きっと二人も、学校を抜け出したあの日のコトを思い出してるんだろうか。


「プッ! アハハハ!!」


 そんなコト知るハズもないアミオさんに、アタシ達3人の思い出を繋ぎ合わされたのが可笑しくて笑った。


「いやー、やっぱ面白いわアミオさん! 安定してる」


「もぅ……だからイヤなんだよ、ライブの感想言わさせるの。絶対俺のコト馬鹿にしてるじゃん」


「いいえ! 素敵な感想です。私も同じコト思ってましたから」


 リエコがフォローしてくれてたけど、あながち間違ってないんだろうなってのは、アタシもマキもわかってた。 


 ライブの失敗で落ち込んでたコトなんて忘れて立ち上がり、お尻をパンパンと払う。


 ライブは最悪だったかもしれないけど、今日は最高の夜だ。


「あ、そうだ! アタシ達の再会を祝って乾杯しないと!! ちょっと待っててね?」


 階段を駆け上がり、膝に貼ったパスを見せてフロアに戻ると、人の隙間を縫ってドリンクカウンターでビールを3つ貰い、元来た道を最短距離で戻る。


「お待たせ! じゃあリエコとマキと、アタシの約束が果たせた記念に!」


『乾杯!!』


 こんなにも楽しくて、こんなにも嬉しい日に飲むビールは最高だ。高校生では絶対味わえないし。


「あ、そうそうアミオさん! なんかドリンクカウンターの女の子が、アミオさんとお話したいって言ってたよ? んもぅ! 隅に置けないなぁ」


「え? 俺?! ……何それ、モテてんのか?」


 後半聞き取りづらかったけど、アミオさんは足取り軽く階段を登っていった。


「あ! 私、ミチヨに見せたいモノがあったんだ! あのね? 北欧ってヘヴィメタルが盛んらしくて……」


 『ヘヴィメタル』という発音が帰国子女っぽかったリエコは、いかにも皇室御用達のような、仕立ての良いチェックのシャツのボタンに手を掛けて胸元を広げる。


 飛び出してきたのは、いつかアタシが着てたメガデスの『破滅へのカウントダウン』Tシャツ。


「あは! そっか!! お嬢さん、お腹空いてない? 何か食べ行こっか」


 リエコの肩に腕を回し、渋谷の繁華街に繰り出そうとしたら、後ろからの怒鳴り声に振り返る。


「ドリンクカウンターに居たの男じゃねぇか! っつーか俺にツケて飲んでんじゃねぇよ!! 金返せ」



ミそギ~ミチヨはその後もギター初心者をカモる~







「嘘嘘!! ヤバい! 逃げるよ!!」


 鬼の形相で階段を駆け下りてくるアミオさんから、アタシ達は必死に逃げた。


「ウフフ……何かアレだね」


 走りながらリエコが笑って話し掛けてきた。


「この状況って、ミチヨに貰ったKISSのTシャツみたい」


 確かに、リエコが前に言ってた舞妓体験っていう絵ヅラとは違うけど、恐い顔で追っかけて来るアミオさんと肩を組んだアタシ達3人は、端から見ればデストロイヤーのジャケットと変わらないのかもしれない。


「あは! アハハハ!! チョーウケる」


 リエコとマキと、また3人で笑っていられるコトが嬉しくて、本気で泣きそうになった。


 今なら、あの日にリエコが嬉しくて泣いたコトが解る。


 ああ、音楽辞めずに続けてきて良かったなぁ。例えこれから先、立ち止まるコトはあっても、また歩き出せばイイじゃんね。



 ギラギラしたネオンが輝く渋谷の夜に、あの日見た青空が広がってる気がした。

inspired by eastern youth

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