サヨナラダケガ人生ダ
日焼けした肌の色が定着して薄皮が剥けた頃、学校は終業式を迎えていた。
あの日、心配したリエコの両親から学校に電話があったらしく、授業サボって海まで遊びに行ってたコトがバレたアタシ達は、当然ながらこっぴどく叱られて反省文を書かされるハメに。
優等生を絵に描いたようなリエコは、生まれて初めて反省文を提出させられており、ここでも彼女に初めての経験をさせるコトになった。
原稿用紙2枚では足りないかもしれないというリエコの反省文は、遠足の感想文のように浮かれており、そこはかと無く楽しそうな雰囲気を醸し出した文面に2度の差し戻しを喰らい、終業式前日にやっと提出出来たという始末。
旅の思い出として、反省文を返して欲しいというリエコの申し出が却下され、本人はやや不貞腐れていたが、こっそりコピーを取ってたみたいだった。
「いよいよ出発かー」
寂しくないと言えば嘘になるが、アタシ達はリエコを笑って送り出せるぐらいには落ち着いていた。
「はい! 向こうで友達が出来るか心配ですが、お二人が応援してくれるから不安じゃないです」
って言いながら、少し苦笑いしてるリエコの頭にポンと手を乗せる。
「あ、そうだ! 帰る前に部室寄ってこうよ」
残された時間を少しでも延ばそうとして、マキが提案してくれた。
「じゃあリエコに、アタシ達の高校生活最後のライブでも観てってもらうか!」
生徒のほとんどが帰った後の、静まり返った廊下を3人で歩く。
ほんの1ヶ月前まで、挨拶すらロクに交わしたコトのないアタシ達だけど、もっと話したいハズなのに今は誰も口を開こうとしない。
部室に向かう足音も、また二学期からはマキと2人だけになるのかと思うと寂しさが込み上げてきた。
「落ち着いたらさ、手紙とか書いてよ! メールでもイイけど」
「そう言えば、北欧って家具が可愛いんでしょ? 写真とか送ってね」
アタシもマキも、必死に平静を取り繕ってはいたけど、ホントにこういうのがヘタクソだなぁ。
そんなアタシ達を察してか、リエコが俯いたまま歩いている。
「んじゃ、リエコが理解出来なかった『悪巧み』じゃなく『仲良し』っていう証しに…」
アタシはカバンからTシャツを抜き取って、ガバッとリエコに被せた。
袖を通さず、レクター博士の拘束衣みたいな格好のリエコの胸元には、楽しそうなKISSの4人が練り歩いている。
「お古で悪いけど、それ見たらアタシ達のコト思い出してよ」
「ミチヨさん、こんなコトされたら、私……もう! 今日は泣かないって決めてたのに」
Tシャツで両腕の自由を奪われたリエコが、ペタペタと歩きながら涙を拭うコトも出来ず、ボロボロと泣いているのが可愛かった。
「きっと先生に見つかると早く帰れって怒られるから、あんまり爆音出せないけど、ボク達の持ち曲全部聴いてってよ」
「持ち曲って……3曲しか無いじゃん」
正直、まだ通しで演奏出来る曲は少ないけど、いま出せる全力でリエコの門出を祝ってやろう。
basket case/Green Day
Stay Gold/Hi-STANDARD
立て続けに2曲演奏して、最後はリエコもお気に入りの『青すぎる空』にした。
もうオリジナルも何度か聴かせているので、歌メロをアタシと一緒に歌ってくれて嬉しかった。
きっと自分のバンドで自分の作った曲をシンガロングされたら、もっと気持ちイイんだろうなぁなんて思いながら、曲が終わりに近付くとどんどん寂しくなった。
歌いながらリエコを見ると、初めて彼女の前で演奏した時のような驚きの表情ではなく、歌詞の通りの口の動きをしているのに、目からは大粒の涙を流している。
また泣いてるよ……なんて思ってたら、隣で俯きながらギターを弾いているマキも泣いてた。
二人ともしょうがないなぁ……そんな顔されたら、アタシだって我慢出来ないじゃん。
涙声でハミング。最後のフレーズは聞き取れないぐらいの声しか出せなかった。
曲が終わってもリエコの拍手は無く、ギターのフィードバックと3人の嗚咽に近い泣き声が教室に響いてた。




