さらばよ、さらば
砂浜まで戻って、寄せては返す波打ち際をギリギリで避けながら歩く。
来た時と同じバス停に着く頃には3人ともクタクタで、帰りの電車では途中の帰宅ラッシュに気付かないほど泥のように眠った。
目覚めると、リエコが不安そうにケータイの画面を見つめてたから、横から覗き込むと親からの鬼電。
「眠ってしまってて、まったく気付きませんでした……」
「うん。一緒に謝るから…っつーか、連れ回したのアタシだから、アタシが電話で謝るよ」
会ったコトも無いリエコの両親に電話するのは、バイトの面接に行った時より緊張したけど、確実に心配させてると思ったから正直に謝るコトにした。
受話器越しに、開口一番ヒステリックな声が響いて少しだけ気圧されたけど、落ち着いて謝罪した。
友達になって日は浅いけど、転校前にリエコとの高校生活で、どうしても思い出を作りたかったコト、寂しそうにしてたリエコを励ましたかったコト、溢れ出てくる気持ちを拙い言葉で説明すると、途中から電話を代わった父親に渋々理解してもらえた……と思う。
その後ターミナル駅で、地元のローカル線に乗り換え。ローファーに入り込んだ砂だけを土産に、最寄り駅に着いたのは21時近くになってた。
改札を出るとリエコの両親が車で迎えに来てたから、謝罪の言葉とともに深く頭を下げる。
リエコの母親が無言でこちらに詰め寄って来たので、最悪ひっぱたかれるぐらいのコトは覚悟して、身を強張らせているとリエコがアタシ達の前に立ちはだかった。
「学校を早退して連絡もせず遊んでいたコトはゴメンなさい。でも、お二人は悪くありません!」
こんなにも語気を強めて話すリエコをアタシは初めて見た。
「私、今まで友達らしい友達も居なくて、転校なんて別に何とも思って無かったんです。でも、お二人は私に色んなコトを教えてくれた大切なお友達なんです」
背中越しでも、リエコが泣きそうになっているコトはわかった。
「海の近くは駅前から潮の香りがするコトとか、焼けた砂浜が熱いコトとか、真夏でも海の水が冷たいとか、伸び切ったまま運ばれたラーメンでも、みんなで食べると美味しいコトとか……」
リエコが、さも食卓で今日あった出来事を話すように、全力で両親にぶつけている。
「それで私……初めてだったんです! 生まれて初めて『生きてる』って思えたんです!!」
リエコの勢いに両親も驚いているみたいだった。きっとこんな彼女を見るのは、両親も初めてだったんだろう。
「だから……転校なんて、したくない!お二人と離れるぐらいなら、こんな……こんな身体……」
「それ以上は言っちゃダメだよ、リエコ」
一時の感情で一生を決めるのは良くない気がして、リエコの小さな肩を抱き締めた。
「行っておいで? ずっと待ってるからさ。大丈夫! さっき約束したじゃん」
しばらく会えなくなったとしても、彼女にはただ生きて欲しかった。
そのためには、アタシ達が足枷になるワケにいかないし、何年だって待ち続けるぐらいどうってコト無い。
リエコの背中をドンと押して、両親のもとへ進ませると、不安げにこちらを振り返る。
「じゃあ明日、学校でね」
リエコの不安を取り払うように、笑って手を振った。
「……はい」
リエコが母親に促されて車の後部座席に乗り込むと、父親が改めてこっちに向き直して深々と頭を下げた。
急な出来事に驚き、慌ててお辞儀をして車を見送る。
「大丈夫?」
これまで黙ってたマキが、珍しくアタシを心配してくれてた。
「お、何か優しい! んじゃさ、物は相談なんだけど……」
「イヤだね! 電車賃はミチヨの奢りだったハズでしょ?」
さすが! 付き合い長いだけあるわ。




