たとえばぼくが死んだら
「今日は本当に楽しいです。初めてのコトがいっぱいで……」
リエコが寂しそうに笑うから、アタシは少し複雑な気持ちになった。
それでも、一緒に学校を抜け出して、遠く離れた海まで来て良かったとは思ってる。
「思い切って学校サボって良かったでしょ? また一緒に来ようよ」
アタシ達にとっての『また』が、いつになるのかはわからないけど、それでもそう言っておかなければ、この関係が失くなってしまうような気がした。
「はい。また来たいです。私、お二人ともっと早く出会ってたら……ううん、もっと身体が丈夫だったら、一緒に軽音部に入ってたかもしれませんね」
これが最後かもしれないような含みを持たせているが、そのコトには誰も触れずに、いや、触れられずにいた。
「そうかもしれないね。っつっても、リエコは頭イイからウチみたいな底辺女子高じゃなくて、もっと偏差値高いトコ行ってたかもね?」
少しでも重い空気を取り払いたくて、アタシはおどけて見せた。
「確かに! 品のイイお嬢様学校通ってて、ミチヨみたいなのとは絶対仲良くなってなさそう」
「あぁ? マキも大して変わんないでしょ? 同じ穴のなんとかだよ」
アタシとマキのやり取りを見て、リエコはカラカラと笑っていた。
「じゃあ身体が弱くても、悪いコトばかりじゃなかったですね。お二人と仲良くなれたんですから」
「うん。転校前に仲良くなれて良かった。話し掛けてくれてありがとう」
何だかどんどん悲しい話になってくのがツラい。
「あの……それで、お二人にお願いがあるんですが……」
辛気臭い話の流れを断ち切るように、リエコが真剣な顔でアタシ達を見つめる。
「お! 今日は何でも聞いちゃうぜ?」
精一杯明るく振る舞って、左手の親指を立てつつリエコの肩にポンと右手を乗せる。
「もし……この先、私と会うコトが無くても、お二人は一緒に音楽続けてくださいませんか?」
言われた途端、リエコの肩に乗せた右手に力が入る。
「ちょ……ちょっと!! そんなコト言うなよ!」
続けて『生きてればいつかは会えるだろ』と、いうコトを言い掛けてやめた。その可能性がゼロじゃないとは言い切れなかったから。
「私、これから遠い国に転校しちゃいますけど、お二人が音楽続けてたら……もしかしたら、そこまで届くかもしれないじゃないですか」
メンバーも揃わないコピバンやってる女子高生が、数年で北欧まで名前を轟かせるなんて……簡単なコトじゃないのはわかってる。
けど、今この場で『無理』なんて口が裂けても言えるハズが無い。
胸を張った返事が出来ずに言い淀んでいると、アタシの隣でマキが先に口を開いた。
「イイよ! ボク、ずっとミチヨと音楽続けるよ。でもなぁ……ミチヨがこんなだからさぁ、ダメそうになるかもしれないけど、ボクが責任持って引っ張ってくから」
ニヤニヤしてこっちを見てるマキにイラっとしつつも、売り言葉に買い言葉で勢いよくアタシも啖呵を切ってしまった。
「お、おうよ! やるよ! リエコが自慢出来るようなバンドになってやる!! マキが逃げ出したくなるぐらい本気でやってやるからな」
自信なんて1ミリも無かったけど、それがリエコの生きる希望になれば、今はどんな嘘だってついてやる。
「その代わり、リエコも一つアタシ達と約束してよ」
音楽を続けるという返事に安心して、どこか悟ったような笑顔だったリエコが、キョトンとしてこちらに向き直った。
「アタシらド田舎でコピーしかしたコトない女子高生で、今はまだ二人しか居ないし、メンバーもロクに揃ってないから何年掛かるかわかんないけど、絶対続けるから……いつかこっちに戻ってきたら」
勢い良く言ってても、泣きそうなぐらいもどかしさだけが付きまとってくる。
「だからさ、必ず観に来てよ! それでヘタクソならアタシ達にダメ出ししてよ」
リエコの両肩を掴んでそう言うと、少し困った顔をしたけど大きく頷いてくれた。
「……はい! 約束です」
きっとツラいのを我慢しながら、アタシ達に音楽を続けろと言ってくれたんだろう。
笑顔になったのも束の間、返事をした途端にボロボロと泣き出してしまった。
転校する寂しさを紛らわして、励まそうと思ったのに、逆に励まされてしまった。
「もう……泣かなくたってイイじゃん」
気付くと、マキとアタシはリエコを抱き締めて、三人で顔をグシャグシャにして泣いた。




