踵鳴る
「っつーか、最近アタシに話し掛けてきたのって、やっぱTシャツが原因?」
部室に到着して、アンプのセッティングをしながら話の核心をついた。
「ええ……と、そう、なのでしょうか? 私、あまり友達が居ないので、どう接して良いか解らずに困らせてしまったようで……ゴメンなさい」
終始申し訳なさそうな表情で、部室の隅でオロオロするばかりの箕浦は、なんだかか弱く見えた。
「最初の時は……悩んでるとか言われて、二度目は腹減ってないかって菓子パン。三回目は暴力はダメとか……」
箕浦に怯えていた数日のコトを思い出して、一つずつ言動を確認した。
「ちなみにミチヨってその時は何のTシャツ着てたの?」
マキに言われて自分の服装のローテーションを辿る。
「最初がMinor Threat、次がメガデスの『破滅へのカウントダウン(原題:Countdown to Extinction)』、んで三回目がパンテラの俗悪…」
うな垂れるイアン・マッケイ、ガリガリの爺さん、顔面を殴られてる男……ほう、答え合わせで完全にしっくり来るモンだ。
「いや、っつーかアタシ、別にその時の感情がTシャツに表れたりしないからね? インド雑貨屋で売ってるオーラリングじゃねぇんだから」
苦笑いで箕浦にそう告げると、相変わらずシュンとしているんで、何だかこっちが悪者のような気がした。
「まぁイイか! アタシも人付き合い上手くないし、そういう勘違いもあるよ」
いや、無いよ! とは思ったけど、このままの空気はイヤだから無かったコトにしてしまえ。
「んじゃ、アタシら練習始めるから、ちょっと観てってよ。まだまだヘタクソだけど」
「ボクがギターでミチヨがベースなんだよ! ドラム居ないから、バンドっぽくないけどね」
マキに目配せして、ベースを弾き始める。
青すぎる空/eastern youth
絶賛練習中の指弾きには、正直言って全っ然自信無いんだけど、一音一音を慎重に奏でると、マキも隙間を縫うようにギターを爪弾く。
ドラムが居ないから、曲の入りは大きめに足踏みしてカウントを取った。
ちょっとのズレは気にせず、ベースラインを走らせてガンガン進む。
イントロのアタックをマキと合わせ、2周させてからAメロの歌に入った。
ホントはマキがギター弾きながら歌ってくれればイイんだけど、歌唱力NGで、仕方なく普段からアタシが歌うコトになってた。
でも、マイクまでは学校が用意してくれないから、地声でアンプの音量に負けじと大声を張る。
っつーか、歌いながら演奏するベーシストってホント凄いよね? アタシ全然弾けなくなっちゃうから。
音数をやや減らしはしているものの、何とか『演奏しながら歌っている』というテイは保てていた。
それにしても、たった一人とは言え観客が居ると緊張するなぁ。いつもより二人のテンポが噛み合ってない感じがする。
……けど、ムッチャクチャ楽しい!
サビで一層声を張り上げ、一周目のラストのブレイクを、マキのダウンストロークに合わせて置きにいくように歌う。
「あー超絶ズレてる!!」
笑いながらイントロのリフを弾きながら叫ぶ。マキもこちらを見ながら笑って弾き続けてた。
二番に入ると、ちょっとだけ余裕が出てきたのか、箕浦の顔が視界の隅で確認出来た。
その顔は、驚きに満ちていると言ってイイほどの緊張感を持っていた。
そりゃクラスメイトが急に爆音で弦楽器鳴らして、大声で歌い始めりゃビックリもするよね。
でも今は、ただただ演奏が楽しくて仕方がない。ああ、こんなコト考えてたら二番のサビまで来ちゃったよ。
歌が抜けた後、再び曲はイントロのリフに戻り、そのまま間奏に流れる。
ドン! ドン! とアクセントに合わせて強めに足踏みを鳴らし、演奏に集中。いつもよりテンションが上がっているせいか、マキも勢いが凄い。
間奏明け、ブレイクをやや巻き舌気味に歌うと、箕浦と目が合った。
きっとアタシ、目ぇひん剥いててヤバい顔してんだろうなぁなんて思いながらハミング。気持ちイイなぁ。
気持ち良過ぎて、オリジナル音源に入ってる掛け声のようなモノまでアタシの口から零れた。
本気で一曲演るとクタクタになるコトを初めて思い知らされながら、ラストでマキのギターと絡み合うように、吐息混じりで歌い終える。
暫しの静寂を経て、箕浦の拍手が狭い教室に響いた。




