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みそギ!~三十路で始めるギター教室~  作者: ボラ塚鬼丸
Bonus track ~思い出にもなれない~
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女子(男子)畢生危機一髪

「なんでそんなビビってんの?」


 隣で歩いてるマキが、アタシの背中をバシっと叩く。


「得体の知れない同級生に付き纏われているのに、不安にならない方がおかしいでしょ?」


 ダラダラと廊下を歩いてると、生徒がまばらに残ってる教室を通り過ぎる。夕日が逆光で顔が見えないから、箕浦が居るかもと思ったら気が気じゃなかった。


 いつもなら、あっという間に辿り着く部室が、何故だか今日は一段と遠くに感じた。


 旧校舎に繋がる渡り廊下に差し掛かると、グイと後ろの裾を捕まれた。


「ひぃぃ!!」


 驚いて悲鳴にも似た声を出すと、隣のマキも肩をすぼめた。

 恐る恐る振り返ると、やっぱり、という感じで箕浦理恵子が立っていた。


「あの……」


 問い掛けてくる彼女から目を逸らせず、顔を強張らせながら、ただ黙ってその後に続く言葉を待った。


「あの……怒ってます? ……いえ、これは楽しい……のかしら? それとも悪巧みでもしてます?」


 意味が……わからない……どういうコト?

怒ってもいなければ楽しいハズなんか無いし、むしろ恐怖でしかないわ。


「あ、いや、何のコト? アタシらこれから部活(非公認)なんだけど……」


 しどろもどろになりながらも、何とか受け答えして早く部室に逃げ込みたかった。


「っていうか箕浦さんは、なんでミチヨをそんな風に思うの?」


 今ほどマキが頼もしいと思ったコトは無かった。たぶんアタシ一人じゃそんな返しは出来なかったなと。


「なんで……って、その……」


 箕浦はアタシの胸元を指差してそう言った。


 指先に注意を逸らした瞬間に、何か攻撃でもされるんじゃないかと思ったけど、その圧力に抗えず視線を自分の身体に落とした。


「って、何も無いじゃん……」


 視線を前に戻すと、箕浦はさっきよりアタシに近付いていた。


「ギャー!」


 完全な悲鳴を上げてしまった。きっと今のアタシは、楳図かずお作品のようなビックリ顔だったと思う。


「何も無くないです。あの、これ」


 もう気絶しそうな程の恐怖で、箕浦が何を言ってるのか思考が追い付かない。真夏のホラー的な何かか?


 何となく解るのは、アタシのTシャツを両手で摘ままれているコトぐらい。


「そ、それが……どうかしたの?」


 声も出せないアタシの代わりに、マキが箕浦に話し掛けてくれた。


「この人達、仲良しなのか怒ってるのか、悪い人なのか…わからなくて」


 は? この人……達?


 やや冷静になって再び視線を身体に落とすと、箕浦に引っ張られたTシャツのプリント部分に描かれた4人の人物。


KISS/デストロイヤー(邦題:地獄の軍団)


挿絵(By みてみん)


 まぁ確かに仲イイんだか悪いんだかわかんない感じだけど……見た目は楽しそうだし。


「アハ! アハハハ! 何それ? チョーウケるんだけど」


 緊張を打ち破って、マキが爆笑し始めた。気でも触れたかと思ったけど、アタシの腹に貼り付いた、怖い顔で練り歩いているKISSのメンバーを見ていたら、箕浦が写真でボケたようで可笑しくなってきた。


「ハ、ハハハ! ビビって損したじゃんか!! アハハハ!!」


 箕浦はアタシとマキが笑っている理由がわからず、首をかしげていた。


 なんだコイツ! 天然っつーか、ただの不思議ちゃんじゃんか。


「じゃあさ、箕浦さんはこの4人って何してるんだと思う?」


 ひとしきり笑い転げてから、アタシは箕浦に問い掛けてみた。


「ええ……と、舞妓……体験?」


『ギャハハハハハ!!』


 KISSのメンバーが京都の街をシャナリと練り歩く姿を想像して、アタシはマキと二人で腹を抱えて笑った。


「どんな修学旅行生だよ! 祇園ドン引きだわ!!」


「ボクもう笑い過ぎてお腹痛い……」


 不安要素が消えて落ち着きを取り戻したアタシは、部室に向かってる途中だって気付いた。


「あー笑った。それで箕浦さん、アタシら今から部室で練習するんだけど、ヒマなら一緒に来る?」


 とりあえず箕浦が無害な天然だと思ったから、今までのコトも聞こうと思って部活(非公認)に誘ってみた。


「部活って……お邪魔じゃ……ないんですか?」


 さっきまで狂気を纏ってた(気がしてた)箕浦は、モジモジしながら恥ずかしそうにしてる。


「全然平気だよ? だって部活っつってもアタシとマキしか居ないし」


「そうだね。誰か観ててくれると練習にも身が入るし……いつもミチヨと二人ってのも飽きてきたから」


 実際アタシは、この学校でつるむのなんてマキぐらいだったから、別の誰かが居るのは新鮮だった。


 箕浦の天然な回答を思い出してニヤニヤしながら部室まで歩いていると、いつもより足音が多いコトが妙に嬉しかったんだ。

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