夏の日の午後
一度は完結させましたが、思うところあって続きを書きました。
いましばらくお付き合い頂ければ幸いです。
アタシ、中之島美智代は、いまモーレツに興奮している。
それは冴えない中年の、正直どうでもイイ話が一段落して、メインヒロインとおぼしきサクラでもエリカでもなく、バンドではベーシストという日陰で暮らしている、このアタシがフィーチャーされているからなのですよ! 皆さん!!
いやぁ、正直みんなアタシのコト、見た目可愛いっぽいのに金に汚なそうとかって嫌われてなきゃイイなぁ、っつーコトだけが不安という程度。
あと、今は明日に控えたライブで着るTシャツを決めあぐねているトコ。
「ねぇねぇ、アミオさん! このウッドストックの記念Tシャツと、KISSのデストロイヤーTシャツだったらどっちがイイ?」
平和と地獄の二択だけど、明日のライブはアタシの夢が一つ叶うんだ!
「え? Tシャツ? あーそれで悩んでる風だったのね? ……うん。正直どっちでもイイわ。っつーか、何でそれを俺の部屋でやってるワケ?」
「居心地がイイからに決まってんじゃん! アミオさんも、若い娘が部屋に居たら嬉しいでしょ?」
実際、週の半分ぐらいアミオさんの部屋に入り浸っているのは事実。
まぁ弁当運んだついでに一杯飲ってる感じだけど。
「あれ? っていうか、なんでアタシが悩んでるように見えたの?」
高校生の頃に、同じようなコトを言われたのを思い出した。
それは、明日叶う夢と繋がる、大切な一言だった。
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「あの……何か、悩んでいらっしゃいます?」
息をしてるだけで体力を奪われそうなほど暑い真夏の放課後、唐突にそう話し掛けてきたのは、高校入学以来一度も絡んだコトの無かった箕浦理恵子だった。
「はい? それアタシに言ってる?」
昨晩テレビでカルト宗教の勧誘手口みたいな話を観たばかりで、このコもそういう系なのかと身構えた。
「ええ。なんだかそんな気がしまして……」
「いや、大丈夫! そういうの間に合ってますから」
怖い怖い怖い! 可愛らしいアニメ声でアタシに取り入って、最終的にセミナーと称した会合に誘われるんじゃないかと思って、その場を足早に立ち去った。
が! その後も箕浦理恵子は事ある毎にアタシに話し掛けてきた。
時には菓子パン片手に腹が減ってるならこれを喰えだとか、右腕にしがみついてきて、怒ってても暴力はダメだと説教じみたコトを言ってくる。
ストーカーにしては意味不明だし、ちょっと積極的過ぎる気もする。
「あのさ、ウチのクラスに箕浦って居るじゃん? 箕浦理恵子。あのコってヤバい感じ?」
さすがに一人では抱えきれないんで、中学から一緒のマキに相談してみた。
「ん? 箕浦さんて、病気がちで一年の頃よく休んでたコでしょ? 何かあったの?」
アタシと違ってマキは社交性が高いから、友達も多くて情報も拾えるかと思ったんだけどなぁ。
意を決して、これまであった出来事を洗いざらいマキに話す。
「ふ~ん。ボクにはそんなコト言ってこないし、他のコからも相談無いけどね? ミチヨだけが好かれてる感じじゃん?」
「いや! いやいやいや、アタシそういう女子高特有のヤツとは縁遠いでしょ? 別に趣味嗜好は否定はしないけど、もっと運動部で背の高いショートカットとか、凛とした剣道部とか、いっぱい居るじゃん」
確かに我ながら男っ気の無い青春ではあるけど、そんな、カタツムリじゃないんだから……
「ちなみにどんなシチュエーションだったの? ボクは興味あるなぁ~」
マキがニヤニヤしながら詳細を求めてくる。クソぅ…他人事だと思って!
「まぁ大抵は放課後かな。休み時間とかはほとんど絡んで来ないから。……そう言えば部室行く時ばっかだわ」
部室、とは言っても使われていない空き教室にアンプを置かせてもらってるだけで、学校から部活動として認められていないマキと二人だけの軽音部。
「じゃあさ、いつもはどっちかが先に着いてるけど、明日はボクと一緒に部室行こうよ。そこでも同じように話し掛けて来たら、何か別の理由があるかもしれないし」
マキが一緒に居てくれるなら少しは安心だ。もし怪しげな勧誘だとしたら、ターゲットが誰かと居る時には襲ってこないハズだし。
まぁ箕浦に出会わなければ、それはそれで問題無いのだから。
翌日の放課後、教室でジャージを履きTシャツに着替えてから、アタシは単独で行動せずマキと一緒に部室に向かった。




