Sunny Day Sunday/センチメンタル・バス
鮮やかな新緑で公園の木々も青々としていた頃、バンドは次のステップとしてサナエにレコーディングの依頼をした……ハズだったが、音源作成費用の目処が立たず、季節は厳しい日差しが照りつける、夏の盛りに突入していた。
「あぢぃぃぃ……サクラの部屋ってクーラー付けないの? このままだとアタシら、レコーディング前に干からびると思うんだけど」
「んー、この際レコーディング費用でエアコン付けちゃうか……」
ただでさえ暑いのに、狭い六畳間に四人も集まっていて動くのも気が失せる状況下なので、サクラさんのジョークには誰も反応を示さなかった。
「もう録音だけしちゃおうよ! サナエちゃんに支払うぐらいは貯まってるんでしょ?」
確かに、サナエを雇って録音する程度にはバンド貯金も潤っているが、録ってしばらく間が空くと、気になる部分が見えてくるので、絶対に録り直ししたくなるという理由で、サクラさんは最終工程まで一気に仕上げたいのだそうだ。
「音だけ録ってもねぇ……確実に販売出来る状態にしときたいんだよ。っていうか、ミチヨが毎晩のように呑んだくれてなきゃ、とっくに目標額まで貯まってるんだけど……」
「いやいやいや、アタシだけじゃないからね? サクラもマキも一緒に呑んでるじゃん! っつーか、夏に呑まないでいつ呑むんだっての!!」
ミチヨさんに関しては、季節問わず酒浸りのような気がするんだけど……
「でもまぁ……サナエちゃんも夏休み中の方が動きやすいだろうし、録れる分だけ録っちゃおっか!」
その一声で床に寝そべっていた全員が起き上がると、早速サクラさんがサナエに連絡してレコーディングの日取りを決めた。
スタジオを使えるのは深夜になるので、明け方までの作業を終えたらサクラさんの家で仮眠して帰宅してもらうコトを、パラGoの店長にも了解してもらい、取り急ぎ週末にライブで演り倒している四曲だけを、先行して録音するコトになった。
「遅い……もう23時回ってんじゃん! いつまで待たせんのよ!!」
「ゴメンゴメン! 最後のお客さんが片付け遅くて……んじゃ、こっちの部屋で録音するから、メンバー使ってやりやすいようにセッティングしちゃって?」
遅くに来てもらったサナエは、バンドTシャツにハーフパンツ、ビーチサンダルという気合いの入っていない軽装で、利用客が帰るのを待たされてやや不貞腐れ気味である。
女子高生相手に平謝りを繰り返すサクラさんは、ウチらを人柱にして営業時間が終了したスタジオの締め作業へと戻った。
「じゃあ……アンプの前にマイクスタンド立てて、ツインテールはココにあるマイク全部コレに繋ぐ!」
訳もわからずサナエに言われるがまま、ボタンやツマミがたくさん付いた機械にケーブルを繋いだ。
「ドラムはセッティング済み? このままの位置でマイク狙っちゃうよ?」
「ちょ! 待って待って!! 自前のスネアに変える……あ、あと全体的に低くするから、他のトコ先にやっちゃって?」
準備段階からサナエの声が飛んでいるけど、この調子で演奏中に間違えでもしたら、一体どんな怒られ方をするのか不安になってきた。
「アンタはまだ出番無いんだから、隅っこで大人しくしてて!」
楽器類のセッティングをしている間、やるコトが無くてオロオロするばかりだったコトにイラついたのか、早速だが年下から叱られてしまった。
「準備出来たら音出してって? ってか、この間にもあーしの時給発生してるんだから、チャっチャとやる!!」
普段練習しているスタジオ内に、見慣れない機材とケーブルが張り巡らされ、メンバーはソレに引っ掛からないよう気を付けながら各々の立ち位置でサウンドチェックを始めた。
「念のため説明しとくけど……レコーディング費用とか時間の問題もあるから、バンドの楽曲一発録りでイイよね? クリック流して別録りにしてもイイんだけど、アンタらの場合はライブに近い方が良さそうだし」
説明の段階で、既に何を言ってるのかわからない……けど、他の三人は理解している様子だ。
「あ、歌だけは後で乗っけるから。当然だけど、バンドは同じ部屋でマイク拾ってるから、誰かが間違えたりズレた時点でやり直し。お金掛けられないなら技術で補うってコト! わかった?」
「はーい……」
サクラさんは無言で頷き、弦楽器の二人からは力無い返事が返ってきた。
歌だけ後から入れるなら、バンドが録り終わるまでウチの出番は無いってコトか……
「じゃあ……時間勿体ないからバランス見るために練習で録るよ? 準備出来たら回すから」
三人は顔を見合せてコクコクと頷き、合図を送るとサナエは手を上げて録音が開始されたコトを示す。
スティックのカウントが四つ鳴ると、爆音がスタジオ内に響いた。普段ライブで演奏している曲を、初めて客観的に聴いている気がする。
マイクが音を拾ってしまう緊張感の中、物音を立てないよう三人の演奏を聴きながら、声を出さないように歌メロをイメージで乗せる。
特に問題無く曲がエンディングを迎えて、サナエが機材の停止ボタンを押すと、三人が一斉に溜め息をついた。
「練習だったけど、アタシら意外に良かったんじゃない? コレでOKテイクってコトもアリだったりして……」
ミチヨさんは何度もこの緊張を味わいたくないのか、あわよくばこの曲の録音を終えてやろうという気持ちが伝わってきた。
「ホントにコレでイイと思ってる? まぁアンタらがそれでイイならそうするけど……とりあえず聴いてみたら?」
サナエはスタジオのミキサーに機材を繋げて再生ボタンを押すと、今しがた録った音源がスピーカーから流れた。
当然だが、自分達の曲が流れてきた……けど、演奏がぎこちないというか、一言で言えば気持ちが悪い。
「何だコレ……何かボクらの演奏死んでない?」
マキさんの言う通り、カラオケの伴奏のような無機質な感じがしてならない。
「死んでるっつーか、アンタら自分で思ってる以上にガチガチに緊張してるからね? 間違えないのが正解じゃないってのは、ライブもレコーディングも一緒だから。で? ホントにコレでOKにする?」
「いや、ダメでしょ? ゴメン今度はちゃんと演るから!」
そもそもバランス確認のために録っただけで、本番じゃないのだからOKテイクにするハズがないけど……コレは思ってた以上に難しそうな予感がする。




