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みそギ!~三十路で始めるギター教室~  作者: ボラ塚鬼丸
Bonus track3~Otherside編

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ロマンスの神様/広瀬香美

「ってコトでさ、まぁギリギリ首の皮一枚で繋がった感じだったんだよね」


 紆余曲折あったが、引き続きライブハウスに出られるようになったコトを、久々に電話でエリカに報告した。


「そんなに大変だったなら、私に言ってくれれば協力したのに……」


「だってチケット買って貰っても、大学あるから来られないかと思って……平日だから間に合わない可能性あるじゃん?」


 技術的にバンドのレベルが向上したのをエリカに観て欲しかったけど、年末は何かと忙しそうだったので、迷惑掛けたくなかったのも正直なところだった。


「っつーか終わったライブより、SNS作ったからそっち見てよ! あのね、スタジオの動画もアップしてるんだよ? あんまり音質良くないけど」


 ちゃんとアップされてるかどうか、自分達で確認をしただけの動画再生回数は、あの日声を掛けてくれたお姉さん方が拡散してくれたお陰もあって、緩い登り坂のような上がり方ではあるが徐々に増えていた。


「SNSは見てみるけど、曲なら歌詞の確認で何回も音源データ聴いてるってば! っていうかライブなら夏休みに誘ってくれれば良かったのに……」


「あー確かに! エリカ様が歌詞の協力をしてくださった曲は、有り難く歌わせていただいております♪ ライブは……思うところあって、まだお金取って見せられる感じじゃなかったから連絡すんの躊躇しちゃった。でも、これからは毎回連絡するから!」


 初ライブの時は単純に嬉しくて、浮かれてエリカを誘ったんだけど、サナエにダメ出しされてからというモノ、お金を取っている以上はヘタな演奏など聴かせられないという、プロ意識のようなモノが芽生えていたのだ。


「あ! エリカにお願いがあるんだけど……」


「どうせ新曲の歌詞でしょ? 仮歌と曲のイメージ送っといてくれたら、時間ある時に考えとくよ!」


「さすが! 頼りになるぅ~♪」




 その後はメールやメッセージのやり取りが中心になり、時々は電話で話すコトはあっても、なかなか会えない状況が続き、反してバンドは精力的にライブを重ね、エリカのお陰で歌詞も出来上がったので持ち曲も増えていった。




「はぁ……チケット売れるようになってきたのはイイんだけどさぁ、ノルマ無しのぬるま湯にばっか浸かってないで、そろそろ結成して一年も経つんだから他のハコにも出たら? 誰か企画やってるバンドの友達とか居ないの?」


 精算中にダメ出しや詰められるコトは無くなったけど、その分サナエから活動の幅を広げるよう提案される機会は多くなった。


 ウチらもこのハコ専属のバンドではないのだから、外の世界も見る必要があるのは確かだろう。


「んー、アタシもマキも地方から出てきてるし、地元にバンドやってるような友達なんて居なかったんだよね……」


「私も……前にやってたバンドのメンバーとは疎遠になっちゃったし、当時一緒にイベント出てたバンドもほとんど解散しちゃってるなぁ」


 他のメンバーに人脈が無いなら、実質全滅ってコトじゃん? バンドやってる人でウチが知ってるのなんて、キクチぐらいしか……


「あ、居るじゃん! ウチの知り合いにバンドやってる人居た!! 高校の同級生なんだけど、何てバンドだったけなぁ? フェアリーテイル……は前の名前だし、確かロマンチック街道みたいな名前だったんだけど」


「何? その観光ルートみたいな名前……」


 違うなぁ、そんなんじゃなくて……キクチ何て言ってたんだっけ? 何かゴツいナリに似合わない感じで、ファンシーショップみたいな甘ったるいような……ロマンスグレーじゃなくて、イゴール・ボブチャンチンでもなくて……


「そうだ! Equal(イコール) Romance(ロマンス)だ!! ギターヴォーカルやってるキクチってのがウチの同級生!!」


 朧げな記憶を辿り、かろうじてキクチのバンド名を思い出せたけど、やっぱり普段から人の話はしっかり聞いておくべきだと思った。


「ん? Equal(イコール) Romance(ロマンス)? キクチ? 何だっけ……何か聞いたコトある名前なんだけど」


 意外にもサナエがキクチのバンド名を聞いて反応した。そんなに人気のあるバンドなんだろうか?


「サナエちゃん知ってる? キクチのバンドって、そんなに売れてたりすんのかな?」


「いや、そういうんじゃなくて。何て言うか、ツインテールの友達だから間違ってたら申し訳ないんだけど……あんまりイイ噂を聞かないバンド? の名前だったような気がする」


 中学生ギャルがイイ噂を聞かないってどういうコトだろう? キクチは取っ付きづらい性格だけど基本的にはイイ奴だし……ヤバい薬物に手を出してるとかだったらイヤだなぁ。


「え、え? 同じような名前のバンドと勘違いしてるんじゃないかな? キクチ、見た目怖そうだけど法を犯すような悪いヤツじゃないから……」


 キクチが犯罪者として疑われてる気がして、つい庇うような物言いになってしまった。


「警察沙汰になるような感じじゃないんだよなぁ? まぁあーしの勘違いならイイけど…………あ、そうだ思い出した! たまたまあーしが電話受けたんだ!! ここに企画の依頼あったんだよ。確かキクチって女の人で、メタル系スリーピースバンドじゃなかったかな? 企画が土日希望だったんだけど、出演実績が無いバンドだったから断っちゃってさ……んで、その後に他のハコのスタッフから聞いた話じゃ、地方から出てきたばっかのバンドを、自分らの企画に片っ端から誘って、エグいノルマ吹っ掛けて荒稼ぎしてるらしいんだよ」


 バンドの特徴も合ってるし、確かに高校時代は部費の交渉で生徒会から『鬼畜』って呼ばれてたけど、キクチがホントにそんなあくどいコトをするだろうか?


「信じたくないけど、とりあえずウチ……キクチに電話で確認してみるよ。もしもノルマなんて吹っ掛けられたら、友達として説教してやるから!!」


 力強くそう言ったものの、ウチにバンドの楽しさを教えてくれた大切な友達を疑ってるみたいで、心底イヤな気持ちだ……でも、もしホントにキクチがそんなコトをしているなら、友達として正してあげなくちゃダメだろう。


 キクチは人には厳しかったけど、大好きなバンドで誰かを陥れて、自分だけが得をするようなヤツではない……と、思いたい。


 もし自分の双子の姉が他人を騙すような人間になってたら、きっとウチの王子様のアオくんだって悲しむだろうし……帰ったらキクチに電話してみよう。


 一抹の不安を抱えたまま、ライブハウスから帰路につき、自宅でスマートフォンを握り締めた。


 卒業前に連絡先を交換してから、一度も電話したコトが無かったけど、意を決してキクチの電話番号をタップすると、コール音が数回鳴ってキクチが出た。


「あー、もしもし…………セノー?」


「う、うん! キクチ? 久しぶりだね……元気だった?」


 ウチのコトを唯一『セノー』と呼ぶキクチの声が、高校の時と変わっていなくて少し安心した。


「まぁ、元気っちゃあ元気だけど……急にどうした?」


「あー、うん。あのさぁ、キクチってバンドやってたじゃん? 今でもライブとかやってるのかなって思って……」


 もしキクチがバンドをやっていなかったら、サナエが言っていた噂は間違っていたコトになる……ウチはどこかで『やってない』って言ってくれるのを期待してしまった。


「バンド? アタシら自主企画で月に1~2回やってるけど……セノーは?」


 一つ目の期待が容易に絶たれてしまった上、自分達でイベントをやっていると言われてしまったけど、まだキクチがあくどいコトをやっていると決まったワケではない。


「あ、あぁ、そうなんだ? ウチもやってるよ! バンド名はエリカと文化祭出た時と同じでJessica(ジェシカ)っていうんだけど……いま色んなライブハウス出たいと思ってて、もしキクチがバンドやってるなら、一緒に演りたいなぁ……みたいな」


「へぇ~バンドなんてとっくに辞めてると思ったけど、意外に続いてんだな? 一緒にやるのはイイけど……アタシらの企画って半年ぐらい先まで出演決まっちゃってんだよね?」


 まだ春先なのに、既に半年後まで出演バンドが決まっている人気のイベントなら、バンドを喰いモノにしているハズがない……とも言い切れないのだろうか?


「そっか、すごいじゃん! じゃあさ、半年後でもイイから出させてよ!! ……あ、でもノルマとかあったりする? ウチらまだそんなに人呼べないんだけど」


「ノルマ? ……あぁ、11月にやる企画は無いよ。ギャラとか出せないかもしれないけど、それでも良かったら出るか?」


 誘導尋問のように、白々しくキクチを試しているようで心苦しかったけど、ノルマは無いとハッキリ言ってくれて良かった。


 これでキクチが、誰かを騙してお金儲けをするような人間じゃないという確信が持てた。


「うん! 出る出る!! じゃあさ、メンバーにも報告するから、また詳細とか連絡してよ♪」


 サナエの話を聞いて無駄に心配してしまったが、ただの取り越し苦労だったみたいだし、今後のバンド活動の幅が広がりそうな話が出来たから、やっぱり持つべきものは友達だなと改めて思った。

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