勇気100%/光GENJI
死に物狂いで練習を繰り返し、SNSの更新やフライヤーを配りにライブハウスへ通って一ヶ月間。
もうサクラさんに引率されなくても、ライブハウス『パラダイスGOGO』には簡単に辿り着くコトが出来るようになったけど、泣いても笑っても、今日の結果次第で今後のウチらのライブ活動が決まってしまう。
「おはようございまーす!」
照れるコトも無くなって、普通に業界人風の挨拶をしてハコに入ると、フロアに居た今日の対バンの人達が一斉に振り返り、その風貌に一瞬たじろいでしまった。
それは、初めてココに来た時に抱いていた不安をそのまま可視化したような、真っ赤に染め上げた髪を刺々しく立てている人や、物騒な言葉がプリントされたTシャツを着て、悪役プロレスラーのような奇抜なメイクを施した方々だったからだ。
機材を抱えたまま立ち尽くすウチらに向かって、フロアの中心で腕組みしていた、眼光鋭く顔面を白塗りにした人が近付いてきたので、恐怖のあまりさらに硬直した。
「お疲れ様で~す! 一緒に出演させていただきます『撲殺バッドボーイフレンド』ってバンドの者です。色々と迷惑掛けるかもしれないっすけど、今日は宜しくお願いしますね?」
その風体からは予想できないほどの低姿勢で、深々と頭を下げて挨拶されてしまったが、相変わらず白塗りの顔は怖いままだ。
「こ、こここ、コちラコそ、よろシクお願イ致シマス!!」
あまりのギャップに驚いてしまい、油断した隙に縛り上げられたりしないかとヒヤヒヤしながら、丁寧に挨拶をしたつもりだったけど、確実に声は上ずっていたと思う。
「あ、撲殺さん! 申し訳ないんだけどリハって時間短くてもイイっすかね? このコ達のPAキッチリやっときたいんで」
「はーい! 全っ然問題無いっすよ? だって俺らそんな音に拘るようなバンドじゃないし♪」
挨拶もそこそこに、ハコのスタッフから大声でお願いされると、白塗りのバンドマンが自虐にも似た返しをして、フロアに居合わせた他のバンドメンバー達がゲラゲラと笑っている。
和気藹々とした雰囲気ではあるけど、見た目が怖すぎて不安は増すばかりだった。
「じゃあ、早速リハやっちゃってください」
慌ただしく走り回るスタッフから促され、楽屋に荷物を置くヒマも与えられずステージに誘導されると、北斗の拳の悪役のような方々が道を開けてくれて恐縮する。
メンバー各々が持ち場に付いて、自分の楽器をセッティングし始めたけど、フロアからの視線が気になる……というか、刑務所の慰問ってこんな感じなのかもって思ったら、逆に可笑しくなってきてしまった。
「アズサ……緊張してる? 大丈夫?」
吹き出してしまわないよう必死に笑いを堪えていたら、サクラさんに心配されたので、刑務所の慰問みたいだと耳打ちしたらゲラゲラと笑い出した。
ドラムセットから左右に乗り出して、弦楽器の二人にもそれを伝えると準備の手を止めて笑い続け、周りから心配される始末。
「アハハ! ヤバい……スゲェ緊張してたのに!!」
「アズサが余計なコト言うから、ライブ中に思い出しそうで心配」
結果的に、ライブ前の緊張が解れたので良かったんじゃないだろうか?
「はーい、じゃあドラムさんキックからください」
このやり取りももう見慣れているので、他のライブハウスに出るコトになっても、リハで困るコトは無さそうだ。
各パートが一通りサウンドチェックを終え、全体のバランスを確認するため曲の演奏をする段階になった。
「んじゃいつも通り一曲目からやります!」
サクラさんがPAに伝えると、カウントを取って全員が一斉に音を鳴らし始めたが、もうハコのスタッフもわかってくれているようで、モニターの返しを注文するコトもなく快適に演奏出来た。
ライブの一曲目を途中で終わり、特に各自がモニターや外音の調整をお願いする必要は無いので、これで終わりにしてもイイんじゃないかという空気だったけど、逆にPAさんから注文が出た。
「ヴォーカルさんスミマセン。ライブと同じくらい本域で歌ってもらってもイイっすかね? あと、二曲目は最後まで演りきってください」
「あ、はい……わかりました」
今までこんなコトを言われた例がなかったから、少し困惑してメンバーを見ると、仕方ないねという表情で頷いていた。
開いたハイハットでゆっくりとカウントが入り、スローテンポの二曲目が始まった。
最初にここでリハをやった時は、まだ曲に対して技術的に追いついておらず、全員がバラバラでズレまくっていたのに、今ではそれがウソのようにバチっとリズムが合っている。
サナエに厳しいコトを言われ続けたのは無駄ではなかったなと、少しだけ成長した自分が誇らしくなった。
そんなコトを考えながらも、PAの注文通り本域で歌い続けて二曲目の演奏が終わる。
「なんか今日スゲェ演りやすくない?」
驚いた表情でミチヨさんがボソッと呟いたので、ウチだけがそう感じてただけじゃないんだと思った。
「はーい、ありがとうございます。じゃあ……続けて残りの二曲もお願いします!」
「え? リハ終わりじゃないんスか?」
いつもはこのくらいで終わるハズのリハなのに、あと二曲も演ったらライブと同じだと思って聞き返す。
「他のバンドさんリハ無しなんで、問題無ければやっていただきたいんですけど……あ、もちろんバンドさん全員ライブと同じように本域でやってください!」
この申し出に、困惑していたのはウチだけじゃなく、振り返ってメンバーの意見を確認すると、サクラさんが苦笑いで応えてくれた。
「まぁ、今日でこのハコともお別れっぽいし……記念にやってもイイんじゃないかな? ゲネプロなんて一流のミュージシャンみたいだし!!」
ゲネプロとは所謂『通しリハ』のコトであり、プロのアーティストがライブ前日に、同じセットリストのリハーサルを行うっていうのは知ってたけど、普通ライブハウスでやるモノだろうか?
「じゃあ……三曲目やります」
結局、出演者の前で一本目のライブを丸々演らされた感じになった。
「あー! スゲェ疲れたんだけど!!」
「これであと三時間後ぐらいにもう一回ライブでしょ? ボク、体力もつかなぁ……」
弦楽器の二人がボヤいているが、ウチも最後まで声が出るか心配だった。
「でも、ライブと違って冷静に自分の演奏が確認出来て良かったよね? 本番で直すトコとか気を付けるトコがわかったていうか……」
さすがサクラさんは落ち着いている。確かに曲のブレイクや歌い出しなんかに気を配る余裕があったと思う。
「うん、それはアタシも思った。あのさ、三曲目のBメロ終わりのブリッジなんだけどさ……」
リハの直後に反省会なんて初めてだったけど、ウチらはそのままコンビニにステージドリンクを買いに行って、ライブハウスがオープンしても本番直前まで曲の魅せ方を話し合った。
出番の少し前に楽屋に待機していると、前のバンドが終わった様子だったので、機材を抱えてステージに向かいセッティングを始める。
「あ、そうだ! これ今日の曲順ね?」
いつもと同様に、サクラさんからA4用紙にマジックで殴り書きされた曲順表を手渡されたが、もうこんなの見なくてもわかるのに、と思いながら下まで視線を下ろしていくと、普段と違うアドバイスが書かれていた。
『最後まで全力で!!』
もう置きに行くようなライブはせず、最初から最後まで100%の力を出し切れっていうコトだろうと気合を入れ直した。
「こんばんは。Jessicaです……始めます!!」
もうここではライブが出来ないかもしれないけど、今日だけは全力で楽しもうと思った。




