Bring the Noise/Anthrax,Public Enemy
結局、チケットが売れなきゃ出禁にされるっていう条件も、正気を取り戻したミチヨさんが啖呵を切ってしまい成立させられてしまった……
とはいえ、次のライブはノイズ系バンドばかりが出演する日にブッキングされたから、今まで通りの正攻法じゃ通用しなさそうだ。
「いやぁ~まさかノルマ無いからって出演決めたライブハウスで、思いっきりノルマ掛けられるとは思わなかったよね? みんなホントにゴメン!」
責任を感じたのか、サクラさんがスタジオ練習の休憩中に謝ってきた。
「別にサクラが悪いワケじゃないよ? アタシらが不甲斐ないだけだし……っつーかホント上手くいかないよね? アタシの計画じゃ、そろそろレーベルから声が掛かってるハズなんだけど……」
「アハハハハ! それは夢見過ぎでしょ? バンド歴3~4年程度の私だってそんなに上手くいってないんだから」
それじゃあ上手く行ってるバンドは、一体どのくらいの下積み期間で売れているのだろうか?
「あのさ……前から訊こうと思ってたんだけど、サクラが今までやってたバンドってどのくらい集客あったの?」
こういう時のミチヨさんは、清々しいくらいの直球を投げるので、相手によっては嫌がられそうだなと心配になる。
「あー、過去にやってたバンド? そうだなぁ……対バンにもよるけど、自分のバンドのチケット買ってくれるのは多くて8人ぐらいだったんじゃないかな? まぁイベント次第ではその程度でも多少のギャラが出たと思う」
「え! ライブ演ってギャラ貰えてたんスか?」
純粋に、アマチュアレベルのバンドが出演料を受け取れるコトに驚いてしまい、喰い気味に聞き返してしまった。
「まぁ貰えてたって言っても足代ぐらいだよ? そんなの企画者の打ったイベントが良かったってだけだから……」
それにしても、自分達の演奏がお金になるというコト自体、バンドを初めて半年程のウチからすれば凄い話だ。
「とにかく! 次のライブで前売り買ってくれる人が現われなきゃ、あのハコ出られなくなっちゃうんだから、次の手立てを考えないと……」
「そうだよ! もうボクら崖っぷちなんだから、何とかしないとホントにヤバいよ!!」
確かに、今はサクラさんの過去の栄光に興味を示している場合じゃなくて、次のライブでお客さんを引っ張ってこなければならないのだ。
「んじゃ、考え付くアイデアを書き出しとこう! アタシ書いてくからバンバン言ってって!!」
ミチヨさんはマジックを構えてスタジオ内にあるホワイトボードに向かい、会社の企画会議のような雰囲気になったまま深夜を迎えた。
結局、根本的な解決方法や対応策は挙がらず、スタジオでの演奏をスマートフォンで撮影して、動画をSNSにアップするコトになった。
メンバー全員ネットに詳しくなかったけど、サクラさんが他のバンドのページを見よう見まねで作成し、画質も音質も良好とは言えない動画が配信された。
「とりあえず、今やれるコトはやった感じだけど、せっかくライブもあるんだから告知もして……ノイズ系の対バン観に来たお客さんも楽しめるように、そっちに寄せたアレンジでもしてみよっか!」
SNSが完成した余裕からか、ミチヨさんが積極的にスタジオで発言をするようになっていた。
それが正解かどうかはわからないけど、やるだけやってダメならその時に考えるしかない。
それからというモノ、ロック畑で育ってきたメンバーが、ほとんど通ったコトのないノイズバンドを聴き漁り、既存の四曲はかろうじて原形を留めている程度にアレンジされてライブ当日を迎えた。
「0点……っつーかマジで意味がわかんないんだけど? 何でヘタクソなロックバンドだったアンタらが、クソダサいノイズバンドに成り下がってるワケ? 客に媚びて迎合した結果がコレ?」
演れば演るほど空回っていたウチらのライブは、サナエが0点を付けるのが当然であるくらい散々なモノだった。
「じゃあ……じゃあどうすりゃ良かったんだよ! 嫌がらせみたいに客層も全然違うライブにねじ込みやがって……だったらもうちょっとアタシらに合ったブッキングしてくれよ!!」
何をどう改善したら良いのかわからなくなってしまい、これまで以上にミチヨさんが声を張り上げた。
「はぁ? やっぱ完全に舐めてるね……普通に考えてアンタらが客選べる立場だと思う? 初心者に毛が生えた程度のバンドに、何でコッチが合わせなきゃなんねーんだっつーの。マジでアンタらどんだけ偉いんだよ!!」
悔しいけどサナエの言う通りだ。反論したミチヨさんでさえ、そんなコトは当然わかっているので、それ以上は何も言い返せなかった。
「で、どうすんの? やっぱ一枚もチケット売れませんでしたっつって頭でも下げる?」
正直、それで今後もこのハコに出続けられるなら、潔く謝ってしまうのもアリかもしれない。
「……いやぁ、ココで頭下げちゃったら、私達もうどこ行っても無理だと思うんで……今日も前売り売れなかったけど、同じ条件のまま来月のライブ出させてもらってもイイですかね?」
しばらく悩んだ様子で、サクラさんはウチが思ったコトの先を告げた。
「あっそ、わかった……他の人もそれでイイってコト?」
溜め息交じりに意思確認するサナエの言葉を受けて、サクラさんが一人一人のメンバーと目を合わせたので、ウチらは順に頷いた。
「みんな……ありがとう。あと一か月、フライヤー配ったり告知もガンガンして、最後まで足掻いてみようね!」
実際は何も解決してないけど、何とかなりそうな空気感で、またバンド内の結束力が高まったような気がした。
「ホントにさぁ……精算の時は気合入ってるクセして、何でライブであんなに盛大にコケるかね?」
言われて気付いたけど、実際こんなやり取りがここ数カ月続いているのは確かだった。
「まぁ私達、まだ生まれたてみたいなモンだから…………でもやっぱウケが悪いのは楽曲がダメなのかなぁ?」
「そんなコトないっスよ!!」
「そんなコトないよ!」
「んなハズないから!!」
「いや、そうじゃねーし!!」
照れ笑いをしたサクラさんが、ボソっと呟いた弱音に対して一瞬の沈黙があり、その場に居合わせた全員がそれを否定した。
曲にだけは絶対の自信があったから、メンバーが力強く声を上げるのはわかるけど、サナエの声も紛れていたコトに驚いて視線が彼女に集中する。
「あ、え? そうなの? そこは認めてくれてる感じ?」
一番驚いていたサクラさんが、嬉しそうにサナエに聞き返す。
「ンンっ! ち、違うから! 今のは、アンタらがこれ以上迷走しないように言っただけだし! 変に曲いじくり倒してダサいアレンジする前に、やれるコトが他にあるだろって話!!」
咳払いをして恥ずかしそうに俯くサナエが、初めて中学生らしい一面を見せたような気がした。
「へぇ~」
「な……何をアンタらニヤニヤしてんの? マジでムカつくんだけど! そんなヒマあったらフライヤーの一枚でも配ってきたら? あーし、もう帰るから!!」
相変わらずサナエの精算には口出しをせず、傍観していた店長も、微笑ましく彼女の後姿を見送っていた。
「あのコは本当に君達のコトを気に入ってるんだね……昔は出演したバンドから、マスコットみたいに扱われてたから、その頃のコトを思い出してるのかもしれないなぁ」
遠い目をして昔を懐かしんでいる店長が、しみじみとそう言ったので、爆音のライブを終えたバンドマン達から可愛がられて、無邪気に笑っている小さなサナエを想像してしまった。




