FIGHTING FISTS, ANGRY SOUL/Hi-STANDARD
初めてのライブで、店長の娘であるサナエからボロクソ言われてからというモノ、翌月のライブに向けてメンバー全員が練習に対しての熱量を上げていた。
「あのトラクターみたいな名前のクソガキ……まだ中3のクセに、アタシらにあれだけデカい口叩くなんてマジでムカつくわ! バンバン練習して上手くなって、ギャフンと言わせなきゃ気が済まないっつーの!!」
特にミチヨさんの憤りは群を抜いていて、打倒サナエに燃えていた。
「20点」
「ギャフン!!」
約1ヶ月の猛練習でライブに挑んだものの、所詮は付け焼き刃に過ぎなかったようで、再びサナエから精算時のダメ出しを喰らい、ミチヨさんがギャフンと言わされる始末。
「ドラムの軸がブレなくなったのはイイけどさぁ……あのリズムでよく弦楽器ズレるよね? 耳に粘土でも詰まってんじゃない?」
「ムキーっ! マジ腹立つ!!」
結果的にミチヨさんがさらに叩かれてしまったが、サナエの言うコトは的確にウチらの弱点を突いてきている。
悔しいけど、こればかりは自分達の練習不足が原因なのだから仕方がない。
「っつーか、相変わらずチケットも売れてないじゃん。どうすんのコレ? 誰もまともに観てくれないライブ演り続けんの?」
演奏の向上だけじゃなくて、ウチらには集客に対するアピールも課題の一つだ。
「今のところ、他のライブハウス出る予定無いからなぁ……感じが近いバンドが集まったイベント呼ばれれば、お客さん付いたりするんだろうけど」
「いやそれよりも、今はアタシらがもっと上手くなんなきゃダメでしょ!」
「とりあえず、ホームページ作るとかSNSで告知した方がイイんじゃない? ボクそういうの苦手だけど……」
精算の場であるコトを忘れ、三者三様の意見を出してバンドの問題点を解決しようと議論が白熱する。
「まぁあーしにはどうでもイイんだけどさ、一枚でもチケット売ってハコの売り上げに貢献してよ……あ! そうだ、あーし思い付いちゃったんだけどさ」
サナエはスケジュール表をパラパラとめくり、出演バンドを確認しながら1ヶ月毎に鉛筆で『ジェシカ』とカタカナで記入し始めた。
「オヤジどの! ココとココと……ココ! 入れちゃってイイよね?」
サナエは隣で地蔵のようにダメ出しの光景を眺めていた店長に、仮組みをしたスケジュール表を手渡した。
「あのね、サナエちゃん? そういうのは俺の仕事なんだけど……って、なかなか難しそうなトコに突っ込むなぁ。コレじゃ客層被らないだろ」
「うん。だってそれが目的だモン! あんまりコイツら甘やかしちゃダメだよ? 来月はデスメタルで、その次がノイズ系、んで3ヶ月後はイロモノ……じゃなかった、ゲテモノレーベルのイベントに捩じ込むけどイイよね? 出演するバンドは各々集客あるから、そこから一人でも引っ張ってこれたらチケット売れるじゃん?」
ウチらのチケットが売れなくても、他のバンドに集客があるなら閑古鳥が鳴くコトはないだろうけど……これはライブハウス側のイジメではないだろうか?
「お、おう! やってやるよコノヤロー!! 予定も仮じゃなくて決定でイイよ! 要はチケット売ればイイんだろ?」
ミチヨさんが勢いで受けてしまったけど、ホントに大丈夫なのか心配しかない。
「アハハ! あんだけダメ出し喰らっても演るんだ? 根性あるねー! 自腹切ってディスカウントして、親兄弟とか友達に売りつけてもイイけど……アンタらのライブなんてタダでも観ないだろうね?」
サナエが追い討ちを掛けて煽るが、負けじとミチヨさんも応戦する。
「そんなセコいコトしねぇし! ライブ観に来てるヤツにチケット買わせてやるよ!!」
「はいはい。んじゃ来月も精々頑張ってちょーだい♪ 機材費の支払いはオヤジどのに任せて、あーしもう帰るから」
座っていた受付の椅子を店長に譲り、サナエは右手をヒラヒラさせながら、ペタペタと階段を上がって行ってしまった。
「あ、何かさ、親の俺が言うのもアレなんだけど……あのコの耳だけは信用してイイよ。まぁアドバイスっていうか、助言の方法がアレだから、怒って二度と出てくれなくなるバンドばっかりだけどね? ただ、誰にでもああいう態度じゃなくて、気になる音出してるバンドにしか絡まないから、あのコのコト、満足させられるように頑張ってよ」
店長は家庭環境を複雑にしてしまった負い目からか、娘の言動に対しては寛容過ぎる気がするけど、これはウチらのバンドが認められるチャンスなのだと無理矢理ポジティブに考えるコトにした。
二度目のライブ翌日から、さらに気合の入った練習を繰り返し、時間があるときはマキさんとミチヨさんの二人で個人練習をするほどだった。
「今のアタシらマジで勢いづいてるから、新曲作ってみたよ!」
既存の四曲を練習するだけでは飽き足らず、弦楽器の二人は積極的に新曲まで作って来たようなので、練習の合間にスタジオで聴かせてくれた。
「おー、気合入ってるじゃん! ハイスタと……ハイスタを足して2で割ったような楽曲!! 残念だけどボツね? まぁやる気は買うけど」
「あぁ……エアジャムのDVD観過ぎたコトが裏目に!!」
気合が空回りしたようだけど、確かにミチヨさんは技術だけでなく向上心に満ち溢れているので、これはウチも負けていられない。
新曲作りは一旦保留にして、今ある曲を完璧に仕上げるコトを最優先で、デスメタル系のバンドとの対バンに挑んだ。
「んー、オマケして45点てトコじゃない? 全っ然盛り上がってなかったし」
「キィィー! 悔しい!!」
演奏技術もライブ運びも、初めての時に比べれば格段に上がってはいるものの、音楽性の違いというアウェイ感を差し引いてもウケが悪かった。
「っつーかさぁ、危機感が無いんだよね? 今日もチケット売れてないじゃん。ライブ中のMCで次の告知してたけど、誰か買いに来た人居んの?」
「いや……居なかったです。はい」
怒りによって、ミチヨさんは受け答えが出来る状態ではなかったので、代わりにサクラさんが回答する。
「もうコレさぁ、埒が明かないから再来月までに一枚もチケット売れなかったら出禁で良くない? ココの他にもライブハウスあるんだし」
サナエから更なる条件を突きつけられてしまったけど、ウチら、どうなっちゃうんだろう?




