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みそギ!~三十路で始めるギター教室~  作者: ボラ塚鬼丸
Bonus track3~Otherside編

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まちがいさがし/菅田将暉

「あのさぁ……さっきから言いたい放題言ってくれてるけど、マジで何なの? アタシらライブの精算するから店長待ってんだよね。ここは子どもが来るトコじゃないんだから、さっさと帰って宿題でもやってろっつーの!」


 急に現れたギャルっぽい少女に散々言われ放題だったところで、ついにミチヨさんがキレる……が、初めて出演したライブハウスで揉め事は起こしたくないので、出来ればここは穏便に済ませたい。


「チッ! こっちがガキだと思って偉そうにしやがって……だいたいアンタら精算っつったって一枚もチケット売ってないんだから、どうせ機材費払って終わりでしょ? そんなバンドに次のライブ予定なんて入れさせないからね?」


 ミチヨさんの物言いが気に入らなかったのか、彼女は一歩も引く様子が無いし、そもそも何の権限があってライブの予定を入れさせないと言っているのだろうか?


「それからアンタ、ベースだよね? 高い楽器だかどうだか知らないけど、それ、アンタの力量に見合ってないからね? 機材の力に頼っててアタック弱いし、まずピック弾きだろうが指弾きだろうが本気で音鳴らせよ!」


「んなっ……お、お前みたいなガキに言われたくないね! アタシのスティングレーはそんなコトしなくたって鳴ってくれるから!! お前の小遣い搔き集めたって買えないようなシロモノなんだよ!!」


 溺愛している楽器が自分に相応しくないと言われたので、さすがにミチヨさんも黙っていられないようだ。


「へぇ~、んじゃアンタはマイクのボリュームさえ上げれば、ヴォーカルはボソボソ歌っててもイイって言うんだ? そんなんで客に刺さるワケないじゃん」


 少女は激高するミチヨさんを鼻で笑って、もっともらしい言葉で応戦する。


「んで、そっちのちっちゃいギターのアンタも、そんなに大事な楽器なら家の金庫にでも仕舞っとけば? ステージで縮こまって弾いてんのスゲェ格好悪いから。それがイヤなら、週刊誌の裏に載ってるような格安セットのギターでも弾いてろっつーの!」


 少女は痛いところを的確に突いてくる。確かにマキさんはギブソンSGを使い始めてから、アクションが小さくなっていて、立ち位置から一歩も動かないコトが多い。


 弦楽器の二人は少女に言いくるめられてしまい、悔しそうな顔をするばかりで反論出来ない様子だった。


「まぁ弦楽器はヘタクソなだけだからまだイイとしても、一番ダメなのは……」


 少女は受付カウンターに置いてあったボールペンで、プロフィールシートをカツカツ叩きながら次の矛先を探すように、ウチとサクラさんを交互に見比べる。


 当然だけど、何度も場数を踏んでいるサクラさんではなく、初めてライブをやった素人のこちらが標的になるだろうと覚悟した。


「うん。ドラムだね。アンタはマジで最悪!!」


「え? 何で? ウチじゃないの? サクラさんはウチらの中で一番の経験者なのに……」


 ヴォーカルが最悪だったって言われると思ってたところに、まったく予期せぬ言葉が出てきたので驚いて声を上げてしまった。


「はぁ……経験者だろうが何だろうが、ドラムが一番ダメだったよ。アンタさぁ……手ぇ抜いてライブ演ってたでしょ?」


 ウチらが緊張しないようセットリストにアドバイスまで書いてくれて、準備万端でライブが出来るようにお膳立てしてくれたサクラさんが、手を抜いた演奏をしていたなんて……一体このコは何でそんなコトを言い切れるんだろうか?


「あー、アハハ……やっぱわかっちゃったか……」


「笑いごとじゃないから! 観てる客に対してマジで失礼だからね? っつーか客よりまず、メンバーに対して申し訳ないとか思わないの?」


 頭を搔きながら、愛想笑いで返すサクラさんに追い打ちを掛けるように、少女はさらに声を荒げた。


「アンタらもいい加減気付けよ! もしかしてライブ中に音がズレてないとでも思ってた? それ、ホントは何があってもブレちゃいけないドラムが、アンタらのヘタクソな演奏に合わせてたんだからね? 簡単に言うとこのドラム、メンバーのコト1ミリも信頼してないってコトだから!」


 ウチらのコトを信頼していない……そんなハズないと思い、サクラさんの方を見ると、何ともバツの悪そうな顔をして俯いている。


 少女に一言『違う!』と言ってくれるモノだと思っていただけに、ショックで崩れ落ちそうになった。


「みんな……ホントにゴメン。信頼してないワケじゃないんだけど、演奏バタバタになって自信失くさないか心配で……」


 謝るサクラさんに何て言ってイイかわからず、ウチも他の二人も黙ったまま下を向くばかりだった。


「いや……サクラが悪いワケじゃないよ。アタシらの技術が追い付いてないのが悪い」


「うん。ボクももっと練習するし、ギター傷付けないかビビった演奏も……しないようにするよ」


 ミチヨさんもマキさんも、サクラさんを責めるつもりは一切無いようで、自分の実力不足であるコトを悔やんでいるけど、じゃあ……ウチはどうしたらイイんだろう?


「二人ともありがとう。まぁ今回はミスも無かったから、そこは良かったと思うよ?」


 三人が心機一転して、今後の改善を誓ったところで少女がテーブルを叩いた。


「だーかーらー! それがダメなんだっつーの!! 失敗を恐れてライブ演るぐらいなら、多少のミスはあっても攻めた演奏しろよ」


 少女から更なるダメ出しをされたコトで、ウチの記憶が少しだけ蘇る。


 そうだ……コレってチアの部長やってた時に、ウチがいつも後輩に言ってたコトだ。


『失敗しない演技しちゃダメ! 叱られないコトを目標にしてたら、褒められる演技なんて一生出来ないからね?』


『勝手に自分の限界決めないで、向上心持って練習する!!』


 大会前は、特に自分の実力以下の演技ばかりせずに、いつだって挑戦していくように指導してたんだ……その結果、後輩が大技に挑んで競技中に事故が起きたんだった。


 ウチは自分の指導が間違ってたと思って、勝手に記憶に蓋をしてたんだ……そっか、ライブ中からずっと心に引っ掛かってたのは、コレだったのか。


「そうっスね……間違えないコトを目標にしてたら、褒められる演奏なんて一生出来ないっスよね? 何かウチら、演奏じゃなくて根本から間違ってたんスよ。きっと」


「お? わかってんじゃんツインテール! 言いたかったのはそういうコトだよ」


 少女が同意をしてくれたので、やっと胸のつかえが取れた気がしたと思った時に、背後の扉が勢いよく開いた。


「お待たせお待たせ! いやぁ英語って難しいわ。それじゃ精算を……って、サナエちゃん!」


 途中で席を外した店長が戻ってくるなり、受付カウンターの少女を見て声を上げた。


「サナエちゃん……もう店には来ちゃダメだって言ってあったじゃない! ここに来てるってお母さんは知ってんの?」


「あの人だったら、新しい旦那とディナーでも行ってるんじゃない? あーしが受験生だってコトも忘れてんだよ」


 たったの一言二言で察してしまえる複雑な家庭環境……これはライブの精算どころではないかもしれない。


「母親をあの人なんて呼ぶんじゃない! あぁ、君達も申し訳ない……このコ俺の娘なんだけど、こうやって俺の居ない隙を狙ってバンドにダメ出しするから、ほとんどが怒って出演してくれなくなっちゃうんだよ。何を言われたか知らないけど、ライブハウスの意見じゃないから忘れてくれ」


 父親とライブハウスの店長、という両方の立場が同時に襲い掛かってきて、店長は困惑している様子だった。


「そ! あーし、このオヤジどのの娘。堀田(ほりた)早苗(さなえ)でーす♪ っつーか、あーし別に間違ったコト言ってないし」


「間違ってるとか間違ってないとか、そういう問題じゃないんだよ……離婚した俺のコト恨んでるんだったら、出演してるバンドさんに迷惑掛けるようなコトはしないで、俺に直接文句言ってくれよ……」


 受付カウンターでは、相変わらず気まずい空気が流れている……ウチらの精算は終わるんだろうか?


「オヤジどのがそんなヌルいコトばっか言ってるからバンドの質が落ちてんだよ! だいたいアンタら他のハコでもこんなライブ演ってんの?」


 口論の矛先が、再びバンドに向けられた。


「いや他のハコでも、っていうか……ココだけです」


「はぁ? やっぱこのハコ舐めてるでしょ?」


 他のライブハウスに出たコトが無いだけで、こちらとしては舐めているつもりはないんだけど、サクラさんの回答は明らかに言葉が足りていない。


「あ、いや違くて、他のライブハウスでは演ってないんスよ! ドラムのサクラさん以外は、今日が初めてのライブだったっていうか……」


「初めて? 今日が? ……あ、そうなの? だったらMCでそう言えばイイじゃん!」


 やっぱりそういう反応になるよなぁ……だからサクラさんに言われたコトを破ってでも、MCで『はじめまして』と挨拶するべきだったんじゃないか。


「あーそれ、私が言うなって指示したんですよ。初めてのライブっていう先入観で判定緩くされるのイヤだったから……って言っておいて、ドラムが他の演奏に合わせてたら意味無いんだけど」


「んーもう! そういうトコだけストイックになるからややこしいコトになるんだよ……確かに初ライブだって知ってたら、さっきみたいなダメ出ししてないし…………じゃあ、次のライブはオヤジどのと相談して! それからオヤジどのは、あーしにコイツらの日程連絡して!! 次はちゃんとここに来るコト伝えてからにするから」


 次のライブ予定を入れてもイイってコトは、彼女の溜飲は下がったようだけど……日程教えろっていうのは、次回も観に来るってコト?


「んじゃ……次もクソみたいなライブやるようだったら、二度と立ち直れないぐらいのダメ出しするからね? ぃよろしくぅ♪」


 嵐のように現れた少女は、精算の場を引っ掻き回すだけ引っ搔き回して、再び嵐のように去って行った。

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