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みそギ!~三十路で始めるギター教室~  作者: ボラ塚鬼丸
Bonus track3~Otherside編
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ばらの花/くるり

「お疲れ! 初めてのライブにしては……まぁ良かったんじゃない?」


 ギターを片付けていると、サクラさんが後ろから声を掛けてくれた。


「お、お疲れ様でした……」


 自分としては、目立ったミスは無かったから安心しているものの、何か重大なコトを忘れているような気がしてならない。


 それはライブ中も頭の片隅でずっと燻り続けていて、何度も思い出そうとしているけど、セキュリティが掛かっているかのように脳内からアクセスを拒否されているような感覚だった。


「アズサどうした? 燃え尽きちゃったか? ほら、サクラにビール奢ってもらおうぜ!! ……あ、アズサは未成年だからジュースだったわ」


 ミチヨさんは憑き物が落ちたような晴れやかな顔で、ベースやシールドを抱えてご機嫌にステージを降りて行った。


「片付けの仕方忘れちゃった? 早くしないと次のバンド来ちゃうよ?」


 ライブが終わり、マキさんもホッとした表情でウチの脇をすり抜けてステージを降りる。


 照明の消えたステージで動けなくなっていたのは、ライブで燃え尽きたワケでも、ギターの撤収方法を忘れたワケでもない。


 えも言われぬ感情に、蓋をしているような違和感を抱いていたからであり、それが初ライブを終えた感動ではないコトだけは確かだった。


 とりあえず、ライブハウスや次の出演者に迷惑が掛からないよう、そそくさと身支度を整えて楽屋に向かう。


「お疲れさまでした」


 擦れ違うスタッフや、出番を控えた他のバンドのメンバーから声を掛けてもらったが、上の空で会釈するコトしか出来なかった。


「ライブ終わったのに元気ないじゃん……何か失敗した? そんなに悪くなかったと思うけど」


 既に片付けが終わり掛けているメンバーが、楽屋でウチを出迎えてくれたのだが、ハッキリとしない違和感の正体がわからないので、何て返したらイイか戸惑うばかりだ。


「アズサも頑張ったねー! アタシらも初めてのライブだったけど、堂々としてたよ!!」


「うん。ちゃんと声も出てたし、キーも外してなかったじゃん! ボクも弾きながらモニターの返し聴いてたけど、ギターもミスってなかったと思うよ?」


 労いやお褒めの言葉が、何故だかすべて慰めに聞こえてしまうのは、遠い昔にそんな言葉を酷く嫌った時期があったからかもしれない。


 確かにそこまで悪いライブをやったとも思えないし、単にライブ前の緊張がぶり返しているだけなんじゃないだろうか。


「そ、そうっスね。いやぁ何か緊張しっぱなしだったから、一人で抜け殻みたいになってました」


 せっかくバンドがイイ雰囲気でライブを終えたのだから、今は気のせいだと笑って誤魔化すしかない。


「んじゃ! 約束通りサクラにビール奢ってもらいに行くか!!」


 そう言った途端、ミチヨさんが嬉々として階段を駆け上がっていた。


 続けてサクラさんとマキさんが、やれやれという表情で扉を出て行ったので、慌ててギターを置いて追い掛ける。


 再びライブハウスの並びにあるコンビニに到着すると、さっき一度は棚に戻したビールのロング缶を、アルコール類の陳列された冷蔵庫から、ミチヨさんが取って手にしていた。


「人の金で飲む酒は最高に美味いんだよなぁ~♪ ほら、さっさとマキも選んで!!」


 ライブ中も、このぐらいの図々しさがあればもっと盛り上げられたんじゃないかと思うほど、終始浮かれ通しているミチヨさんが、メンバーの先頭に立って買い物をしている。


 さすがに未成年が、便乗してアルコールを飲むワケにはいかないので、ソフトドリンクのコーナーからジンジャーエールのペットボトルを取って、サクラさんのカゴにそっと放り込んだ。


 サクラさん任せで会計を済ませると、ライブハウスには戻らず商店街の路地裏に進み、メンバーがレジ袋から一本ずつ各自のドリンクを取り出す。


「じゃあ、我々Jessica(ジェシカ)の初ライブ成功を祝して……乾杯!!」


 叫ぶやいなや、喉をゴキュゴキュと鳴らしてビールがミチヨさんの胃袋に流れ落ちた。


 自分のライブの出来にはどこか納得していなかったけど、今はこの喜びをみんなと分かち合いたいと思って、カラカラの喉をジンジャーエールで潤す。


 みんなケラケラと笑いながら、楽しそうにライブの反省会をしているので、場の空気を壊さないようウチもそれに乗っかった。


 500mlのビール一本分だけ反省会をして、ライブハウスに戻りながら空き缶を捨てる。


 また受付で、手の甲に押されたスタンプを見せていると、既にライブが始まっているらしく鉄製の扉から音が漏れていた。


 ステージでは、ギターの男性と女性ヴォーカルが、打ち込みに合わせて演奏している。


 ブッキングだと、ジャンルの違いだけじゃなく、ユニットみたいな形態で出演する人達も居るんだなと思いながら、自分達のライブと重ねながら眺めていた。


 男女二人組のユニットが終わると、続いてはツインギターにDJが居る六人組ミクスチャーのバンドが登場して、固定客と思われる数人がフロアの最前列で踊っている。


 メンバー構成の時点で自分達には出来ない楽曲だったから、興味深く観察してしまった。


 そして、トリのバンドがステージに上がると、自分達の時よりも少しだけフロアに人が増えているコトに気付いた。


 客層も演奏も一つ前のバンドと違い、ホーンが入った民族音楽のような演奏が、轟音で麻痺していた鼓膜に優しく鳴り響く。


「初めてのライブハウスどうだった? トリのバンドが撤収したら、受付で精算あるからね?」


 ぼんやりと眺めていると、いつの間にか全バンドの演奏が終了していたコトを、サクラさんに肩を叩かれて気付く。


 精算……っていうけど、確かこのハコってノルマ無いって言ってなかったっけ?


 ただそんなコトよりも、自分の中でずっと引っ掛かっている得体の知れない何かが気になっていたので、疑問を抱えたまま言われた通り受付に向かうと、入退場をしていた時に居た金髪の女の子ではなく、貫禄のある髭ヅラの男の人が椅子に座っていた。


「え~っと……二番目の、Jessicaだっけ? んじゃ……」


「あ、店長! 事務所に海外レーベルの担当者さんから電話っすよ? 私ら英語わかんないんで、急いで来てください!!」


 パッと見では、出演者と間違われそうな風体の店長と呼ばれる男は、長い髪をガシガシ搔きながら席を立った。


「申し訳ない! ちょっとだけ待っててくれる? あ……それから、俺以外のヤツが来ても精算しないでね?」


 店長は心配そうな顔で扉を開けると、小走りで階段を駆け上る足音を残して去ってしまった。


「あの人が店長? なんか厳しそうな顔してたね? ライブが良くなかったら怒られたりすんのかなぁ……」


 周囲に誰も居なくなったコトを確認して、マキさんが不安を漏らす。


「いや、そんなコトないよ? チケットの残券確認して、次のライブ予定とか相談する程度だから」


 恐らく精算作業を経験済みであろうサクラさんが、メンバーに笑いながら説明していると、ウチらの間を人影がすり抜けて椅子に座った。


「はーい、そんじゃ残券出して?」


「え? あの……店長さんが、ちょっと待っててくれって。あと、自分以外が来ても精算するなって……」


 突然のコトに驚いたけど、落ち着いてサクラさんが事情を話している相手は、ウチよりも年下であろうギャルっぽい女の子だった。


「あー、そういうのイイから。ほら、残券!」


 こちらの言うコトには一切耳を貸さないスタンスで、提出したJessicaのプロフィールに目を落としたまま、手だけこちらに差し出している。


 子どものイタズラ? ……にしては堂々とし過ぎているし、何より中学生ぐらいの女の子が簡単に出入りするような場所ではない。


 サクラさんはウチらの顔を見回して、苦笑いしながら言われた通り女の子に残券を手渡す。


「あい、預け20枚だよね? 1.2.3……9.10.11……17.18.19……20って、一枚もチケット売ってないじゃん!! はぁ……マジやる気あんの? っつーかこのハコ舐めてんの?」


 急に高圧的になったギャルに面食らってしまい、早く店長が電話から戻って来てくれないかと願うばかりだった。

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