表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
みそギ!~三十路で始めるギター教室~  作者: ボラ塚鬼丸
入門編
12/175

12.スーパースター/東京事変

『余計なコトに首を突っ込んで恥をかいた。』


 という最終データ更新で、初めてライブハウスに入った感動や衝撃が薄れてしまった気さえする。


 もっと方法があっただろ? 俺!


 誰しもがそうであるハズだが、恥ずかしかったコトを思い出す度に、大声を出しそうになるクセだけは治したいモノだ。


 電車内で、奇声を上げないようグッと拳を握り締めながら帰ってきたので、生命線が中指と薬指の爪で分断されていた。


 こんなコトで早死にするとも思えないが、心配になって家に着いてから数分ほど、無心で爪痕を親指で擦っていたにも関わらず、歳のせいか皮膚の戻りが悪い。


 手のひらの回復は諦めて、貰った包みを誕生日ぶりに押し入れから取り出す。


 そして誕生日ぶりに取り出したギターにストラップを装着する。


 昔からリュックサックなどのベルト調整が苦手で、肩から下げては何度も長さを合わせてみて、しっくりくる所で落ち着かせた。


 部屋には全身を見られる鏡が存在しないので、カーテンを開け放ち、闇夜の手前でこちらを映し返す窓ガラスで高さを確認した。


 覚えているコードといえば、今のところGしかないので、確かこんな感じと指をフレットに乗せる。


 あれ? こんなに押さえづらかったか?


 前回から日が経っているとはいえ、たかが三本指で押さえる弦が遠い。


 上からピックを当てて下ろしても、初めて弾いた時と同じペソペソという情けない音しか出ない。


 原因究明に頭を回すが、前回と違うコトと言えば、ストラップを装着しているコトぐらい。


 小首を傾げて立ちすくんでいても仕方がないので、とりあえずその場で胡座をかいて座った。


 右の太ももにギターのアーチを合わせて抱えると、驚くコトに、あんなに押さえづらかったGが簡単に押さえられて、ピックでストロークしてもちゃんと音が鳴ってくれる。


 えぇ?! ギターって立つとこんなに弾きづらいの?


 さっきまで観てたライブじゃギターのコ達はあんなに動き回ってたのに!


 ひょっとしてストラップの調整を低くし過ぎたのか?


 再び立ち上がり、今度はギターが胸元に来るぐらいまでストラップを縮めた。


 確かにコードは押さえやすくなったが、窓ガラスに映る自分の姿は、ライフル代わりにギターを構えた狙撃手のようで、なんとも滑稽だった。


 とりあえず、立って演奏出来るようになるのは後回しにして、今は確実にギターを弾けるようにならなくては。


 立ったり座ったり一人で忙しなく動いていたが、部屋の中心にドカっと座りフレットに指を三本置いた。


 ピックを上から振り下ろすと、ギターは綺麗にジャランと鳴った。


 もうGは攻略したと言っても過言ではない上、今日はもう一つや二つコードを覚えられそうな勢いだ。

 左手を伸ばし、押し入れの手前にあるタウンページ大の歌本を、片手の握力だけで掴んで引き寄せる。


 挟んである付録のコード表を広げると、初日にマキが蛍光ペンで囲ってくれたGの他に、CとDに印が付いていた。


 アルファベット順ならCから先に教えてくれてもイイものを、何故Gからだったのかは置いといて、Cのコードを弾いてみるコトにした。


 人差し指、中指、と弦を押さえ、次に薬指をフレットに乗せると、やはり手首がピキっと音を立てるかのようにツリそうになる。


 ピックを弦に当てて上から弾いていくが、相変わらずペソペソと情けない音しか出ない。


 一旦ネックを手から離し、ブンブンと手首を振ってグーパーを繰り返す。


『左手は添えるだけ』


 スラムダンクの桜木花道のように、初心者は教わったコトを忠実に行うのだ。


 力は要らない。深く呼吸をして、床に落ちた米粒を指先に貼り付けて拾う程度の力加減で、フレットを押さえ直す。


 ギターはC(と思われる)コードの音色を鳴らした。やれば出来るじゃないか!俺。


 ただ、若干だが邪魔な音が混ざっていて気持ちが悪い。


 押さえる場所が間違っているのかと思い、何度もコード表とフレット上の指の位置を確認するが、合っているハズなのにやはり鳴る音が気持ち悪いのだ。


 ところで、この六弦の横に書いてある×印は何を意味しているんだろう?


 腕組みをして、眉間にシワを寄せながらコード表を睨んでいると、部屋のドアがドンドンと叩かれた。音がうるさかったのだろうか?


 ギターを立て掛けて、玄関に向かうと再び安普請のドアを叩く振動で、部屋全体が揺れる。


「警察だ! ここを開けなさい」


 は? 警察? 一瞬焦ったが、クスクスと笑い声が混ざった声の主は、明らかにL☆D(略)であろうと気付いてドアを開けた。


「近所迷惑なんでやめてもらってもイイですかね?」


 開口一番やれやれ顔でそう促すと、マキとミチヨが膨れっ面で立っていた。


「ちょっとは驚いたってイイじゃんか! さぁ、エロ本所持の疑いで家宅捜索させてもらうぞ」


 そう言うと俺を押し退け、玄関口に抱えていたギターを置いてマキが部屋に上がる。続いてベースを置いたミチヨが、俺の脇をすり抜けて行った。


 振り返ると、既に部屋の中央で寛いでいる二人。


「おー! ギターの練習中だったのか! 感心感心。ウフっウフフ……アハハハハ! ダメだ! 我慢出来ない!」


 ミチヨが労いの言葉を掛けてくれたかと思いきや、急に爆笑し始めた。


「アハハ! いや、笑っちゃダメでしょ! ウフフ……アハハハ!」


 マキも続けて笑い転げている。何だろう?バカにされてるのか?一頻り笑い終えたマキが、呼吸を整えて俺の方に向き直る。


「いや、あのね? ウフ……さっきここに来る時、フフ……ギターのストラップを……オホ! 一生懸命直してはポーズ取ってるアミオくんが……アハ! 外から丸見えで……エヘヘ! 可愛かったなぁって……エヘヘ! アハハハハ!」


うぅ……やっぱりバカにされてた。


 窓ガラスに映ってる自分は見えてても、まさかこんな遅い時間に外から見てるヤツが居るなんて思わなかった。


「う、うるさいよ! 部屋に鏡が無いんだから仕方ないだろ! せっかく貰ったんだし、ちゃんと使わないと失礼だと思ったから」


 鏡が無いのでわからないが、きっと今の俺は耳まで真っ赤になっているコトだろう。


「アハハ! いやいや、別にバカにしてるワケじゃなくて、単純に可愛いなって思っただけだから」


 ミチヨが必死に弁解しているが、鼻の穴をヒクつかせている姿に誠意は見られない。そもそも三十路のオッサン捕まえて可愛いとは何事だ。


「ンンっ! ところでこんな遅くに何か用でも?」


 恥ずかしさを押し殺し、咳払いして二人が俺の部屋を訪ねてきた理由を訊いた。


 ミチヨは相変わらず肩を震わせ笑いを堪えていて、俺の問いかけに答えられそうもない。


「あ、打ち上げ打ち上げ。まぁ反省会みたいなモンだよ」


 一足早く落ち着きを取り戻したマキが、さも当たり前かのように答えてくれた。


「打ち上げ? 反省会? 俺の部屋で?」


「うん。そうだよ? だって今日はスタッフとして働いてくれたじゃない」


 チケット代を払った上に物販で働かせて、その上部屋を荒らされるワケか。明日も仕事だってのに。


「いや、だとしてもあとの二人は?」


「サクラは自分の部屋でお風呂入ってる。エリカはジャンケンで負けたから今コンビニで買い出し。もうすぐ来るよ♪」


 勝手に決めてくれるなよお嬢さん方。


 この後どれくらい宴が繰り広げられるんだろうと、不安が過ったところでドアがノックされた。


「はいはーい! いま開けるよー」


 マキが自分の部屋かのように、玄関に出迎えに行く。ドアが開くと両手にレジ袋を下げたエリカが立っている。


「ウフ……ウフフフフフ……」


 玄関から部屋まで若干の距離があったが、俺と目が合うなり寄生獣の田宮良子のように、表情を崩さずに笑っている。


 お前もか!


「ちょっと、人の顔見るなり笑うとか失礼でしょ! 大人として」


「あーゴメンなさい。いや、あまりにも可愛らしかったモノだから。つい、ね」


 また可愛いって。エリカが今度は口元に笑みを浮かべながら、部屋に入るとど真ん中にドサっとレジ袋を置いた。


「寒いし重いし指がちぎれるかと思った」


「エリカはジャンケン弱いからなぁ」


 そう言いながら、ミチヨはレジ袋を漁って発泡酒の缶を取り出した。


「あら、そう言えばお手柄だったんだって? アミオ」


 ミチヨに続いて買ってきたばかりの発泡酒を手に、緩んだ口元をさらにニヤケさせながらエリカが言った。


「お手柄?」


 聞き慣れない言葉から、新聞の見出しを連想した。


『お手柄三十歳チカン撃退』


 全くもって身に覚えがないのだが……


 あ! さっきの格好悪く酔っ払いを追っ払い(韻踏み)のアレか。


「いやいやいや、ホントにやめてくれ! 格好悪いだけだから」


 ギター弾いてて完全に忘れてた。


 そりゃ彼女らの関係者も居合わせただろうから、何かしらの報告はあったとしても、お手柄のレベルがショボ過ぎる。


「イコールのアズがお礼言ってたよ? あ、最後に出たバンドのヴォーカルね?」


「お、おう。まぁ役に立ったならイイや」


 やや投げやりに、伏し目がちでそう言うと、エリカが耳打ちしてきた。


「私の脱退止めたみたいな感想言ったでしょ? あのコもビックリしてたみたいよ」


 ん? ああ、ホントは悲しい曲なんですかとかなんとか口走ったな。気持ち悪がられたんだろうか?


「アミオはホントに不思議な人だね」


 離れ際にそう言って、エリカはクスクス笑っていた。


「あー何か怪しい雰囲気! アミオくん、エリカと内緒話とかイヤらしい! 不潔っ」


「男も三十路になると見境無くなるのかねぇ? っていうか今アズって言った? あんなヤツと口利いちゃダメだよエリカ! 悔しいけどバンドが格好イイのは百歩譲って認めても、アタシはまだアイツのコト許してないんだから」


 俺の格好悪いエピソードから話が逸れたのはイイが、何だか不穏な空気になってないか?


 自分の部屋なのに若干居心地が悪い。


「そう? 私はむしろ感謝してるけど。だって彼女のお陰で私はここに居るんだもの」


「うぅ……そりゃまぁそうだけど」


 話が見えないが、ここに何か地雷的なモノが存在するようだ。


 空気が読めないフリで、話題をすり替えてやろう。


「そうだ! 俺、聞きたいコトあったんだよ! さっきギター練習してて、コードのCを弾こうとしたら音が気持ち悪くて。この×印と何か関係ある?」


 狭い部屋ながら、遠くから会話を聞いているだけのマキが、広げたコード表を覗き込んできた。


「それ、弾かないトコ。ピック当てないようにストロークするか、Cなら上から軽く親指当ててミュートする人も居るけど」


 弾かない……楽器なのに弾かないとかあるのか。


「ところでコード覚えたの? 最初がGだっけ? それでCか。あと一つ覚えたら何となく一曲弾けるじゃん!」


 ミチヨが簡単に言ってくれる。


「そんな、コード三つ覚えたぐらいで曲なんて」


「弾けるよ? 一緒にあげたCDに使ってるコード少ない曲も入ってたでしょ?」


「入ってたでしょ? って言われても、コード進行で曲聴いてるワケじゃないから」


「はぁ……仕方ない。マキさんやっておしまい!」


 水戸光國というかドロンジョというか、ミチヨが俺から奪ったギターを手下扱いのマキに手渡した。


「えー? ボクがやるの? そのくらいなら二人も弾けるじゃん」


 ミチヨもエリカも弾けるって、そんな簡単なモンのか?


 二人がマキを期待の眼差しで見つめている。


「あーもう! やるよ! やればイイんでしょ? じゃあ、あげたCDの一曲目再生してくれるかな」


 丁度コンポに入れっぱなしだったので、電源を入れて再生した。


「ホントはガンズかアヴリルのヤツの方が解りやすいんだけどなぁ……ま、オリジナルでもイイか」


 マキは大きめのパーカーの袖を肘まで捲り、白く細い腕を露にさせながらギターを抱えた。


「ホントはAmが入るからコード四つだけど、何か上手いコト誤魔化してね? これ『完璧に弾く』のが目的じゃなくて『弾けた』っていう実感を持つ為だから。あと僕、絶対歌わないからね」


 そう言ってフレットを押さえた指は、俺が初めて覚えたGの形だった。


「G→D→Am→G→D→C」


 コード名を言いながら、曲に合わせてギターを奏でているが、ホントに四つしか弾いてない。


 これなら坊主にならなくて済むのでは、と希望が沸いてきた。


「って感じのループで弾けるワケ。だいたい解った?」


 一番のサビが終わったところでコンポの停止ボタンを押し、マキは俺にギターを返してきた。


「さっきも言ったけど、×が付いてる弦は鳴らさないようにね?」


「うぅ、お嬢さん、私もう海馬が」


 数分間で詰め込まれるにしては、やや情報量が多過ぎて、三十歳にはキツいモノがある。


「とりあえずGとCは弾けるんでしょ? 順番にコード繋げてみようか?」


 ギターを抱えた俺に、三人の視線が集中する。正直、さっきあんなにも格好良いライブをやってた人達の前で、こんな素人の、演奏とも呼べないようなシロモノを晒す苦痛ったらない。


「いやぁ~ちょっと恥ずかしいんで、個人的に練習してから……」


「ダメ! いま弾く! すぐ弾く!! ボク達だって、そんなに毎回アミオくんの成長を見届けられる程ヒマじゃないんだから」


 もう逃れられない感じになってるな。諦めて言う通りにするしかない。冬場だというのに、脇汗をしっとりとさせながらネックを握る。


 まずはGから。えっと……六弦が中指で三フレット、五弦が人差し指で二フレット、一弦が薬指で三フレットと。


 だいぶ慣れてきたので、ジャランと綺麗なコードが鳴った。


「はい、もう一回ストロークしたらCにチェンジ!」


 Gをジャランと鳴らし、五弦を薬指で三フレット、四弦の二フレットを中指、人差し指で二弦の一フレット。


 たどたどしいながら、指を弦に乗せて六弦を弾かないようにピックを当てる。


 ジャランと鳴らすと、先ほどまでの違和感が消えた。


「じゃあもう一回でGに戻す!」


 Cの指を解除して、再度Gの型でネックを握り直して弦を鳴らす。

二回ストロークしてCに戻そうとしてマキに止められた。


「はいストップ! ボクとアミオくんの違うトコってどこか解る?」


「違うところ、性別? 歳?」


 ハァと三人同時にため息。


「そんな一ミリも笑えないコト言われて、愛想笑いで返せるほどの優しさは持ち合わせてないんだよね。ボクの! ギターと! アミオくんの! ギター! 違いはドコ」


 うぅ、なんでこんな小娘に説教されなきゃならないんだ。違うトコなんて山ほどあるってのに。


「コードが変わる時の、速さ?」


「そう! コードチェンジが遅すぎる。それじゃ弾き語りしてても、どんどん歌に置いてかれちゃうから」


「っていうかアミオさん、意外と陰練してた感じ?初心者ってコード覚えるの難しいのに、もう押さえるトコ完璧じゃない。っつっても二つだけど」


 何コレ飴と鞭? マキが叱ってミチヨが褒める役回り? 陰練て、陰で練習してたかどうかってコトなら、まったくしてない。


 けど、練習してなくてコレなら才能あるって褒められるかもしれないし、練習してたって嘘ついて今後のハードルが上がるのも困るから、正直に言った方が良さそうだな。


「いえ、まったくしてませんでした。スミマセン怒らないでください」


「いや怒らないけど」


 マキとミチヨが若干ハモり気味で同時に答える。


「えー、じゃあ記憶力? 殺人現場とか一回見ただけで違和感覚えて解決しちゃう系の?」


 そんなアンビリーバボーな奇跡体験出来るような特殊な体質だったら、もっと活かせる仕事にでも就いてるだろうに。


 仕事……ああそうか!


「あ、俺、数字と形を記憶するの得意だったわ。職業柄、電話番号も一回見てから、ダイヤルする時の指の流れで覚えられるけど、こんなコトに役立つと思わなかった。」


 バトル系マンガで言ったら、バリアでぶん殴る的な能力を別の使い方で活用した感じか? 全然違うけど。


 こんな能力でも役に立ったよジーザス!


「おお~! 誰にでもひとつぐらい取り柄ってあるモンんだねー」


 くっ! ミチヨめ! 自分で思ってるのはイイが、人に言われるとイラっとするな。


「それなら不安要素が一個減ったじゃん。普通はコードの指の位置覚えるの大変なんだから。じゃあ、もうひとつ覚えて形にする? それとも素早いコードチェンジの特訓?」


「どっちも大変そうな二択! じ、じゃあ……もうひとつ覚えます」


「オッケー! じゃあDで」


 マキがコード表を指差す。なんだか狭い所に指が密集したコードだった。


「人差し指が三弦二フレット、中指が一弦の二フレット、薬指が二弦の……三フレットぉぉぉ」


 僅か数センチのスペースに、三本の指で作るデルタがムチャクチャ窮屈だ。何とか押さえてピックを振り下ろす。


 ジャカジャゲソペソ……


 触れていない上の方は当然音が鳴るものの、デルタに差し掛かると指の腹が弦に当たっていて音が出ない。


 ネックから手を離し、指を開いたり握ったり。もう一度フレットの上に指を順番に乗せていくが、うぅぅやっぱり狭い。


 他の弦に当たらないように意識して、三本の指を爪先立ちのようにしてネックを握り直す。手元だけを見ると、ネコ科動物の形態模写のようなフォルムだ。


 ガチガチに強張った指を意識しながら、再度ピックを当てる。


 ジャランとキレイに鳴ったが、何度か繰り返すとまた指が触れてしまう。


 遠くで彼女達の会話が聞こえるが、無心でDのコードと格闘していると肩を揺さぶられた。


「いや、ゾーン入り過ぎだから」


 視線をギターネックから上げると、目の前にサクラの顔があった。


「うおぉ! ビックリした!! いつの間に」


 風呂上がりだからか、やや艶っぽい彼女に驚いて、必要以上に大声を出してしまった。


「いつの間にじゃないよ。もう三十分ぐらい前から来てるってば」


 そう言うと、サクラは二本目であろう発泡酒の缶を開けた。


「で、弾き語りはどうです? もう一ヶ月切ってますけど」


「ご覧の通り、必死にやってますよ」


「うんうん。自分の楽器で一生懸命練習してくれてると私も嬉しいです! でも、そろそろ近所迷惑になるんで、この辺でやめといた方が……」


 時計に目をやると、深夜1時を回っていた。


「うそーん! 俺、明日も仕事だってば……。もう帰ってくれないかしら?」


「そんなのアミオ君がギター弾き続けてるのが悪いんじゃん! もうしばらく付き合ってもらうからね」


 ギターを教えて貰っている手前、これ以上強く言えず、まだまだ俺も俺の部屋も解放されそうにない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ