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みそギ!~三十路で始めるギター教室~  作者: ボラ塚鬼丸
Bonus track3~Otherside編
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夕暮れ時のさびしさに/たま

「あ、PAさん! 前のモニターから、ドラム3点と上手のギターと……あと、メインヴォーカルを薄く返しといてください」


 音響担当者に何やら注文したサクラさんは、いつでも来いと言わんばかりの姿勢でこちらを見ているので、マキさんとミチヨさんに目配せをして、コクンと頷き返す。


「んじゃ1曲目から行きまーす!」


 カツカツとスティックで4つカウントと取ると、背後のアンプとドラムセットからだけでなく、前方に設置されたモニターと呼ばれる台形のスピーカーからも轟音が放たれた。


 セットリストの1曲目は、ミドルテンポの8ビートで構成された『Juicy Fruity』という曲で、パターン自体は単調に作られているが、エリカと考え抜いた語呂の良い歌詞を、聴き手に刷り込みやすいキャッチ―なメロディに乗せている。


 キーもやや高めにしているので、メンバーからは『アズのぶりっ子ソング』と揶揄(からか)われている曲だったが、歌い出しも問題なく入れたから、普段通り全力で声を張り上げた。


 バッキングでアタマのコードだけギターを鳴らすのだが、目の前のモニターから聞こえるドラムでアタックが分かりやすくて、簡単にリズムが取れる上に弦楽器の聞こえ方のバランスも良い。


 緊張しているコトを除けば、ライブハウスのステージの方が、スタジオよりも圧倒的に演奏しやすいモノだと思った。


 気持ち良く歌っていたら、1番のサビが終わったところでサクラさんが演奏を止めたので、何か間違えたかと思い後ろを振り向く。


「うん。イイ感じ♪ あ、ドラムに上手のギターください!」


 サクラさんがモニターの注文をしたコトで、楽曲にミスがあったワケじゃなく、単純に音のバランスを確認していたのかと納得した。


「マキはコーラス無いから、モニターに問題無かったら次の曲フロア降りて、外音のバランス聞いてもらってイイ?」


 マキさんは言われた通りに、シールドを伸ばしてステージを降りると、ウチと向かい合わせでギターを構えた。


「OK? じゃあ2曲目いきまーす」


 全員の状況を確認して、サクラさんが開いたハイハットでゆっくりめのカウントを取ると、ウチも含めた弦楽器3本が同時に楽器を鳴らし、続けてギターはミュートカッティングでリズムを刻んでゆく。


 2曲目はエッジの効いたスローテンポの『from all lover』という色恋沙汰を茶化した歌詞の曲で、サビ歌のロングトーンは母音を揃えた歌詞を付けている。


 全体的にゆっくりな曲調で誤魔化しが利きづらいため、モニターに集中して慎重にギターと歌を乗せた。


 ここでも、1番のサビ終わりでサクラさんが演奏を止めてしまったが、正直なところ不安が残る曲なので最後まで演り切りたかった。


「マキ、外音どうだった?」


 フロアでギターを弾いていたマキさんに、サクラさんが大声で訊いた。


「あー、うん。悪くないんだけど、何かリズムがカッチリしてるからか、ズレると丸わかりなのが気になる……かな? でも、これって演奏力の問題だからね」


 そりゃそうだ。そんなコトをライブハウスの人に言ったって、ウチらの技術力が上がるワケじゃないし。


「アハハ! やっぱヘタなの即バレするよね? すいませーん、2曲目ドラムにリバーブ掛けてもらってイイっすか? 深さはおまかせしますんで……んじゃもう1回、Bメロからサビ終わりまでやってみようか?」


 何がどういうコトなのかわからないまま、サクラさんに言われた通り、カウントでBメロからやり直し。


 やや見下ろす感じの位置に居るマキさんが、演奏再開した直後に目と口を丸くしながらギターを弾いているのが可笑しかったけど、モニターから返ってくる楽曲に纏まりが生まれていて、サビまでの演奏を終える。


「なにコレ凄い! ドラムの音が伸びて、ズレてんのあんまり気にならなくなった!!」


「おー! 良かった。何とか誤魔化せそうだね」


 ライブハウスの音響で、技術力のカバーまで出来ちゃうの?


「あ、あと時間どのくらいっすか?」


「んー、あと1コーラスぐらいですかね……」


 外音がエフェクトで化けるコトに驚きつつ、ライブハウスの音響さんとサクラさんが、大声でやり取りをしているのをただ見守っていた。


「あと何か不安なのある? ……っつっても残り2曲だけど」


 あとはギターの単音リフとベースラインが特徴的な『Mother,Father』と、ドラムの手数が多くて速い『war of worlds』という2曲だったが、どちらもスタジオ練習で何度も擦り倒しているので、恐らく問題は無さそうである。


 とは言え、リハで楽曲が劇的に改善するのであれば、もう少し続けたいところだけど、フロアには次にリハをするであろうバンドが準備していたので、これで切り上げるコトにした。


「じゃあ……コレで本番宜しくお願いします!」


 スタッフさん達に挨拶するサクラさんに続き、ウチも他の二人も、宜しくお願いしますと言いながら片付けを始めた。


「ホントに大丈夫か心配なんだけど……アタシのベースちゃんと聴こえてた?」


 普段よりも口数が激減しているミチヨさんが、不安げな表情でマキさんに尋ねている。


「まぁ……大丈夫、だと思う。ベースはムチャクチャ聴こえてた。けど、ボクのギターが埋もれたらどうしよう……」


「二人とも、そんなに気にしなくても平気だってば! お客さん入ったら聴こえ方も変わるし、そしたらPAさんがちゃんと調整してくれるから!」


 スティックを握ったままの両手で、ペダルとスネアを強引に掴んだサクラさんがドラムセットから出てきて、心配そうにしている弦楽器の二人に声を掛けた。


 リハの転換を円滑に行うため、マキさんもミチヨさんも楽器をケースにしまわず、シールドごとズルズルとフロアまで引きずって降りる。


「まぁ、初めてのコトだから不安なのはわかるけど、今日一日絶対に誰からも初ライブだってバレないようにしようね? 何か、そういう先入観で観られるのって悔しいじゃん?」


 緊張と不安が入り混じったウチら三人を集めて、サクラさんが小声でそう言っていたので、前日のスタジオでも曲間で初ライブであるコトは絶対に言うなと、何度も念を押されたのを思い出した。


「コンビニにステージドリンクでも買いに行きがてら、オープンまでちょっと外歩こうか? この辺て商店街に色んなお店あるんだよ!」


 本番にビビッている様子を察してくれたのか、楽屋に機材を置いた後、受付で手の甲に出演者スタンプを押してもらい、気分転換に外へ連れ出された。


 夕暮れ時の商店街は、薄暗い地下のライブハウスとは一転して、買い物客で大いに賑わっていた。

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