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みそギ!~三十路で始めるギター教室~  作者: ボラ塚鬼丸
Bonus track3~Otherside編
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ニューマシン/The ピーズ

「ジャジャーン! ついに買ったんだぜ!!」


 音源を録音して10日ほど経ったスタジオで、ミチヨさんが意気揚々とケースから取り出した木目調のベースを掲げている。


「おお! ついに買ったんだ? スティングレイ!!」


「いやぁ~ムチャクチャ悩んだんだけど、我ながらよく思い切ったなと。だってさぁ……ナチュラルはコレがラス1だったし、今後もう新品の入荷無いかもしれないっていうから即決! ローンバリバリマシーンだよ♪」


 ミチヨさんもマキさんも二十歳を超えているため、分割で高額な楽器の購入が出来るのは羨ましい。


 スタジオに着いてからというモノ、ミチヨさんはナチュラルウッドのボディを、愛おしそうに指でなぞりながらニヤニヤしている。


 この勢いでは、下手したら一緒にお風呂入ってしまいそうな溺愛っぷりだ。


「ボクもミチヨに連れられて買っちゃったんだよね……価格帯でサクラのギターと同じEpiphone(エピフォン)と迷ったんだけど、グリーンが欲しかったから倍の金額出してGibson(ギブソン)にしちゃった。ホント大事にしなきゃ」


 ミチヨさんとは逆で、マキさんは貴重品でも扱うかの如く緑色のSGを慎重に取り出し、落としたりぶつけたりしないようにスタジオ内のアンプや壁から距離を取って、ギターを抱えてじっと椅子に座っている。


「マキはビビりだなぁ。Gibsonっつったって、アタシのスティングレイよりは安いんだから、もっとガンガン弾きまくったらイイのに!」


「ボクはミチヨみたいにモノを雑に扱ったりしないんだよ! せめて分割が終わるまではキズひとつ付けたくないんだから……」


 同級生とはいえ、対称的な二人のやり取りを微笑ましく眺めていた。


「じゃあ……二人が楽器を新調したコトだし、音出してみようか!」


 早くアンプから音を出したいのか、ミチヨさんは嬉々としてシールドを繋いでいる。


 一方のマキさんは何度もやっているハズなのに、指差し確認しながらギターアンプとSGを接続していたので、アンプの使い方を覚えたてだったウチも、それを横目に再確認してレンタルのストラトを繋ぐ。


 試し弾きの時点で、ミチヨさんのスティングレイは低音がビシビシと響いてて、もしいま冬場でパーカーを着てたら、お腹のポケットでスマートフォンが着信してるんじゃないかと思うぐらいの振動だった。


 マキさんも準備が整ったようだけど、こちらは必要以上に音を鳴らしてくれないから、早く曲に移行したいところだ。


「んじゃ前の練習で録った順番で4曲演ってくね? 気になるトコがあったら演奏止めてイイよ」


 サクラさんが全員を見回して、スティックでカウントを取り始め、機材の変わらないウチは、いつも通りの歌と演奏に取り掛かった。


 ……が、普段と同じ声量で歌っているつもりでも、弦楽器に搔き消されるような感覚に陥る。


 サクラさんも驚いた表情でドラムを叩いていたけど、徐々にその音圧を上げていくのがわかった。


 さすがは分割で購入するほどの高額な楽器だと思ったのは、何度も演奏してきた曲であるにも関わらず、初めてスタジオの部屋全体がビリビリと共振していたからだ。


 巨大な重機が近くを通っているかのようなベースの低音にも驚かされたが、それに埋もれない中音域でギターがしっかりと鳴っている。


 当然のコトながら、お飾り程度のウチのバッキングギターは搔き消されているけど、もしミチヨさんだけがベースを購入していたら、きっとマキさんのギターも全然聴こえなくなっていただろう。


 ドラムの音に負けている気がするというミチヨさんの話を訊いて、楽器の問題じゃないだろうと思ってたけど、機材だけでカバー出来るコトも案外あるモンなんだなぁ。


 一曲終わったところで、ミチヨさんがケタケタと笑い始めた。


「アタシのニューマシン凄くない? 自分で弾いててビックリしちゃったよ!!」


「ホント、思い切って買った甲斐があるね! 私のキックが全然聴こえなくなったモン」


 確かにドラムが聴こえづらくて、最初の方はリズムがズレそうになっていた。


「ギターも良かったよ! SGって中音域が太いから、二人の弦楽器の相性も合ってるんじゃない?」


「うん。ボクの音も埋もれてなかったよね? もし違うギター買って、ミチヨの音しか聴こえなかったらショックだったよ……」


 ホッとした表情で、マキさんは弾き終わったばかりのSGをクロスで拭いている。


「他の曲も演っとこう。あ、その前にアズサはちょっとだけアンプとマイクのボリューム上げて? 聴こえづらいからズレやすくなってる」


「あ、はい! 自分でも何弾いてんのかわかんなかったっス」


 弦楽器の二人に気を取られて、ウチのギターなんて聴こえてないと思ったのに、サクラさんはちゃんと聴いてたのか。


 言われた通りにアンプの目盛りを少し捻り、何度かコードを弾いてボリュームを確認した後、ミキサーのマイクのボリュームも調整した。


 一曲目にミドルテンポの8ビートの曲と、二曲目はエッジの効いたスローな曲、三曲目はギターの単音リフと動き回るベースラインが特徴的な曲、四曲目はドラムの手数が多くて速い曲。


 全部の曲が、デモテープを録音した時よりグレードアップしている気がした。


「あー、こんなコトならベース買ってから音源録れば良かったよ……まぁ録り直してもイイんだけど♪」


「そうだね。ボクも今の方が納得したギター弾けそう」


 新たな武器を手に入れた二人から、強気な発言が出ているけど、一発録りとはいえ、もうしばらくはあの緊張感を味わいたくない。


「アハハ! そりゃそうだろうね? 全曲良くなってるモン。ただ、ここの機材じゃ音が潰れちゃうだろうから、デモテープはアレでイイんだよ」


 そういうモノかとは思ったけど、より良い音源の方がライブハウスの印象も良くなるんじゃないだろうか?


「と、いうコトで、私達の最初のライブが決定しました!」


 サクラさんが続けて言った言葉を理解するのに、ウチも含めた三人は一瞬戸惑ってしまった。


「え、何て? ライブ……やんの? アタシらが?」


「決定ってコトは……そういうコト、だよね?」


 ミチヨさんとマキさんが状況を飲み込みつつ口を開くと、サクラさんはニコニコしながら頷いていた。


「そ! 来月のド平日だけど、ブッキングでライブやるよ♪ あと一ヶ月ぐらいだから、とりあえずこの4曲は完璧に仕上げよう!!」


 ライブが決定したという言葉に対して、まだそれが自分の中で現実味を帯びていないまま、不安と期待が渦巻いていた。

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