バイト バイト バイト/クリープハイプ
「ってコトでさ、ウチもバイトしようかと思って」
「そっか。私は通学時間もあるけど、目一杯履修登録しちゃったから、バイトどころか遊びにも行けないよ」
エリカとの電話は、最低でも週一程度、お互いの近況報告をするコトが習慣になっていた。
相変わらず、エリカは大学が忙しいらしく、なかなか会って話す時間が取れないのが残念だ。
「ところでアズサはどんなバイトするの? 接客業とか事務系とか……なんか考えてるだけで楽しそうだね!」
「接客かぁ~……文化祭の時は遊びみたいなモンだったけど、仕事になったら大変そうだし、事務なんてウチに出来ると思えないし……」
高校時代は部活漬けで、バイトなんてやってるヒマは無かったけど、こんなコトになるなら何か経験しとけば良かったなぁ。
「私も相談に乗れなくてゴメンね? でも求人情報って、フリーペーパーでもネットでも、今は簡単に調べられるみたいだから、私なんかより全然役に立つと思うけれど……アズサに向いてる仕事に就けると良いね♪」
とはいえ、あくまでもウチにとってのアルバイトはお金を稼ぐ手段なんだから、バンド優先の時間に融通が利いて、そこそこの給料が貰えるならそれでイイんだけど。
「じゃあウチも何か楽で時給良さそうなの探してみるよ。あ! あと、さっき話した歌詞の件も宜しくね? なんか『母音』が同じヤツで!!」
「うん、わかった。私も作詞なんてしたコトないけど、そういう作り方もあるんだと思ったら、何か楽しくなってきた♪」
エリカと長い電話が出来るのは、ちょうど今ぐらいの夜間か、授業の合間ぐらいしか無いけど、さすがに夜更かしさせ過ぎるのも申し訳ないから、極力早めに切り上げるコトにしてる。
『またね』と、電話を切ったスマートフォンで、そのまま求人サイトを開く。
バンドのメンバーみたいに、給料以外の実益を兼ねたバイトがあればイイんだけど、コレといって付加価値のあるバイトが見付からないまま、サイトのページだけを捲る。
どうせなら、スタジオに近い場所で働けば交通費が浮くんじゃないかと思い、サクラさんのバイト先である大田区に限定して探すコトにした。
「ウチってば天才じゃん!!」
思いがけない閃きに、ついつい独り言で自分を讃えてしまう。
とりあえず接客と事務を除いて、時間の融通が利く一番時給の良い仕事を選んで、エントリーボタンをタップした。
まぁ一発目で決まるとも思えないけど、何もしないよりはマシだろうと、そのままスマートフォンの画面を閉じる。
「あー、サクラに相談なんだけどさ……アタシもマキも新しい楽器買おうと思ってて、何がイイか迷ってんだよね?」
練習が終わり、スタジオの狭いロビーで雑談をしている時に、ミチヨさんが唐突に切り出した。
「おー、イイじゃん!! 楽器が新しくなるとテンション上がるよね? まぁ最初は好きなアーティストと同じモデル買ったりするけど……二人が一番尊敬してるのって誰?」
ミチヨさんもマキさんも、しばらく腕組みをして考えていたが、そんな二人の姿を見て、自分には憧れているミュージシャンはジャニス・ジョプリンぐらいしか居ないコトに気付いた。
「あー、アタシFleaだわ! レッチリのベーシスト!!」
「んー、ボクはキャラクターで言ったらアンガス・ヤングかなぁ? AC/DCの」
ミチヨさんが言ったバンドは、前にエリカの留学先であるカリフォルニア出身アーティストの話をしてた時に挙がった、正式名称のRed Hot Chili Peppersの略称を、ウチが『ホッチリ』だと勘違いしてたヤツだ。
マキさんの言ってるバンドは知らないけど、一体どんなバンドでどんなギタリストなんだろう?
「あー、二人とも好きそうだね! Fleaが弾いてるのってミュージックマンだっけ? アンガス・ヤングは半ズボンでSG弾いてるよね!」
名前を聞いて、パッと思い付くサクラさんも凄いと思い、ウチも色々と音楽聴いたりしなきゃなと痛感させられた。
「そういう選び方もアリか……アタシ、無難にFenderのジャズベースにしようと思ってたけど、スティングレイもイイなぁ」
「ボクも無難なトコでレスポール検討してたけど、個人的にSGのカタチの方が好きかも!」
形式の話をされていても、何がどんな形状の楽器なのか見当もつかない。
「っつって、あとは財布と相談だよなぁ……Fenderならピンキリだけど、スティングレイって新品で20万円オーバーだよね? 厳しー!!」
「ボクもSGならギブソンのが欲しいけど、オーソドックスなチェリーレッドじゃない色にしたいから……値段高そうだなぁ」
二人とも目当ての楽器は決まったようだけど、今度は金額的な悩みが浮上した様子だった。
素人目には、いま使ってる楽器で問題無さそうに見えるけど、ギターやベースは値段でそんなにも差が出るモノなのだろうか?
「そういやアズサは? ギター買う予定なんでしょ?」
「う、ウチっスか? いや、正直どんなのにするか全然考えてなかった! ってかバイトもまだ決まっ……」
言いかけたところで、ポケットの中のスマートフォンが小さく揺れた。
エントリーしていたバイトの連絡だったようで、届いたメールを開くと履歴書持参で登録に来いという内容だった。
「あ……なんかバイト決まったみたい。面接とかじゃなくて、登録してシフト入れる倉庫系のヤツ。勤務地この辺だから、スタジオ入りやすいかと思って」
「お、コレでアズサもギター購入に一歩近付いたワケか! 近所で働くなら、私のアパートの合鍵渡しておくよ? スタジオまで微妙に時間空いたらヒマ潰すの面倒でしょ?」
サクラさんの急な提案が、一瞬何を言っているのかわからなかったけど、合鍵を渡されるってコトは勝手に部屋に入ってイイってコト?
「え! 合鍵っスか? そんなのウチに渡して……大丈夫っスかね?」
「アハハ! 別に取られるようなモノなんて無いから大丈夫だよ。家にあるCD勝手に聴いてイイから、時間潰しで色んなバンド聴いときなよ!」
信頼してくれるのは嬉しいけど、誰かが勝手に家に入るコトが不安じゃないんだろうか?
「そんなに悩まなくても、アタシもマキも合鍵渡されてるからね? アズサがサクラの特別じゃなくてゴメンなぁ~?」
ミチヨさんがケタケタ笑いながら、腰に付けたカラビナをジャラジャラさせている。
「そうそう。練習の度に私のバイト先までみんなに来てもらうの申し訳ないし、遅くなったら泊まってもイイから……って、まぁそんなに広い家じゃないけどね?」
「んじゃこの後、案内がてらサクラの家で一杯やりますか! 未成年はジュースだけど♪」
最後に友達の家に行ったのはいつだったか……と、記憶を辿っている間に、何故だか急に緊張してきて手のひらの汗を握り締めた。




