奇跡を望むなら…/JUJU
「あ、もしもしエリカ? 元気だった?」
高校を無事に卒業して、エリカは大学でキクチは専門に入学と、各々別々の進路に進んでいた。
ここからこの話でスポットの当たる、未来の歌姫ことウチはと言えば、ネットのメン募で知り合った女の子達とバンドを組んだところである。
「うん。元気だけど……卒業式から1ヵ月ぐらいしか経ってないじゃない」
「アハハ! まぁそうなんだけどね? 新しい生活にも慣れたかなと思って」
電話をしたのは、高校三年生の後半から転校してきたエリカに、大学で友達が出来たのか心配だったというのが一番の理由だった。
「こっちは入学式が終わって、授業の履修登録したぐらいかな? 高校で同じクラスだったコも学部に居るから、そんなに不安じゃないけど……キャンパスが遠過ぎる!」
高校は、大学付属の都心の学校だったが、1年生は分校に通わなくてはならないらしい。
「そんなに遠いんだ? 通学時間てどのくらい掛かんの?」
「大学の最寄駅から上手くバスに乗れれば……2時間半」
ちょっとした小旅行ぐらいの通学時間である。往復5時間は無駄としか言いようが無い。
「学校の近くで一人暮らしも考えたんだけどね? 父親の承諾が得られなくて」
家賃と定期代とを天秤に掛けても、そこまで大差が無さそうではあるが、たったの1年ぐらい我慢しろと言われたのだそうだ。
「ところでアズサはどう? バンドのメンバーと会ったんでしょ?」
「そう! みんな年上でさ。ウチ一人っ子だけど、急にお姉ちゃんが三人も出来たみたいな感覚」
ネット上でのメッセージのやり取りはあったが、先週初めて全員が集まってファミレスでミーティングをしたのだ。
「そっか。イイ人そうで良かったね! アズサはヴォーカルなんでしょ?」
「うん。ドラムのサクラさんて人がリーダーで、ギターのマキさんとベースのミチヨさんは高校の同級生なんだって! ウチらみたいに軽音部だったらしいんだけど、部員が二人しか居なくてバンドは初心者だから、ちょっと安心したよ」
スタジオ練習はしていないが、お互いの好きなバンドやミュージシャンの話を、ファミレスで4時間も熱く語ったコトを報告すると、エリカは電話口でケラケラと笑った。
「あ、そうだ! エリカに言わなきゃいけないコトがあったんだ……」
「え? 何か良くない話?」
くだらない近況報告から一転して、少し真面目なトーンで切り出すと、受話器越しにエリカが身構えているのが伝わって来た。
「あのね? バンド名のコトなんだけど……サクラさんはいくつかバンドやってて、音源とか出してたコトもあるから名前は使えないし、マキさんとミチヨさんは二人だけだったからそもそも名前が無くて……仮のバンド名がJESSICAになっちゃったんだよね?」
「それって文化祭でアズサが適当に付けた名前じゃない! グランマの名前だけど、誰も知らないから……まぁイイんじゃない?」
エリカは苦笑しながらも、渋々といった感じで承諾してくれたようだ。
「なんかゴメン……あと、たぶん曲作ったら英語の歌詞になりそうだから、その時は相談乗ってね?」
「はいはいわかったわ。ヒマな通学時間にでも添削してあげる! じゃあ授業行ってくるね?」
「はーい! 頑張ってね」
お互い別々の道に進んだけど、いつまでも仲良くしてくれたらイイなぁ。
きっとウチは、何か困ったコトがあったら、今後もエリカに相談するんだろうなと思った。
「んじゃ、軽く合わせてみようか?」
エリカとの電話から10日ほど経ち、ウチは初めて音楽スタジオの真ん中でマイクを握っていた。
「アタシらジャニス・ジョプリンは知ってるけど、コピーすんの初めてだわ」
バンドどころか音楽を聴くコトさえ初心者のウチに、お姉さま方三人が合わせてくれたので、オリジナル曲が出来るまではウチが歌える曲を演奏するコトになった。
「ぃよし! いつでも大丈夫っス!!」
メンバー募集時に『初心者歓迎』と記載はあったけど、初めてのスタジオでガッカリされないように気合を入れる。
サクラさんがスティックでカウントを叩くと、三人が一斉に音を放った。
文化祭でエリカのピアノで歌った時も、音楽室でキクチと三人で演奏した時にも感じなかった迫力に圧倒されて歌を忘れ掛ける。
さっき『軽く合わせる』って言ってたけど、コレって音を武器にした殴り合いじゃん!
ドラムとベースの演奏が入るだけで、こんなにもリズムが安定するんだと思ったけど、逆に逃げ場を与えられないように歌メロというリングまで誘導されているようにも感じた。
飲まれたら負けると思い、勢いよく歌い出すと、空回りして声が上ずった。
心配になってメンバーを見回すと、笑いながら頷いてたので、少し落ち着きを取り戻して続きを歌う。
スポーツだったら先輩達に胸を借りるようなモノだろうと、そこからは全力でぶつかる気持ちで声を張り上げた。
三人の演奏に乗せて歌っていると、言いようのない感動が押し寄せてくる。
キクチは高校の三年間、軽音部で何度もこんな気持ちになったのだろうか?
そりゃあ卒業してからも続けるだろうなと、歌いながら納得してしまった。
間奏のギターソロも、キクチが弾いたソレとは感じが違ったけれど、ドラムとベースが一緒に鳴っているというだけで本物っぽくて、この後も歌うパートが残っているのに聴き入ってしまうほどだった。
最後のサビを歌い切ってもなお、後奏で鳴り続ける三人の演奏が格好良くて、いつまでも聴いていたいと思いながら曲の終わりを迎えた。
「アズサちゃんヤルねぇ! 初心者って言ってたけど発音もリズムもイイし、結構歌えるじゃん!!」
サクラさんが、持っているスティックでカチカチと拍手しながら褒めてくれたのを聞いて、安心して腰から砕けそうになりマイクスタンドにもたれ掛かる。
「やっぱドラムもヴォーカルも居るってイイね! ボク、チョー楽しかったよ」
「くぅぅぅ……やっとバンドで音が出せた! これからアタシ達の伝説が始まっちゃうんじゃないの?」
「1曲コピー演っただけで大袈裟だなぁ……まぁ私も含めてまだまだ練習しなきゃなんないけどね?」
テンションが高いのはウチだけじゃなかったみたいで、演奏を終えたスタジオ内は大いに盛り上がっていた。
でも、この人達と一緒なら、何かを成し遂げるのも不可能ではないんじゃないかという気持ちになった。
エリカやキクチと知り合えたコトが奇跡だと思ってたけど、自分から行動を起こせば、ホントはチャンスなんていくらでも転がってるのかもしれない。
ギリギリまで悩んで新章というカタチを取りました。
主人公が変わるので、読んでて困惑してしまわないか心配ですが、ここからはアズサ視点の物語でございます♪




