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みそギ!~三十路で始めるギター教室~  作者: ボラ塚鬼丸
Bonus track2~Californication編
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BYE-BYE-BYE/GO-BANG'S

「弾き始めって3弦4フレのチョーキングでイイんだよな?」


 いつもはエフェクターを使って、メタリックな音色をさせているキクチのギターは、アンプの歪みだけを調整して、60年代ロックっぽい音を鳴らしていた。


「ウチ、いきなりF#mだから押さえるだけで大変なんだよね」


 アズサは小さな手指で、ガットギターの太いネックを一生懸命握り込んでいる。


「セノー、ちょっとそのギター片付けて、隣の部屋にある一番大きいソフトケース持ってきて」


 キクチに言われるまま、アズサは小首を傾げながら準備室からギターのソフトケースを引っ張り出してきた。


「それ、ちょっと前にアタシが後輩に売ってやったエレアコ。コード押さえられなくてカスカスの音出されると邪魔だから、セノー、そっち弾いてイイよ」


「マジで? やった!!」


 アズサは喜び勇んでギターを取り出して、その場で弾き始める。


「弾ける! 弾けるぞぉぉぉ!!」


 ガットギターよりネックが細いので、コードも押さえやすくアズサもご機嫌で掻き鳴らす。


「エレアコなんだからアンプ通せよ」


 キクチは、一度は巻き直して壁のフックに掛けたシールドを、アズサに手渡して、部屋の隅に置いてあるアンプを顎で差し示した。


 ガットギターではなくエレアコを貸してもらえる上に、アンプまで使わせてくれるという大盤振る舞いに戸惑いながらも、シールドをジャックに差し込んでギターと繋ぐ。


「うぉぉ! 形あんまり変わらないのに、ガットギターより全っ然楽に音出るじゃん!!」


 アズサは嬉しそうに、苦手なバレーコードをいくつも鳴らしている。


「あ、セノー、二番アタシに歌わせてね? だからギターしっかり弾けよコノヤロー! んじゃやるか……ハネザーのタイミングでカウント始めてイイよ」


「うん……なんか緊張するなぁ」


 文化祭では自分のピアノにアズサが歌を乗せるだけだったけど、今はキクチもアズサもギターを弾くし、二人とも歌うとなると下手な演奏は出来ない。


「エリカ、気楽に行こう♪ たぶんウチも確実に間違えるから」


「うるせぇ! お前はちゃんと弾け!!」


 相変わらずの口喧嘩にホッとして、緊張がやや解れたので、両手をブンブン振ってグーパーを繰り返し深呼吸。


「じゃあ、いくね? ……ワン、トゥ、スリー、フォー」


 二人と交互に目を合わせながら、4つ目のカウントで身体ごと鍵盤を叩くと、一人で出す音より何倍も迫力のあるイントロが鳴った。


 手を止めるワケにもいかないので、驚いて顔を上げるとアズサもビックリしながらコード弾きを続けていた。


 リズム隊は居ないが、ブルースっぽい雰囲気のあるキクチの単音弾きが入るだけで、曲が一気にそれらしくなるって凄い!


 などと感動している間に、歌い出し直前でギターだけになるパートに差し掛かると、アズサもハッとして大きく息を吸い込む。


「Come On! Come On!」


 ピアノを打楽器のように弾いて、アズサの歌を盛り上げる。


 自分でギターを弾きながら歌うのに慣れていないのか、頭のコードだけ鳴らして、何とか弾き語りのテイを保っているが、アズサは楽しそうだった。


 もうすっかり自分の歌だとばかりに一番を歌い切ると、アズサはドヤった顔でキクチにバトンタッチしてギターに専念する。


 二番に入るとすぐにキクチがAメロを、アズサと違ってややハスキーな声で歌い出した。


 歌い手が違うだけで、こんなにも印象が変わるモノかと思いながら、リズムが崩れないようにピアノを弾き続ける。


 サビ前にキクチは足を踏み鳴らして『Come On!』と4回叫ぶと、アズサがコーラスを入れる。


 二人が協力して歌い上げる『Piece Of My Heart』が、ここまで格好良くなるのだと感動して、全身に鳥肌を立てながら鍵盤を叩いた。


 サビが終わるとキクチはギターソロを弾き、アズサがそれをサポートするようにコードを弾いている。


 普段は口喧嘩ばかりなのに、こんな時だけは呼吸がピッタリなのはズルいなぁ……


 お互いに顔を見合わせて笑っているけど、ソロが明けたら最後のサビを繰り返して、曲が終わってしまうのが寂しくて堪らない。


 それを知ってか知らずか、二人は示し合わせたようにサビを交互に歌う。


 アンプを通したギターの音に負けない程の声量で、叫ぶように掛け合い、歌が終わるとイントロのギターソロに戻った。

 

 これで高校生活最後の演奏が終わってしまうと思ったら、涙で鍵盤が滲んだ。


 曲のエンディングで、名残惜しそうにギターのフィードバックが鳴り止むと、音楽室の入り口から拍手が聞こえた。


 気付くと開かれたドアに下級生達がビッシリ張り付いて、私達の演奏を観ている。


「あれ? もしかして教室使う?」


 誰にというワケでもなく、キクチが一団に向かって声を掛けた。


「あ! は、はい。次、2年の選択授業なんですけど……」


「ゴメン! すぐ片付けるから」


 演奏の余韻に浸る間もなく、急いでアンプの電源を落とし、シールドを雑にまとめて部屋を出る準備をしていると、一人の生徒が駆け寄って来た。


「あ、あの……皆さん軽音部の先輩ですよね? 文化祭も観てました! 今の演奏も凄い格好良かったです!!」


 思いがけない申し出に、私達は三人で顔を見合わせて笑った。


「いやぁ君達はラッキーだね! フェアリーテイル先輩の引退ライブが観られたんだから」


「お前なぁ……せっかく上手くいったから褒めてやろうと思ってたのに!」


 やはり湿っぽい最後は私達には似合わないようだ。


「じゃあ後輩諸君! アタシらみたいに青春を謳歌したまえ。アデュー♪」


 キクチが男前な挨拶で部屋を出ると、教室内は黄色い悲鳴が轟いた。


「あー、終わっちゃったね」


 廊下を歩きながらアズサが溜め息混じりに呟くが、何て返して良いかわからず、三人とも黙ったまま昇降口まで来てしまった。


「ハネザーは続けんの? 音楽」


 沈黙を破ったのはキクチの問い掛けだったが、私は彼女の期待に応えられる回答を持ち合わせていない。


「たぶん、続けられない……かな?」


 キクチはふぅんと頷いただけで、それ以上は何も訊いてこなかった。


「ウチは続けるよ! ホントはさ、チア辞めて腐ってたから、誰か適当な人と一緒に適当な部活入って、放課後に遊び回ってやろうと思ってたんだけど……たまたま誘ったのがエリカで良かったよ」


 危うくダメな方向に進まされそうになったコトを、アズサの告白によって知った私は、思わず吹き出してしまった。


「アハハハ! 元々そんな理由で私に声掛けたんだ? アズサの思い通りにならなくて良かった」


「うん。ウチも良かったと思ってる。キクチもありがとう! 二人に出会えたお陰でやりたいコトが見つかったよ。ケガして終わったと思ってた高校生活が、最後に報われた気がしたから」


 いつもふざけているアズサが、急に真面目なコトを言うので、私も何か言わなきゃと思いを巡らせる。


「あ、そうだ! あのさ、ヘンリーロリンズってミュージシャン知ってる?」


 アズサは首を横に振っているが、キクチはこちらに意識を向けた。


「ヘンリーロリンズってBLACK(ブラック)FLAG(フラッグ)の?」


「そうそう! あのゴツい人!! あの人って、ツアー先で知り合った人と、誰とも仲良くならないんだって」


 話の着地点がわからず、二人とも不思議そうな顔をして私を見つめている。


「その理由がね、別れる時に寂しくなるからってコトらしいんだけど、私も前はその気持ち、凄いよく解ったんだけど……今は、二人と出会えて……仲良くなれて……本当に良かったと思ってる……寂しいから、誰かと仲良くならないなんて……ホント……もったいないよね?」


 話してる内に、自分の意思とは無関係に両目からボロボロと涙が溢れ落ちる。


 それに気付いて小さな身体で目一杯背伸びをして、私の頭を撫でてくれたアズサの目も、涙で潤んでいた。


 キクチは顔が見えないように、早歩きで私達を追い抜き、黙って上を向いていた。


「エリカもキクチも、ウチのライブ観に来てね?」


 余計なコトを言って泣いてしまわないように、アズサが大きな声でそう言うと、キクチは後ろ姿で溜め息をついて振り返る。


「お前のバンドより確実に先に売れてやるから覚悟しとけよ!」


「おー! 大きく出たね? フェアリーテイル先輩」


 キクチはツカツカとアズサに詰め寄り、人差し指でおでこを突っついた。


「そのバンド名はもう後輩に譲ったんだよ! 新しいバンドはequal(イコール) romance(ロマンス)だから、ちゃんと覚えとけ!!」


「くぁぁ~またゴツいナリしてそういう名前付けるぅ~」


 最後の最後まで二人が口喧嘩してるのは、きっと寂しさを紛らわしているのだろうと思った。



 こうして、私とアズサとキクチの高校生活は幕を閉じた。

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