Rock'n'Roll High School/Ramones
幕が上がり、演者の足元から徐々にステージが見えてくると、客席の最前列から歓声が飛ぶ。
意外にもキクチのバンドは、左右に弦楽器と中央にドラムセットが位置する3ピースの編成だった。
キクチが黒ジャージにスカートなのは知っていたが、ベースもドラムも黒ずくめで、衣装を合わせているところにも拘りがありそうだ。
「へぇー3人だけなんだ? キクチの人望の薄さを物語ってるみたいだね?」
アズサが耳打ちでキクチを貶める発言をしたので、苦笑いを返す。
「えー、軽音部のライブにお越しいただいてありがとうございます。最後までお付き合いください。Fairy Tale始めます!」
歓声が鳴り止まないウチに、舞台向かって右側の、上手に居るキクチが一言発すると、黒いポールリードスミスを掻き鳴らして轟音が会場に響き渡る。
尖ったギターの音色で、印象的なリフから始まったのは、Black Sabbathの『Paranoid』だった。
グランマの影響でアメリカのロックは聴き込んでいたが、ブリティッシュロックは娘のスーザンが聴かせてくれていたので、ある程度は知っていた。
確かに3ピースでも演奏出来そうな曲なので、無理は無さそうであるが、女子高でBlack Sabbathなんてウケるのだろうか……と、思っていたら、最前列の取り巻き達は、頭をブンブンと振っている。
ココは一体、どんなカルチャーが流行っている学校なのかしら……
ギターを弾きながら歌うのはなかなか難しそうだが、この曲はリフこそ音数が多いものの、歌メロに入ればヴォーカルのメロディとユニゾンなので、そこまで難易度は高くないのだろう。
『オジーオズボーンは歌が上手くないから好きじゃない』
スーザンに聴かせてもらっていた時、グランマがそう言っていたのを思い出した。
※個人の感想です。
キクチの歌を聴いていて思ったのは、歌唱力よりも勢いで押し通せる選曲なのかもしれないというコトだった。
疾走感があるので、3分ほどの楽曲はあっという間にエンディングを迎えた。
曲が終わり、かぶり付きの取り巻きが拍手と歓声で応えると、連れて会場全体からも拍手が飛び交う。
「Black Sabbathの『Paranoid』でした」
キクチがボソりと曲名を告げると、間髪入れずにドラムのカウントが鳴る。
おどろおどろしいリフが鳴り、始まった2曲目は、King Crimsonの『21st Century Schizoid Man (21世紀の精神異常者)』だ。
ホントに女子高のライブなのだろうか? と改めて会場全体を見回してしまうほど『らしくない』選曲に戸惑ってしまう。
イントロが終わる直前に、キクチが足元のエフェクターを踏み、マイクに向かって叫ぶと、歪んだ歌声が響く。
最小限の演奏に、エフェクトの掛かったヴォーカルが乗ったAメロは、ブレイクと共にイントロのリフに戻り、メンバーの息がピッタリと合ったユニゾンで進む。
何度も言うが、コレ、ホントに女子高の文化祭なの?
「この曲、テレビで聴いたコトあるけどチョー格好イイね! 誰の曲?」
アズサが目を輝かせて耳打ちしてきたので、曲名を教えてあげた。
「世界には、ウチが知らない歌がいっぱいあるんだねー?」
関心したかと思ったら、アズサは再びステージに釘付けになった。
客ウケを狙ったJ-POPでも流行りのロックでもなく、ウッドストックと同年代にリリースされた、イギリスのプログレッシブロックで盛り上がる目の前の光景が不思議で、私もアズサと同じように、言葉を失ったままステージに集中していた。
歌を聴かせる曲ではなく、演奏の凄さを見せ付けるような楽曲は、曲芸のように3人のシンクロ率を高めて突き進む。
全編が各パートのソロの如く、時には対話をするような演奏を繰り返し、曲は再びイントロに戻る。
メロディラインがあるようで無いような歌メロを、歪んだヴォーカルマイクでキクチが叫び、7分近い複雑な構成の曲が終わると、会場は拍手と歓声に包まれた。
メンバー編成が、3ピースであるコトを忘れさせるほど技術的には優れており、高校生のコピーバンドにしては選曲が渋すぎるという印象だ。
キクチの趣味なのか、アメリカではなくイギリス寄りの古いロックが好きなのだろう。
「King Crimsonの『21st Century Schizoid Man (21世紀の精神異常者)』でした……次が最後の曲Motorheadの『Ace Of Spades』です。ガンガン盛り上がっちゃってください!!」
最後の曲と聞いて、客席から不満の声が上がったが、キクチが構わずジャキジャキとギターを刻み始めると、ドラムがロールで合流し、一気に曲が突っ走る。
スーザンから教えてもらった話では、SKID ROWのヴォーカルであるセバスチャンバックは、ライブ前にテンションを上げるため必ずこの曲を聴いていたのだそうだ。
プロのハードロックミュージシャンが盛り上がるぐらいなのだから、普段淑女として生活している女子生徒達も、否応なしにテンションが上がってしまい、客席の前方だけでなく、会場の至るところで飛び跳ねている様子が伺えた。
ホント何回も言うけど、日本の女子高の文化祭ってコレで合ってる?
「くぁ~! この曲も格好イイ!! キクチって人望は無いけどギター上手いんだね?」
例外無く、隣で観てるアズサも興奮している様子だった。
テンポの速い曲なので、誤魔化そうと思えばいくらでも手抜きが出来そうなモノだが、ヴォーカルが抜けるところもギターソロも、バシバシと決めどころを合わせられるバンドの技術が凄い。
「以上で軽音部のライブは終了です。ありがとうございました!」
休む間もなく全力疾走で駆け抜けたキクチ達のライブは、3曲でトータル15分ほどで終了した。
「バンドのライブって初めて観たけどスゲー!! まだ耳がキーンってなってる!」
アズサが興奮冷めやらぬ感じで、ピョンピョン跳ねながらMotörheadを適当な英語で歌って体育館の出口まで進む。
言われて気付いたけれど、アマチュアのコピーバンドとは言え、私もライブなんて初めてだった。
「キクチのトコ行こう!」
体育館をぐるりと回り込み、裏手の搬入口に向かうと、既にキクチの周りには後輩と思われる人だかりが出来ていた。
「おーい! フェアリーテイル先輩!! お疲れさん♪」
アズサが大声でキクチに向かって叫ぶと、悪口に敏感なのか、すぐにコチラに気付いた。
「うるせぇよセノー! 部長様の実力を思い知ったかコノヤロー!!」
「おー! 凄かったよ!! チョー格好良かった! ……けど、歌はウチの方が上手くない?」
アズサが屈託の無い笑顔でそう言うと、見る見るウチにキクチの顔色が変わっていくのがわかった。
「はぁ? アタシの方が上手いから! っつーかアタシ、ギター弾きながら歌ってるから!」
「んじゃキクチはギターに専念して、ウチのコト、ヴォーカルで入れてよ?」
「いや、お前みたいなハツラツとしたヤツなんて入れねぇから! まぁ土下座して入れてくださいって言うなら考えてやってもイイけど?」
またもや子どもの口喧嘩が繰り広げられており、キクチ目当てで出待ちしている後輩が不憫でならない。
そんなどさくさに紛れて、売り言葉に買い言葉で土下座しようとしているアズサを無理矢理立たせる。
「あー、あのさ、セノーってそんなに英語得意じゃないよな? あんなにキッチリ英詞で歌えてたのって……やっぱハネザーの指導ってヤツ?」
「ん? 英語は中間23点だったけど、エリカに教わったから歌えた……ってのもあるけど、まぁ、歌はウチの実力なんじゃない?」
アズサがニヤニヤとしながらマウントを取るが、キクチは何やら言い淀んでいる様子だ。
「英語の発音ぐらいなら教えましょうか?」
部長のプライドもあるだろうと思い、こちらから助け船を出すとキクチの顔が明るくなった。
「えー? エリカはウチの相棒なのに? じゃあ、キクチはウチとエリカにギター教えてよ?」
「え? 私も教わるの?」
軽音部に入ったからには、ある程度の活動は必要だとは思うけど、一からギターを教わるって……私も一応受験生なのだけれど?
文化祭が終わっても、アズサからはしばらく解放されなさそうである。




