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みそギ!~三十路で始めるギター教室~  作者: ボラ塚鬼丸
Bonus track2~Californication編
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California Dreamin'/The Mamas And Papas

 執事喫茶の接客が一段落したので、朝と同様に大きな布で仕切られたバックヤードでタキシードから制服に着替え直した。


 首から下は女子高生だが、バリッとしたメイクと、グリースでセットされた髪はそのままだったので、タオルを借りて二人で廊下の流し台に移動して、並んで髪を洗う。


 滴り落ちた水滴でメイクが溶けて、途中でお互いジョーカーのような顔になりながら、ゲラゲラと笑ってタオルで髪を乾かしながら教室に戻った。


「アハハ! やっぱそういう顔になるよねー。いま落とすからソコ座って?」


 メイクを施してくれた担当のコが、ポーチから取り出したリムーバーをコットンに染み込ませ、しばらく目元に宛がったそれを拭き取ると、スルリとアイメイクが落ちる。


 アズサも同様の手順でメイク落としをしてもらい、二人ともくたびれたジョーカーから普通の女子高生に戻るコトが出来た。


「衣装だけじゃなくて、メイクまでしてくれてありがとうございました! お陰でライブも何とか成功しました」


 アズサのクラスメイトなのに、よく知らない転校生の私にまで優しくしてくれたのが嬉しくて、深々と頭を下げる。


「いやいや、こっちも助かったよ! お客さんいっぱい来てくれたし、手伝ってもらっちゃってホントありがとうね?」


 生まれて初めて同級生と対等な立場になれた気がした。


「んじゃ軽音部のライブ戻ろっか!」


 すっかり元通りになったアズサに促されて、教室を出たが、どうしても自分の教室が気になって廊下から中を覗き込む。


 地味な工作物や習字の展示だけだと思っていたら、黒板のチョークアートや顔出しパネルなどのフォトスポットに人が群がっていた。


 順番待ちの行列を整理するため、数人の生徒が右往左往しており、明らかに人手が足りていない様子である。


「アズサ……ゴメン、ちょっとだけ自分のクラスの手伝いして来てもイイかな? さすがに他のクラス手伝ったのに、自分のクラスは無視するっていうのは申し訳なくて……」


 体育館に直行しようとしていたアズサに声を掛けると、数歩下がって私のクラスの教室の前まで戻ってきた。


「イイよ! ウチのクラスもエリカに手伝ってもらったから、一緒に行こ!!」


 アズサは、私の背中を両手で突いて教室に押し込んだ。


「あ、あの……お疲れ様。私でも手伝えるコトがあったら、みんなの役に立ちたいんだけど……」


 急に追いやられたので、入り口で受付をしているクラスメイトに、ややキョドりながら話し掛けるハメになってしまった。


「あれ? 羽根澤さんて当番免除じゃなかったっけ? ……でもお願い出来るなら、お客さんのカメラとかスマホで撮影してくれると嬉しい」


「うん、わかった」


 特に列が伸びているフォトスポットへ、アズサと二人で撮影補助に向かう。


 さっきまで撮られる側だったのに、今度は人の写真を撮りまくっているのが不思議で可笑しかった。


 アズサと二人でどっちがお客さんかわからなくなるほど、はしゃぎながら写真撮影をしていると、交代要員のクラスメイトが到着して、無事にお役御免となった。


 当番でもないのに、他クラスの生徒と一緒に手伝いに来たコトを、こちらが申し訳なくなるぐらいに感謝してくれたので、ペコペコと頭を下げながら教室を後にした。


「何かさ……こんなに『文化祭に参加してる』って思えるの初めてかも」


 体育館に向かう途中、廊下に並んだ教室を覗いたり、校庭に出ているテントの出店を眺めたりしながら、アズサがしみじみと呟いた。


 言われてみれば、私も中学校では消極的だったし、高校から留学したので文化祭は実質初めてなのだ。


「私も初めてだなぁ。ライブ観たり出店回ったりしてると、文化祭ってフェスっぽいのね?」


「あ、確かに! いつか本物のフェス、出たいね!!」


 何の迷いも無く『出たい』と言ったアズサに驚いてしまった。


「行くんじゃなくて出演するってコト?」


「うん! それも、どうせなら日本のフェスじゃなくてエリカが留学してたアメリカのがイイなぁ」


 さっき初めて人前で歌っただけなのに、もう海外でのフェスに参加するコトを目標にしているなんて、アズサは無謀なだけなのか大物なのかわからない人だ。


「ほら、ホームステイ先のお婆ちゃんにも、こんなに立派になりました! ってトコ見せてあげないと」


 家庭の都合で小さく纏まってしまっている自分と違い、自由な発想をするアズサが心底羨ましかった。


「そうね……でも、海外のフェスに参加するなら、アズサが英語話せるようにならなきゃね?」


「うぅ……勉強します」


 少し意地悪な返しをしてしまったのは、彼女が本気を出したら、夢を現実にしてしまうのではないか、という焦りを感じたからかもしれない。


「じゃ、キクチさんのトコ行こうか!」


 着替えやクラスの手伝いで、思っていた以上に時間が経過していたが、ライブのトリには十分間に合いそうだ。


 しかし、校舎を出て体育館に向かう途中、アズサが出店の誘惑に負けて、いくつも寄り道をしてくれたお陰で、会場に到着したのはキクチの出番の一つ前だった。


 体育館裏の搬入口では、既にキクチがギターとエフェクターを抱え、制服からいつも着ている黒いジャージに着替えて出番を待っている。


「あ、フェアリーテイル先輩! 出番って次でしょ?」


 開口一番アズサがキクチをおちょくった態度を取った。


「おぉ来たか。まぁ客席で観てろよ……アタシらもコレで最後の文化祭ライブだから」


 キクチはアズサの挑発に乗るコトなく、ライブに向けた緊張を保っており、近寄りがたい空気を放っていたので大人しく入口から客席に回った。


 ステージでは、軽音部の後輩と思しきバンドが大音量でJ-POPのコピーを演奏をしていた。


 自分たちが演奏をした時には気付かなかったが、客席は思った以上に広く、午前中には居なかった女子生徒の一団が、乗るでもなく演奏に耳を傾けるでもなく前方に陣取っているのが見える。


「アレ、たぶん全部キクチの追っかけだよ? 最前にあんなの居たらやりづらいだろうね……」


 演奏に掻き消されないよう、アズサが耳打ちしてくれた。


 確かにこんな空気感では、素人同然の私達はさっきのようなパフォーマンスが出来たかどうか疑問である。


 そんなコトを考えているうちに、ステージの演奏が終わったようで転換に入った。


 舞台の緞帳(どんちょう)が下りてくると、前方の集団がソワソワし始めたので、裏では恐らく入れ替わりでキクチ達が準備を始めているであろうコトがわかる。


 時折サウンドチェックで、尖ったギターやドラムを叩く音が聞こえてきたが、しばらくすると静寂が会場を包み込み、ゆっくりと緞帳が上がっていった。

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