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拝啓、スウィンク兄様、ヴァルジット兄様
お元気ですか?
兄様達と会えないのは寂しいですが、私は元気に過ごしています。
この手紙を兄様達に届ける事は出来ませんが、せっかくなので近況報告をしようと思います。
いつかお2人とお会いして、全てを話せるようになれば、これを渡したいです。
私が王宮を離れ、早くも1年半が過ぎました。
私は今、対魔物殲滅組織ユニバースという組織でお世話になっています。
事の発端は、アレックス・ホーリングという男性に拾ってもらった事から始まります。アレス(こう呼んで良いと言ってもらいました)は、街へ出た私が偶然魔物に襲われているところを助けてくれたのです。出会いはその前日の夜からでしたが、とにかく、何を思ったのか、親から要らないと言われた私を養子に迎え入れてくれたのです。私の事は男の子だと勘違いして、名前を名乗らなかった事もあり、新しく“ナル”という名前をつけてもらいました。
もちろん、兄様達から貰った名前が気に入らなかった訳ではありません。ラティアという名前も大好きです!
そして私は、アレスの所属する対魔物殲滅組織ユニバースの一員として迎え入れてもらいました。
対魔物殲滅組織ユニバースは、名前の通り人類が魔物に対抗し、倒す為に出来た初めての組織だそうです。
初めは研究が主だったらしいのですが、ゲート(ここでは“窓”や“扉”の事をそう呼ぶみたいです)が最近頻繁に出現するようになり、悪い予感がしたマスターが戦力の増強を目的に隊を作る事にしたんだそう。何かあってからでは遅いですもんね。
という事で、次の日からアレスや他の隊長達による厳しい訓練の日々が始まりました。
──正直、死ぬかと思いました。
初めの頃は、剣を腰に挿したままひたすら走り、剣の基本的な型の練習や体力をつける為の訓練。そして、アレスの攻撃を避けたり、ひたすら打ち込む日々。
さらにはBランクモンスターの前にいきなり放り出される始末。
少し余裕が出てきたと思えば、すぐさま魔法で作られた重りを増やされるので疲れない日はありません。
その合間には5番隊隊長であるヴァンさんから、魔物に関する知識や一般常識などの講義を受け──いえ、叩き込まれます。
知っていましたか?魔物の強さは7段階に分けられているんです。
下級下位が1番弱く、そこから下級中位、下級上位、中級下位、中級中位、中級上位、そして上級とだんだん強くなります。
見分け方としては、見た目に人間のパーツが入っているかいないかで判断するそうです。
下級下位はモンスターが混じり合ったような見た目。下級中位は人間のパーツが1つ入っていて、下級上位は見た目に人間のパーツが2つ以上入ってる魔物の事。人間のパーツが1つから2つ以上に増えるだけで段違いの強さを持っている事からこう分けられたみたいです。ちなみに、2つ以上ではあまり強さは変わらないらしいです。
私はまだ下級中位までの魔物としか戦った事がないので、よく分かっていませんが。
下級下位の魔物はモンスターで言うと、大体Cランク相当の強さらしいです。
中級以上の魔物になると人間に近い見た目になってくるという事ですが、ここからはまた今度詳しく習う事になってます。
今ではもう慣れましたが、初心者である私をいきなりBランクモンスターの目の前に放り出されて、戦えと言われたり、ゲートが開きそうだと聞けばそこへ連れてって、魔物の前に出され、戦えと言われるんです。
酷いと思いませんか!?
初めは魔物の殺気で辛うじて攻撃を避ける事しか出来なかった私も、今では下級中位一体なら、余裕を持って倒せるようになりました。
しかも、モンスターを倒すためにギルドに登録して、次々と依頼を受けているうちにCランクまで上がる事が出来たんです!
凄いでしょう!
こちらの世界にいるモンスターよりも強い存在である魔物。
魔物に対抗出来ない人々も多く、私達の存在はいずれ有名になるだろうとマスターは言ってました。
その時には、ユニバースの事も兄様達の耳に届くでしょう。
私、胸を張って兄様達の前に立てるように頑張りますね!
厳しい訓練を受けている内に、私は言葉遣いもだんだん荒く、本当の男の子のようになっているようです。
兄様達が今の私を見たら、どう思うのでしょう。
でも、ナルという名前をもらい、アレスの養子として、男として生きるのは、新しい人生を歩むようでとても楽しいです。
本当の両親である国王夫妻との親子関係はこのまま切れてしまっても何とも思いませんが、兄様達との関係は絶対に切りたくありません。アレスの養子になった今でも、兄様達は大切な私の兄弟だと思っています。
どうか、体に気をつけて、お元気でお過ごし下さい。
またお会いしましょう!
ラティア
* * *
薄く明かりが射し始めた窓の外を見やり、ナルはペンを置いてグッと伸びをした。
「さーて、朝の訓練にでも行くかなぁ」
アレスはギルドの依頼で数週間帰っておらず、今、部屋の中はナルただ1人である。
ここへ来てすぐに住む家として案内されたのは、ユニバース本部の真横に建っている宿舎であった。アレスと一緒に住む事になり、女である事がバレてしまうと焦ったナルであったが、アレスの部屋は意外に大きく、4部屋とバス・トイレ付きだったので、その内1部屋をナルに与えられ、バレる事無く今日まで過ごしてこれた。
素早く身支度を整え、宿舎を出た外の訓練場近くにある北門から外の森へ入る。
襲って来るモンスターを次々と剣で薙ぎ払いながら走るのも、もう慣れたものだった。
初めの頃は一回一回立ち止まり、慎重にモンスターと戦ってもやられてばかりで、血を見るのだってあまり好きじゃなかったのに。…慣れとは恐ろしいものだ。
「っん!食材はっけーん!」
食べられるモンスターを見つけ、急ブレーキをかける。くるりと体の向きを変え、一瞬で接近し、仕留めた。ゴトリ、と落ちた頭はそのままに、血抜きをする。
これを持って帰って、ユニバース内の料理長に渡せばきっと喜んでくれるだろう。
ギルドに併設されている食堂兼カフェではメニューが決まっているが、本部内にあるユニバースで働く者限定の食堂では、その日の食材の入りにもよるが、好きな料理を注文する事が出来る。
このモンスターなら大型だし、美味しいしで最高だ。後でシチューを注文しよう。
ここへ来て短く切った髪は、風に吹かれ軽く揺れる。髪の色は相変わらず茶髪で目は黒色だ。変身魔法を使った姿にもすっかり慣れ、この外見でも違和感が完全になくなっている。
朝の訓練は終わっていないが、取り敢えず先にこれを厨房に運んで朝食を食べてからにしようと、モンスターの胴の辺りに潜り込んだ。
「よいしょ、っと」
モンスターを担ぐと、前よりも背は伸びたにも関わらず周りからはナルの姿は完全に見えなくなり、モンスターの胴の部分が不自然に膨らんでいるように見える。
それが不自然に素早く動き出すから、はたから見れば足が動かない大きな蜘蛛が、胴体だけで動いているように見える。もしそこに人がいればあまりの気持ち悪さに悲鳴を上げていたはずだ。
「よう、チビ助。朝っぱらからデッカいの狩って来たなぁ」
「ギルティ隊長。おはようございます。これ、朝ご飯に丁度良いでしょう?」
ユニバースの建物内に入る為には北門から訓練場を通らねばならない。そこで声をかけられたのは、2番隊隊長で短髪、青髪青目のギルティ隊長だった。
大剣を持って訓練場に出てた彼は、今から朝練の時間らしい。
ちなみに彼には何度も訓練で森の中へ投げ入れられた。ただ剣を打ち合うという訓練だったにも関わらず、だ。その度、ナルはサバイバルしながら自力でここへ帰って来たものだ。ギルティ隊長にはいつか、やり返して見返してやるとナルは闘志を燃やしていた。
「ああ、後で注文させてもらうぞー。ありがとよ!」
朝食を食べ終わった後、いつもの朝練を終え、隊長から受ける訓練まではまだ時間があったので、先にギルドへ行って軽い依頼でも受けようかとギルドへ向かってる時だった。
ギルド内が少し騒がしいのにナルは気付いた。
ギルドの入り口の方に人だかりが出来てるのに気付いたナルはヒナに声をかける。
「おはよう、ヒナ。向こうに人だかりが出来てるけど…何かあったか知ってる?」
「おはようございます、ナル様。どうやらイーサン様やアレックス様方が帰って来られたようですよ」
「え!そうなんだ!ちょっと行ってくる!」
「ふふっ、行ってらっしゃいませ」
にっこり笑って手を振ってくれる彼女に手を振り返し、ローブのフードを深く被ってその人だかりへと入って行く。
まだ未成年という事もあり、マスターからギルドの依頼を受ける時や、任務の時は顔を隠すように言われていたからだ。
そして人々の中心にいる中に、黒髪で、少し困った様に笑っている青い目を見つけたナルは思わず叫んでしまった。
「アレス!」
すぐにこちらに気付いた彼はナルを見て一瞬驚いた顔をしたが、すぐに笑った。
「何だ、ナル。出迎えか?それとも、俺がいなくて寂しかったのか?」
「ち・が・う!たまたまここを通りかかったんだよ!」
「だが、俺を見つけてこっちへ来てくれたという事はそういう事だろう?」
そう言って、最早当たり前とばかりにナルを片腕で抱き上げる。
「ちょっ!下ろせって!歩けるから!」
「別に恥ずかしがらなくても良いじゃないか。まだ子供だろ」
「はぁっ!?こういう時だけ子供扱いすんのやめろって!ありえねぇし!」
「バカだなぁーお前は。こういう時だからこそ子供扱いすんだろ。訓練で甘やかしてちゃ、お前がダメになる」
「なら、今回は何で連れてってくれなかったんだよ?」
「そりゃあ、ややこしい案件だったからな。まだ子供のお前じゃ足手まといだ。それが嫌ならしっかり訓練して一人前になってみせるんだな」
今回はギルドの依頼だったらしいが、珍しい事にナルには情報を一切教えず、連れてってもくれなかったので、危険な仕事だったのではと内心ヒヤヒヤしながらもアレス達の帰りを大人しく待っていたのだ。
ムッとアレスを睨むが、心の奥底ではナルも分かってた。ある程度の危険なものならアレスは平気でナルをそこへ放り込むが、絶対に死ぬような危険な所へはやらないし、ナルには教えてくれない事もある。それはナルの為を思っての事であって、アレスがナルの事をそれだけ大事にしてくれている事も知ってた。
そして、どうしようもないくらいナル自身がアレスに懐いてしまっていた。だからナルも深くは追求出来ない。なので、今は歯を食いしばって訓練に耐えるのだ。将来、アレスが自分に頼ってくれるように。
訓練ではあり得ない程厳しいアレスだが、普段はナルに甘い。養子になったからというのもあるのだろうが、アレスはナルに対して決して遠慮をしてこない。だからかは分からないが、ナルも次第にアレスに心を開いていく事が出来たのだ。
あの時拾ってもらった事をナルは心の底から感謝していた。
下ろしてもらう事を諦めたナルは、アレスから視線をマスターへ向けた。
「お帰りなさい、マスター。──あれ、その子は…?」
ナルと同じくらいの歳だろうか。ナルと同じようにフードを深く被り、マスターに手を繋がれたその子は、大勢の人に囲まれているにも関わらずピクリとも動かない。
「ただいま、ナル。元気にしてたか?──この子については場所を変えて話そう。ナルにも頼みたい事がある。ついておいで」
「──で、その子は誰です?」
マスターの執務室に着いたところで、ナルは早速疑問を口にした。
イーサンが優しく笑い、パサリとフードを下ろした。中から出て来たのは少し燻んだ赤髪赤目のガリガリに痩せ細った少年だった。その目に光はなく、言ったら悪いが、まるで死んだ魚の目だった。
マスターはその細い肩を持ち、ナルの前へと出した。
「ラウルという。私の養子になる子で、ナルと同じ年だ。仲良くしてやってくれ」
「ラウル…。じゃあ、ここで暮らすの?」
「そうだ。家族の一員だな」
ナルはにっこり笑って手を差し出す。
「俺はナル。よろしくな?ラウル」
ラウルはチラッとナルを見やった後、ふいっと目を背けた。ナルの手も握られる事はなかった。
少しイラッとしたナルにアレスは笑った。
「はははっ、振られたなぁー、ナル」
「別に振られてないし!これから仲良くなるから!」
やり場のなくなった手を下ろし、アレスを睨みつける。
アレスはそんなナルの肩をポンポンと叩き、ナルの耳の側へ口を寄せた。
「俺達は後処理の為にまた数日ここを空ける。ラウルの面倒を見てやってくれ。訓練が少し疎かになってもいい。いいか、絶対にラウルから目を離すなよ」
「──それって監視しろって事?」
囁き返したナルの言葉には返事をせず、意味深に笑うアレス。
これから始まる波乱の予感に、ナルは諦めて溜め息を吐くのだった。




