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はっきり言って、国王夫妻がラティアを探す為に動かなければ、見つかる事はないだろう。
使用人達はラティアの事に無関心だし、いなくなった所で、慌てて探そうとしてくれる人はいないはずだ。
唯一心配してくれる兄達は、離宮に移されてから1度も会えなかったところを見ると、王妃が妨害しているのかもしれない。ラティアより1つ2つ年上の彼らでは、どうする事も出来ないだろう。
そして、ナルとなったラティアは今、男装中でもある。髪は金色から茶髪に、目は青色から黒色に変えてある。王宮でラティアが魔法を使えるのを知っているのは、ヨハネス先生ただ1人。その先生も今は王宮にはいない。
だから、探していたとしても、見つかる確率はかなり低いのだ。そして、そもそも見つけたとして、国王夫妻である彼らと会える確率も低い。
なので、ナルは絶対に見つからないと高を括り、この問題を先送りにする事にした。
今はナルとして出来る事をすれば良い。
自分の将来の為に。──そして兄達の為に。
「さて、自己紹介がまだだったね」
しゃがみ込んで、ナルと目線を合わせてくれる銀髪の男性に、思考を一旦横に置いておく。
「私はイーサン・パルドラン。このユニバースを設立した総責任者だ」
「いわばトップだな」
「お前は2番目だけどな」
「はぁ!?そんなの聞いてねぇぞ!」
「言わなくても普通分かるだろ。2人で設立したんだから。みんなはお前が副責任者だと認識してるぞ」
「あー、だから書類…。俺は魔物退治専門なのに、書類仕事が多過ぎるんじゃないかと思った。お前に言われたとかで、なんか確認とか取りに来るし」
遠い目になるアレックス。
「まさか気付いてないとは思ってなかったよ。書類仕事もきっちりやってくれていたしね。──まぁ、それは置いといて。よろしく、ナルくん。…ナルで良いかい?」
「はい!よろしくお願いします。イーサンさん」
「私の事は気軽に呼び捨てでも好きなように呼んでくれ。さん付け以外な。さん付けは、こそばゆいから」
「大体の奴らはマスターって呼んでる。ここにあるギルド、ユニバース支部のマスターでもあるからな」
「そうなんですか。じゃあ、俺もマスターと呼ばせていただきます」
「敬語も無くて良い。ま、慣れだろうから、ぼちぼちだな。──それよりアレックス」
イーサンはナルの目の前にしゃがんだまま、アレックスを見上げた。
「うん?」
「ナルをここに連れてきたのは、養子の報告だけじゃないんだろう?」
「お、さすが。分かってるな」
「当たり前だろ。一体何年の付き合いだと思ってる。報告だけなら仕事終わりでも十分事足りる」
「はは、やっぱ敵わねぇな。実はこいつの腕を見込んで、ユニバース戦闘部隊の一員にする。俺んとこの副隊長に育てようかと思ってな」
「なっ!?まだほんの子供だぞ⁉︎それを副隊長⁉︎隊員にするなら…いや、それもきついか…?ともかく…正気か?」
「ああ。俺は本気だ。それにこいつなら大丈夫だと思ってる」
グリグリとナルの頭を撫でられるが、ナルは何が何だか分からず、話についていけない。
「戦闘部隊?副隊長???」
ナルの疑問に答える事なくアレックスとイーサンは話を進めていく。
「それに、部隊が出来るまでまだ時間はあるんだ。俺んとこの副隊長もまだ決まってないだろ。丁度いい」
「それは他の部隊も同じだ。決まっているのは5番のヴァンのとこくらいだろう。と言っても、相手の返事待ちで確定とは言い難いが…」
「なら良いだろ。別に子供がダメって決まりはないし」
「それはそうだが…。ところで、ナル。君は一体何歳だ?」
イーサンがナルに急に話を振ったので、部屋を眺めてたナルは一瞬びっくりしたが、きちんと答える。
「7歳です」
「なっ…!聞いたかアレックス!まだ7歳だぞ!?なのにそんな……」
「何か問題でもあるか?」
「…ああ、うん。お前はそういう奴だよ…」
何かをを諦めたようにため息を吐いたイーサン。
「分かった。お前の部隊だ。お前に任せる。だがな、ユニバースの一員にし、副隊長になるかどうかはこの子の意思を確認してからだ」
アレックスは頷き、ナルと目線を合わせた。
真剣な顔をしたアレックスがナルの目を覗き込む。
「ナル。俺はお前に、誰にでも必要とされる存在にしてみせると約束した。だから俺はお前を、俺の部隊の副隊長に据えるつもりだ。副隊長になるのは初めの足掛かりに過ぎない。今朝も言ったが、それにはお前が思う以上に厳しい訓練となるだろう。嫌な事もあるだろうし、見ないで良い事も見る事になる。ここで頷けば俺はお前がどんなに嫌がろうと、泣き叫ぼうと、逃がしてやるつもりは一切ない。──それでも付いてくるか?」
ナルは微笑んだ。もうナルの心は既に決まっているのだ。
「もちろん!」
副隊長でも何でもやり遂げてみせる。
このまま、父母に無関心のまま放って置かれるのも、あの城で使用人達にいたぶられる毎日を過ごすのも嫌だ。兄達に会えない毎日も嫌だし、自分は何も出来ないという無力さが1番嫌だった。
せっかく抜け出してきたのだ。ヨハネス先生にも、次会う時は驚かせてみせると約束した。どうせなら、兄達にも成長した自分を見せて胸を張ってみたい。
絶対に諦める訳にはいかないのだ。
「よし!なら決まりだな。な、良いだろ、イーサン」
「ナル、本当に良いんだな?こいつは戦闘の事になると容赦ないが?」
「はい!」
「…分かった。ナル、君をうちの一員に認めよう。改めて、対魔物殲滅組織ユニバースへようこそ。後でうちの身分証を作らないとだな。指輪とネックレス、どっちがいい?」
突然の質問にナルは戸惑う。そこにアレックスが助け船を出してくれた。
「ほら、これだよ。さっきヒナに見せてた奴。でもお前はネックレスで良いんじゃねーの?まだ空間魔法使えねーだろうし」
そう言って取り出したのは、魔導機械である美人なヒナに見せていた紫色の宝石がついた指輪だった。
「じゃあ、ネックレスでお願いします」
「ネックレスだな。分かった。それで、ここの説明はアレックスから聞いてるかい?」
ナルは首を横に振る。
「…もしかして、何も?」
「はい」
「アレックスさーん?」
「ははっ、悪いな!説明は苦手なんだよ」
頭を抱えため息をついたイーサンだったが、切り替えたようで顔を上げた彼は「座って話そうか」と、ソファに座るよう促してくれた。
「まず、ここは名前の通り魔物を専門とする組織だ。ついこの間までは、ゲート…つまり一般では“窓”や“扉”と呼ばれる物をここではそう呼ぶんだが、それが開くのを予測したり、出てきた魔物の調査をする研究をしていた。勿論、アレックスのように何人かは討伐する戦闘員もいる。それを、1、2年後に戦闘部隊を新たに作る事になった。それに伴って、研究組織ユニバースから対魔物殲滅組織ユニバースという名前に変えたんだ」
ここまでは良いかい?と言う問いかけにナルは頷く。
「既に戦闘員だった彼らには部隊長をしてもらい、今年後半か来年から新たに人手を募集して、それぞれの部隊で引き抜きをしてもらうつもりだ。それまでは見習いとして、この街の警備や訓練に専念してもらう。ただ、ナル。君はこれが出来る前だし、アレックスが副隊長にすると言ってるから、アレックス以外の隊長達にもしごかれる事になるはずだ」
「ま、お前もギリギリ一期生ってとこだな。その分、後の者達に抜かれないように俺達が育ててやる事になる」
「そうだな。他の隊長達にも紹介しないといけない。そろそろだと思うが…」
その時だった。ノックの音がしたのは。
「マッスター!呼んだー?」
「入るぞー」
「失礼します」
「あら、アレックスじゃない。帰ってたのね〜」
「んん?全員集合って珍しいっスね〜」
「あれ、ほんとだ」
「ん?そのチビっ子はどうした?アレックス」
ガチャリと扉が開いて、ぞろぞろと人が入ってくる。
「丁度良い時に来たな。紹介したい者がいて呼んだんだ。──アレックスの養子になるナルだ。ここユニバースの戦闘員の一員になる。アレックスの副隊長候補だ。分からない事が多いだろうから手解きしてやってくれ」
「基本的には俺が見る予定だが、俺がいない時にはこいつに訓練をつけてやってくれ。やり方はそれぞれに任せる」
ナルはピョンっとソファーから飛び降りて頭を下げる。
「ナルです。初めまして。これからどうぞよろしくお願い致します」
これを見た隊長達は、全員ピシリと固まる。
1人はナルを指差し、まるで魚の様に口をパクパクさせていた。
「こっ、ここここどもっ!?」
「アレッ…っ、はあっ!?」
「ちょっ、ちょっと整理させて下さい。えっ、養子…?副隊長候補…?は?」
「まさかの隠し子っスか…?」
「アレックス、そんな趣味があったとは…。ですが誘拐はダメです!」
「趣味じゃないし誘拐でもないし隠し子でもない!」
「かっ、かわいい…」
「ちょっと待って下さい!基本的にアレックスさんが見る予定ってずるいです!アレックスさんがいる時でも私達に回してください!こっこんな可愛い子を独り占めなんて…許せない!私もこの子の親になりたい!」
「あー。みんな一旦落ち着け。ナルが目を回してるから」
パンパンと手を叩いてその場を収めてくれたのはイーサンだった。
「ナル、順番に紹介しよう。まず、2番隊隊長、ギルティ・マナだ」
言われて前に出て来たのは、短髪の青い髪と青い目を持った武骨でいかにも男らしい人だった。でも、見た目はアレスやマスターと同様、かっこいい。かなりモテそうだ。
「よぉ!よろしくな!チビ助!」
「よろしくお願いします、ギルティさん」
「3番隊隊長、シュエル・トゥックだ」
次に出て来たのは、黒髪黒目のこれまた綺麗な顔立ちの男の人だった。肩より少し長い髪を後ろで1つに結び、前髪にはクロスしたピンを留めている。少しチャラそうな雰囲気もあるが、声は誠実そうだった。
「シュエル・トゥックだ。よろしく、ナル」
「よろしくお願いします、シュエルさん」
「次。4番隊隊長、ヴィクター・ナルマージ」
「やぁ、よろしくね。ナル、君はスイーツは好きか?」
桃色の髪と目も同じ色をした彼は、とても優しそうなお兄さんといった感じだ。
「よろしくお願いします、ヴィクターさん。…えっと、スイーツがどんな物かよく分からないんです。ごめんなさい」
「そうか。別に謝る必要はない。でも知らないなら今度良い物を持って来てあげよう」
そう言って笑った彼は、とても綺麗で眩しかった。
「5番隊隊長、ヴァン・サージン」
緑色の髪と目を持った彼はメガネを掛けていて、いかにもインテリ系といった感じだ。とても魔物と戦っている様には見えない。
「ヴァン・サージンです。よろしくお願い致しますね、ナル」
「よろしくお願い致します、ヴァンさん」
「6番隊隊長、ディナンシェ・ハルシュミッド」
「よろしくっ!俺はこの中で1番下っ端だから気安くしてくれると嬉しいな!」
「よろしくお願いします、ディナンシェさん」
「あーだからそれが堅苦しいって!ディナンで良いよ!ま、どうせセンパイ達にしごかれたら言葉遣いなんて滅茶滅茶になるけどな!」
そう言ってニカッと笑ったのは、オレンジ色の髪と目を持ったいかにも活発そうな彼。見た目は少年だった。ナルよりは年上だろうけど、きっとこの中で1番若いんだと思う。
でも何でこんなにもイケメン揃いなのか。あまりにもキラキラしているこの人達が眩しかった。
「で、最後に新人育成部隊のA、B、Cの隊長になるクウラ、リア、エルだ」
「えっ、マスター!私達の説明雑!」
「悪いな。だんだん面倒になって来た」
「ヒドッ!」
「あんまり長いとナルも疲れるだろ。それに一回で全員を覚えられる訳ない」
「あー、それもそうかも知れませんねぇ」
「ちょっと、エル!流されないの!」
「だってまだほんの子供ですしー」
「分かったわよ。でも、自己紹介だけはきっちりさせてもらうからね!」
そう言ってポニーテールに纏めた水色の髪を揺らしてこちらを見た彼女はにっこり笑った。
「初めまして、私はクウラ・トリストよ。よろしくね、ナルくん」
「私はリア・ネーション。気軽にリアって呼んで。“さん”は要らないから」
キリッとした彼女もポニーテールで、黒髪黒目だった。
「あっ、リアだけずるい!私も呼び捨てで呼んでね!」
「エル・サジスタよぉ。私も呼び捨てで構わないわぁ。よろしくしてねぇ」
紫色の髪と目を持ち、泣き黒子があり、垂れ目なお姉さん。む、胸が大きい…。
「ですが、さすがに呼び捨てには…」
「ク・ウ・ラ、よ。一回可愛い子に呼び捨てで呼んでもらいたかったんだけどなぁー…」
ダメ?とウルウルした瞳で聞かれてはナルも頷くしかない。
「分かりました。よろしくお願いします、クウラ、リア、エル」
3人は満足気に笑って頷いた。3人とも美人だ。
全員の自己紹介が終わったところで、ナルはある疑問を口にする。
「あの…1番隊隊長ってもしかして……」
「ん?ああ、俺だ」
何事も無いように頷くアレックスに、ナルは衝撃を受けた。
1番隊って偉いんじゃないだろうか…?自分がそんなとこに入っても大丈夫なのか…?
そんな事を考えそうになり、頭を振って追い払う。だってもう、なると決めたから。後ろを見るわけにはいかない。
「アレックス、それも教えてなかったのか…。──取り敢えず、急に全員は覚えられないだろうから、顔だけでも覚えておくといい。名前はおいおいな。みんな、会う度に名乗ってやれよ」
それぞれ返事を返してくれたのを聞いて、ナルは再び深く頭を下げた。
「これから頑張ります!皆様、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします!」
「かってぇガキだなぁ、おい」
ギルティがそう言って豪快に笑ったので、みんなが笑いながらも快くナルを受け入れてくれたのだった。




