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イースグレイ王国の幽霊王女  作者: しろ
二章 嵐の前の、大切な日々
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61 ディナンシェの過去②




 まだ日も顔を出さない早朝に起き出した僕は、顔を洗い軽く歯を磨いてから、山菜用の籠を背負う。後はもしもの時のため、剣を身につける。これで完璧。さぁ行こう、と扉に手をかけた所で呼び止められた。


「今日も行くの?まだ小さいんだから無理しなくて良いのよ?」


 ふわぁ〜と大きな欠伸をしながら奥の部屋から出て来たのは、年の離れた姉、デューシャだ。


 「姉さん。僕はもう十二だよ。子供じゃないって。姉さんこそ無茶しちゃダメだよ。もう、明日結婚だってのにさ、昨日も山に行って狩りをしてたんだって?そんなんじゃ、荒っぽいって愛想尽かされちゃっても知らないよ?」

 「バッ!!!キノアさんはそんな人じゃありません〜!優しい人だから、私の事何でも受け入れてくれてるんですぅ〜!!!」

 「あー、はいはい。朝からご馳走様。それじゃ、行ってくるから」


 外へ一歩踏み出した僕の頭に、ふわりと優しい手が乗せられ、そして抱きしめられる。


 「ディナン、気をつけて」

 「分かってるって」


 早くに両親を亡くし、ずっと二人ぼっちだった僕たち。姉さんは僕の為に働き、まだ幼かった僕の面倒を必死で見てくれた。親の代わりであり、かけがえのないたった一人の家族だ。


 そんな姉さんが結婚してしまう。初めは姉さんが取られるのが嫌で、拗ねたり、無視したりと酷い事をしてしまったが、旦那になるキノアさんとも何度も話し、今では受け入れられるようになった。

 姉さんの相手はとても良い人だ。そう分かった所で、やっと僕は気づいた。姉さんは幸せになるべきなんだ。僕の事ばっかりでは、いつまでも幸せになんてなれない、と。


 「ディナ〜ン!!!今日の夕飯はあんたの好きな物、たぁ〜くさん作っといてあげるからねぇ〜!!!早く帰って来るのよ〜!!!」


 豆粒のように小さくなってしまった距離なのに、どこからそんな声が出るのだろう。ブンブンと大きく降ってくれる手に、思わず笑いながら僕も大きく手を振り返した。






* * *






 お金になる薬草や木の実を採っては、背中の籠へと次々入れていく。初めの頃は分からなかった薬草と雑草の違いも、なんとなく分かるようになり、以前より効率的に稼げてるように思う。


 「これくらい、かな」


 日も少しずつ傾いてきた頃、籠の中を覗いて僕は汗を拭った。


 僕たちが住んでいるのは、村の端っこにある小さな家である。他人から見たらボロ屋でも、僕にとっては大切な我が家だ。姉さんが村の人に頼み込んで貸してもらったものである。

 僕の為に、と毎日毎日休まずに町へ出稼ぎに行ってくれていた姉さん。


 結婚する姉さんの為にプレゼントを用意してあげたい。そう思うのは当然だろう。

 この頃には近くの町のギルドに登録して、木の実や薬草を採ってほんの僅かだけど収入を得ていた。いつもは得た収入を全額を姉さんに渡すのだけど、結婚すると認めてからは……、いや、本当は認める前からほんの少しずつ自分の手元に置いておいたのだ。

 毎日、少しずつ森に入る時間を延ばして、木の実や薬草を採る量を増やした。


 そして。やっと今日、目標の金額に達した。


 「よし!」


 ギルドで換金してもらったお金と、今までの貯金全額を握りしめて町にあるアクセサリー店へと走る。


 「店主さん!あれ、下さい!!!」

 「おぅ、待ってたぜ!坊主!!!」


 ニッカリと笑った店主が奥から取って来たものは、僕が随分前からキープしておいてくれと頼んでいたブレスレットだった。


 「姉さん、喜んでくれると良いんだけど……」


 プレゼントを渡すなんて初めての事で、丁寧に梱包してもらった箱を大切に抱え、ドキドキしながら早足で家路につく。


 「ただいま〜。──って、あれ?いないじゃん」


 家には夕飯用であろう、用意しかけた物がそのままになっている。


 「姉さん?いないの?」


 たった一つしかない間取りの小さな家だ。いないのは見て分かるはずなのに、思わず呼びかけてしまう。


 「早く帰って来いって言ってたのに……」


 唇を尖らせながら、もしかすると婚約者の所かもしれないと思う。


 ふと、机の上に置いてあるケーキの上に乗った、文字の入ったプレートが目にとまり、僕は小さく笑った。


 「仕方ないなぁ〜、もう」






* * *






 「おい!ディナンシェ!!!いるか!!?」


 コンコンではなく、ドンドンッと扉を破るような勢いでドアを叩かれ、僕は仕上げていた料理をその場に置く。その間に勢いよく扉を開かれた。ズカズカと遠慮なく入り込んで来たのは、村に住む面倒見の良い大男だ。


 「ちょっ!何すんのさ!!?」

 「居るんじゃねーか!早く来いっ!逃げるぞ!!!」

 「は?」


 腕を掴まれ、訳が分からないまま外へ引っ張り出される。


 「魔物だ!ここは危ない!!!」

 「ちょっ、待てよ!!!」


 魔物!?

 ──嫌な予感がする。


 「姉さんは?」

 「…………」


 彼は僕の言葉を無視して、走り続ける。


 「ねぇ!姉さんは!!?」

 「…………」


 再び無言で走り続ける彼の手を、僕は渾身の力で振り払った。彼が向かってた先とは逆の、姉さんの婚約者が住んでいる村の方へ駆け出す。


 「行くな!!!待つんだ!ディナンシェ!!!」


 後ろで何か叫んでるが、そんなの聞こえない。心臓がやけにうるさい。

 姉さんは明日結婚するんだ。何よりも楽しみにしてて。これから幸せな事がいっぱい待ってて。だから、きっと大丈夫。だから。だから!






 ──僕はきっと、今日の事を永遠に忘れる事は出来ないだろう。




 村に近づくにつれ、鳥肌が立ち、身体が震える。魔物は村にはいないようだが、遠くもない。気配察知は得意な方なのだ。確かに、モンスターとは違い、僕では太刀打ち出来ないだろう。見つかればすぐに死ぬ。それでも、僕は村へ向かった。


 村に着くと、所々で小さな啜り泣く声が聞こえた。地面や家の壁には、飛び散った赤。村人はどこかに隠れているのか、倒れてる人以外は見る限りでは見つけられない。


 ふと、姉さんの婚約者の家へと続く、大量の赤い色を見つけた。


 「キノアさん……?」


 そっと扉を押すと、難なく開いた。

 こちらに背を向け、座り込み、何かを抱きしめている男の人が肩を震わせている。


 「キ、ノアさん……」


 もう一度呼びかけると、彼はそっとこちらに顔を向けた。その顔は涙と鼻水と血でグチャグチャだ。


 「ずっ、ずまない……。ディナンシぇっ、ゔぅっ。まっ……守れながっだ!!!」


 喉の奥が引きつったのを感じる。

 彼の腕の中には、姉さんがいる。そう、分かるのに、それ以上近づけない。ぐったりとした手足。ぴくりとも動かない。

 怖い。嫌だ。そんな。嘘だ。誰か嘘だと……。




 ディナン、ありがとう。ずっとずっと大好きだよ!




 ケーキの上に乗せられた小さなプレートに描かれていたメッセージが、頭から離れなかった。






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