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イースグレイ王国の幽霊王女  作者: しろ
二章 嵐の前の、大切な日々
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59 ヴィクター隊長と




 「ナル、ラウル、こっちへおいで。お茶の時間だ。美味しいお菓子を持ってきたから一緒に食べよう」


 ユニバース本部にある図書館で、本を読む二人へ声をかけたのは、桃色の髪と目を持ったヴィクター隊長だ。肩より五センチほど長い髪は、まとめずにサラリと流されていて男性なのに女性的な美しさも持ち合わせている。

 柔らかい物腰、いつ見ても微笑んでいる姿、穏やかで誰でも包み込んでしまえる懐の深さ。ユニバースの隊長たちの中では優しさランキングナンバーワンだと二人は思っている。だからといって他の隊長たちが優しくないわけではない。二人にとってユニバースの人たちは全員が優しく、家族のようなものだ。彼らの中でも特に温厚なのがヴィクター隊長なのである。


 ナルがユニバースへやって来た次の日から、ヴィクター隊長は空いた時間にお茶へと誘ってくれる。その時間がナルはたまらなく好きだったりする。


 中庭へ移動した三人は、ヴィクター隊長の淹れてくれたお茶を飲みながら雑談を楽しむ。雑談とは言っても、ヴィクター隊長が体験した話を聞いている事が多い。絵本の読み聞かせのように、面白おかしく自分の話をしてくれるので、とても楽しいのだ。


 「──やっとモンスターを全部倒し終わったと思って休憩してたら、地中から嫌な音がこちらに向かってくるんだ。何だと思う?」

 「魔物?」

 「アンデッドモンスター」

 「ふふ、ざぁんねん。正解はー、大型犬くらいの大きさのアリのモンスターだ。それはもう、面白いくらいウジャウジャ出てきてね。周りはもう大パニックだったなぁ」

 「うわぁ…………」

 「でもあれは数が多いだけであまり強くはなかったからね。瞬殺だったよ」

 「へぇ!」

 「そういえば、ヴィクター隊長が戦ってる姿、見た事ないです」

 「俺も見たことないです」

 「そういえば二人とは任務に行ったことはなかったな。──まぁ、マスターからは止められてるから仕方ないね」

 「え?」

 「どういう事です?」


 二人が首を傾げると、ヴィクター隊長は気にしなくていいよとにこやかに首を横に振った。


 「二人の教育に悪いって言われてるんだ。またいつか機会があれば、だね」


 今日のお菓子はフルーツ盛りだくさんのタルトである。生地はしっとり、カスタードクリームはしつこくない甘さ。薄くいちごのジャムが生地の間に入っており、その酸味とこれでもかと上に乗っているフルーツとの相性がまた良い。


 教育に悪いとはどういう事だろう?もうちょっと深く聞いて良いものか、とナルとラウルが目配せしながらフルーツタルトを頬張っているとアレスがやってきた。


 「ヴィクター、ここにいたか。お、ナルたちも一緒か、丁度良いな」


 二人に聞きたい事があると言われ、ナルとラウルは首を傾げる。


 「まず、ラウル。お前、本当の自分の誕生日知りたいか?」


 アレスの言葉を聞いて、思考停止したのか固まるラウル。考える時間が必要だと思ったのか、アレスはラウルはそのままにして今度はナルの方を見やる。


 「じゃあ、ナル。お前は自分の誕生日知ってるか?」


 (誕生日……)


 ナルの脳裏にうっすらと幼い日の記憶が浮かんでくる。


 「ラティ〜!」

 「ティア〜!」

 「「お誕生日、おめでとう!!!」」


 とびきりの笑顔で言ってくれた兄たち。その日はいつも以上にぎゅうぎゅうと抱きしめられた気がする。──確か、その日は雪が降っていただろうか……。

 でも正確にいつだったかは分からない。


 二人とも黙り込んでしまったのを見て何を思ったか、アレスは気まずそうに頭をかく。


 「一応な。決めときたいんだよ。本当の誕生日なんて正直どうでもいいし、分からないんなら好きな日にしたらいい。二人同じ日にしても良いし、それぞれここへ来た日にしても良い。ナルは知らんが、ラウルは新しい誕生日を決めるなら決めて、本当の誕生日も知りたいんなら教えてやる」


 そう言われ、ナルとラウルは目配せし頷いた。


 「「同じ日で!」」

 「よし、分かった。いつが良いとか希望はあるか?」

 「別にいつでも良いよ」

 「俺も」

 「あっさりしてんな。んじゃ、こっちで適当に決めとくぞ」


 そういうアレスだってあっさりしてるような気がする、とナルは思うが口には出さない。


 「うん。それにしても何で急に誕生日の話?」

 「あーーー、まぁ、気にすんな」


 わしゃわしゃとナルの頭を撫でて誤魔化したアレスは、ヴィクター隊長の方を向いた。


 「ヴィクター、仕事だ」

 「おや、久しぶりだな」

 「つってもモンスターだけどな」


 ヴィクター隊長に仕事!

 目をキラキラさせて見上げてくる二人を見て困ったように頭を掻くアレス。


 「あーーー……。────二人も行ってくっか?」

 「うんっ!」

 「はいっ!」


 久しぶりの仕事だと意気込む二人の元気な声が重なる。


 「ヴィクターは構わねぇか?」

 「私は大歓迎だよ。じゃあ、準備して来ようか。五分後に正門前で」


 準備の為に走り去っていった二人を見て、アレスは困ったように眉を下げる。


 「まぁ、いつかはバレるしな……。先に知っておいた方が何かと都合が良いか」


 チラリと見た視線の先には、にこりと穏やかな笑みを浮かべる男がいる。


 「さ、場所を教えて」






* * *






 「────ふっ、ふっくくくくく……」


 人里からは遠く離れた森の中。千はいるであろう、大量のモンスターを前に片手で顔を覆い、俯いて肩を震わせるヴィクター隊長。ナルとラウルは怪訝に顔を見合わせる。


 「ハァ〜ッハッハッハ〜〜〜〜〜!!!!!!」


 突然隣から聞こえて来た歓喜にも聞こえる叫び声にピキリと硬直するナルとラウル。


 「キッタァァァアアアアア!!!!!キタキタキタキタキタキタキタキタ!!!!!!!!」

 「えっ…………」

 「はっ…………?」


 ヴィクター隊長の突然の変貌ぶりに絶句する二人。

 ヴィクター隊長から後退りするように二、三歩引いてしまったのは仕方ないことだと思う。


 今回のモンスターはガンゴロイドと言う、岩っぽいものが重なりあって動いているモンスターだ。その見た目通り、硬く出来た身体は剣は通らず、魔法もほぼ効かないことで最悪の相手だと冒険者たちに有名だ。ガンゴロイドを討伐するのは困難だと冒険者たちがその依頼を避けて通る為、このように増えすぎることがある。その依頼が時々ユニバースへ舞い込んでくるのだ。


 「みんなまとめて可愛がってあげよう」


 うっとりとした笑みを浮かべたヴィクター隊長は、顔の前まで持ち上げた剣をゆっくりと抜く。          

 小説に出てくる悪役のように、剣を舐めるんじゃないかとひやひやしたのはナルだけではないはずだ。

 ゆっくりとした動作で剣を構えたヴィクター隊長は、次の瞬間、掻き消えた。


 そして次の瞬間ナルたちの背後でダァァンと大きな音が鳴り響く。ハッとした二人が振り返ると、数百のガンゴロイドの首が飛んでいた。


 「うっそ……」

 「……見えなかった」

 「俺も……」


 二人が呆然としてる間にもヴィクター隊長は奇声?を上げながら嬉々としてガンゴロイドの頭を次々刎ねていく。

 自分たちも負けてられない。生き残ってるガンゴロイドの方へ向かおうと腰を落とすと、目の前にヴィクター隊長が現れる。


 「ナル、ラウル。来ないのか?」


 口元に人差し指を立て、不思議そうに首を傾げる姿は、今まで見てきた優しいヴィクター隊長とは雰囲気がまるで違う。


 「まぁ、ここにいるのは全部片付けちゃったけど」


 モンスターがいたはずの背後をヴィクター隊長の視線を追いかけるように見ると、そこにいたはずのモンスターが全て地に伏していた。ついーっと視線を二人へ戻したヴィクター隊長に二人は戦慄する。


 「そんなんじゃ〜ぁ、後輩たちにナメられちゃうぞ?」

 「ぐっ」

 「がっ」


 二人まとめて片足で腹を蹴り飛ばされる。その威力は半端ではなく本気だと分かる充分な威力だ。


 「私からの授業タイムとでもしようか」






 「遅いッ!そんなんじゃすぐ追いつくぞ〜!こんな風に、なっ!」

 「っ!」


 鬼ごっこ。いや、正直捕まっても鬼は変わらないので鬼ごっことは言えないかもしれない。

 しかも追いつかれると、容赦なく蹴り飛ばされるという嬉しくないオマケつきである。

 訓練が始まって、もう何時間経っただろうか。いや実際はそこまで経ってないのかもしれない。太陽の位置を確認しようとした時、


 「よそ見は〜、よろしくないなッ!」

 「くッ!」


 背後から振り抜かれた足をギリギリ体勢を低くして避けるが……、


 「はい、よそ見ぃ〜」

 「ガッ!?」


 気がつけば反対の足で蹴られていた。

 吹っ飛ばされた勢いで、何本か木をなぎ倒し地面へと転がる。


 「ウッ……」

 「ッ……、ごめ、ラウル」


 どうやらそのまま地面に転がっていたラウルにぶつかったらしい。

 なんとか起き上がるとゆっくりと歩いて来たヴィクター隊長がパンッと両手を叩き、ニコリと笑った。


 「今日はここまでだね。よし!帰ってお茶にしようか」


 その言葉に地面に座り込む二人。


 「──今日はもう結構です……」

 「今飲んだら吐く……」

 「そう?残念だなぁ」






* * *






 「ヴィクター隊長……、自分で歩けるので降ろして下さい」

 「俺も……」


 ユニバースの街の中、ナルとラウルを両手に抱えて歩くヴィクター隊長はものすごく上機嫌である。


 「こんな機会滅多にないからね。それに動くと顔が見えちゃうよ?」


 道行く人から見た二人は、ローブで身体を包みフードを深く被っているので、子供だろうという事以外は分からない。


 この街で二人は、表向きにはユニバースのギルドに所属している事になっている。もちろん本当にギルドに所属はしているが、対魔物殲滅組織ユニバースの一員である事は一般には公開されていない。一般市民たちが知っているのはおそらく隊長、副隊長たちくらいだろう。二人がユニバースの一員であることを公開していないのは、二人を守る為でもある。

 だが、ギルドと組織の建物はほぼ一体になっているので、ギルド登録を済ませているナルたちの顔を見せて一緒に帰ったとしても別段困ることはないのだ。


 「お、ナルにラウル〜」

 「ディナンさん!」

 「ヴィクター隊長も一緒っすかぁ、お疲れ様っス」

 「お疲れ、ディナン」


 依頼から戻って来る人が多い夕方の時間になっていたようで、その中ナルたちを見つけて声をかけてきてくれたのは、笑顔のディナンさんだ。


 「ヴィクター隊長が二人を抱っこしてるの珍しいっスね〜」

 「ああ。ちょっと訓練でやりすぎてしまってね。おかげで私は得をした」

 「良かったっスね〜」


 ディナンさんに頷きながら、ようやくナルたちを下ろしてくれ、頭をポンポン撫でられる。


 「ただもっと鍛えてやらないとだな。ディナンはこれからどこかへ行くのかい?」

 「俺は今からシュエル隊長と飯っス。お、噂をすれば……、シュエル隊長〜!こっちこっち!」

 「なんだなんだ、みんな集まって。みんなで行くのか?」

 「それ良いっスね!みんなで行きましょ!」

 「俺はちょっと……」

 「俺も今は……」


 断ろうとするナルとラウルにシュエル隊長は首を傾げる。


 「なんだ、訓練後か?そういう時こそ食わなきゃだぞ。食いもんは無理でも飲み物くらい入るだろ。みんなで行くぞ」






* * *






 訓練や任務で時間がなかなか合わないユニバースの隊長たちが、集まってどこかへ出かけることは珍しい。しかもシュエル隊長は変装せず、そのままの姿だ。疑問に思ったナルが声をかける。


 「シュエル隊長、今日はシュカさんにならなくて良いんですか?」

 「今日は気分じゃないしな。このままでいい」

 「バレません?」

 「なぁに、これでバレる事はないさ。もし、見破れる奴がいたら勧誘する」


 入ったのは少し大きめの居酒屋だ。賑わっている中、ちょうど空いた大きめの席へ座る。

 ここ数日の出来事を伝え合ったり、どうでもいい話をしながら今日はゆっくりと食事をとる。

 食事も半分くらいまで進んだ頃、話はそれぞれがユニバースへと入隊した頃の話になっていた。


 「そういえば、ディナンさんはシュエル隊長と出会ってユニバースへ来たんですよね?」


 大きなもも肉を頬張っているディナンさんに代わり、シュエル隊長が頷いた。


 「ああ、そうだな」

 「どこで出会ったんです?」


 シュエル隊長はにこりと笑ってディナンさんを見る。

 ごくりと口の中の物を飲み込んだ彼は、逡巡するように視線を彷徨わせた。


 「うーん、引かないなら教えてあげないでもないけどなぁ」

 「引くことはないと思いますけど」

 「あん時はお前、荒れてたからな」


 ディナンさんもシュエル隊長の言葉に同意するように、うんうんと頷く。


 「荒れてましたねぇ」

 「荒れてた?ディナンさんが?」


 いつも元気溌剌とした姿しか見てないからか、全く想像がつかない。

 それに気づいたのか、照れたようにぽりぽりと頬を掻くディナンさん。


 「まぁ、大した話じゃないけどそれでも良いんなら……」


 ナルとラウルは身を乗り出すように、こくこくと頷いた。






遅くなりすみませんm(_ _)m

感想、ブックマークなどとても励みになっております!ありがとうございます!

のろのろ更新ですが、気が向いた時にでもお付き合い頂けましたら幸いです( *´꒳`*)

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