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イースグレイ王国の幽霊王女  作者: しろ
二章 嵐の前の、大切な日々
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56 シュエル隊長と③




 「おい、小僧ども。足は痛くないか?馬に乗るか?」

 「いえ、大丈夫です」



 「疲れてないか?馬に乗るか?」

 「ありがとうございます、平気です」



 「甘い物をやろう。馬に乗って食べるといい」

 「ありがとうございます。でも馬はいいです」


 出発して一時間程経った頃、ナルとラウルは馬上のディッターさんから馬に一緒に乗るお誘いをほぼ十分おきに受けていた。


 「おいおい、この子らいくら何でも利口すぎやしないか?弱音一つ言わねーで大人の速度について来るのな。足痛いだろ。遠慮しなくても良いんだぞ?それとも馬は嫌いか?」

 「ははは……、お気遣いありがとうございます。しっ、しかもお高いお菓子まで頂いてしまって……」

 「これくらい気にするもんじゃねー。なぁ、坊主たち。さっきは怖い顔をして悪かった。ほら遠慮せずこっち乗れ」


 ナルとラウルはさっきもらったサクサクフワフワのお菓子を食べながら、首を横に振る。

 始めはラウルと手を繋ぎ、縦長の大量の荷物を背負ったシュエル隊長と三人で商隊の後ろの方を歩いていたが、今は依頼主であるディッターさんの隣。つまりは商隊の真ん中にいる。

 厳しかった周りの人の目も柔らかくなっている気がするのはナルの気のせいだろうか。


 「斜め右前方にモンスターの影あり!皆、戦闘体制に入れ!」


 先ほどもらった甘いお菓子を飲み込んだ時、ゴンズさんが声を上げた。商隊が一気に緊張に包まれる。

 やっとか。

 この隊に魔法を使える者は少ないのか、いつもモンスターを見つけるのがギリギリなので、冷や冷やしていたナルは胸を撫で下ろした。

 現れたのは、犬くらいの大きさがあるネズミ型のモンスターが五体。そう苦戦する事もなく護衛隊によって片付けられた。


 時折現れるモンスターを倒しながらも順調に進み、街を出て二日目の夜。護衛担当の人たちが、依頼主や荷物持ちの人たちを囲むようにした形で、それぞれ寝床を確保し、食事の準備を進めていた。

 食事は各々が持って来た物を食べる事になっている。陣の中でも隅っこの方に陣取ったナルたちは、ナルとラウルのカバンに分けて入れていた硬いパンを三人で黙々と食べる。

 噛みちぎるのも硬いパンだが、ずっと噛んでいると香ばしさや甘みがふんわりと広がり美味しいのだ。少ない量でも美味しく腹持ち長く、を目指したユニバースの料理長であるジェフさんの力作である。

 他のチームはほぼ調理中で、辺りからは香ばしい香りが漂ってくる。だがそれが羨ましいとは思わない。

 ナルたちも料理をしようと思えば出来るのだ。だけど料理をするとなると、どうしても新鮮な肉を食べたくなり、狩りに行きたくなる。短時間でモンスターのうろつく森で獲物を狩ってくるのは、普通の荷物持ちには無理だ。なのでジェフさんの作ってくれたパンを食べているのだ。

 喋ることでボロを出してはいけないと、ナルとラウルは無言で黙々と食べる。それをシュエル隊長が面白そうに見ている。これは絶対後でからかわれるやつだ。

 静かな食事を続けていると、そこに影が差した。三人が顔を上げると、仏頂面の男が立っていた。出発前に木陰に立っていた男だった。


 「やる」


 ずいっと差し出されたのは、ほかほかと湯気の立つ大きめの鍋だった。中に入っているのはシチューなのか、良い香りが漂ってくる。


 「あっ、ありがとうございます。ですがお気持ちだけ……」

 「ガキどもが栄養失調になるぞ」


 栄養失調、その言葉にピクリと反応したのはシュエル隊長だ。メガネの奥に隠れているはずの 鋭い目で、ラウルとナルの顔色を素早くチェックする。

 ラウルがユニバースへやって来た時、彼は栄養失調でガリガリだったにも関わらず、あまり食べようとはしなかった。隊長たちは、隙を見てはラウルに食べ物を与えようと奮闘していた時期があるのだ。もちろんナルもそれに参加していた。

 そのせいか隊長たちは、栄養失調という言葉には過敏に反応するようになってしまったのだ。

 一瞬考えるように俯いた後、顔を上げたシュエル隊長は差し出された鍋を受け取った。


 「ありがたく、頂きます。あ、あの、良かったらご一緒しませんか?パンしかありませんが……」


 彼は首を少し傾げ、考えていた様子だったが、こくりと頷いた。


 「ご相伴しょうばんにあずかろう」


 ドカリと胡座をかいて地面に座った男性。


 「改めて、荷物持ちのシュカです。この子たちはナルとラウルです」

 「護衛担当のクランプだ」

 「クランプさん、ですね。少し硬いですが、どうぞ」


 ナルのカバンから取り出したパンをシュエル隊長から受け取ると、食べ始めるクランプさん。


 「おぉ、これはなかなか……」

 「おっ、美味しいでしょう?ほら、ナル、ラウル、頂いたから食べて」

 「お前も食うんだよ。お前も栄養失調候補か?」

 「ぼっ、僕は多少食べないくらいで倒れたりしませんから」


 二人にもらえるだけで充分です、と慌てて手を振るシュエル隊長に、呆れた目を向けるクランプさん。


 「お前……、よくそんなんで子供を連れてるな」

 「え?」

 「子供はなぁ、一緒にいる大人のこと、よぉく見てるぞ。そして必ず真似しやがる。まずは手本になってやるのが大人ってもんだろ」


 そこまで子供ではない、と無言で抗議の目を向けてくる二人を見てシュエル隊長は苦笑した。


 「そうですね。僕が浅はかでした。僕も頂きますね」

 「ああ」






 * * *






 あれからシュエル隊長はクランプさんのことを気に入ったようである。初めてクランプさんと食事を一緒にした日は、夜遅くまで話していたようだったし、今も荷物持ちの集団から離れて後方で護衛をしている彼の隣にいる。食事の時間はクランプさんも混ざるようになり、四人で食べるようになった。


 街を出てから五日目。天気には恵まれたようで晴天が続いている。ナルとラウルは相変わらず依頼主のディッターさんに話しかけられたり、馬に乗る誘いを断りながら集団の真ん中辺りで歩いていた。


 風がひときわ強く吹き、付近にいた鳥たちが一斉に飛び立っていく。


 「多いな……」


 ポツリと呟いたラウルの声にナルは頷く。


 「そうだな」


 遠くから近づいてくるモンスターの気配に、いつも通り他の護衛よりも早く気づいたナルたち。その気配は当然シュエル隊長も気づいてるだろう。

 ただ、多いとは言っても数十程度だ。いつもナルたちが相手にしている数に比べたらなんて事はない。しかも魔物ではなくモンスター。ため息を一つ落としたラウルは頭を掻く。もう何日も身体を動かしていない。つまらないのだろう。ナルだってそれは一緒だった。


 それがやって来る少し前に気づいた護衛隊は、いつも通り迎撃の準備をするが、その数の多さと気持ち悪さに数人が怯んだようだった。現れたのは、犬くらいの大きさのクモ型のモンスターだ。

 それを見て勢いづいたのか、クモ型のモンスターは怯んだ人や、小さな武器しか持っていない荷物持ちへと目標を変えて襲ってくる。いつもより数も多く、個体も今までのモンスターよりは強かった為、当然護衛隊の守備が薄くなる所がある。

 クモ型のモンスターはそれを見逃さず守備が薄い場所を狙い、それによりその場はパニックに陥り、隊が崩れていくのはあっという間だった。


 怒号や悲鳴、モンスターと交戦する音が響き渡る。モンスターが現れる前まで隣にいたディッターさんは、逃げ惑う荷物持ちたちを落ち着かせようと走り回っていた。

 シュエル隊長は皆んなと一緒に逃げ惑うふりをしながら、怪我人をモンスターがいない方へ誘導している。その時にバレないよう素早く一人一人に防御膜を張っていく手腕は流石である。ナルとラウルはお互いを見て頷いた。シュエル隊長がまだ出ないなら二人がする事は一つだ。逃げるフリをしながら、死人を出さず怪我人を最小限に抑えること。


 逃げ遅れた人を見つけ次第、小石でモンスターにダメージを与えながら、自らの方へ誘き寄せるラウルとは分かれて、ナルも逃げ惑うふりをしていた。その途中で誰にもバレないように魔法でモンスターの内部からダメージを与えつつ、隊を離れてしまった人を追って移動していると、シュエル隊長ともずいぶん離れてしまった。

 苦戦しながらも、大体のモンスターは討伐されている。

 崖に近い位置に来てしまっているようなので、さりげなく近くにいる人たちを誘導しながらみんなの所へ戻ろうと考えていた時だった。


 「うわぁぁっ!!!」


 ドンッ。

 突如木の上から降って来た少し大きめのクモ型モンスターに驚き、向きを変えて逃げようとした荷物持ちの男の人の荷物がナルの身体にぶつかり、あっと思った時には身体が宙に浮いていた。


 「ナルッ!!!」


 遠くからラウルの声が聞こえる。ラウルが駆け寄って手を伸ばそうとしてくれるが、普通の子供のふりをしている今は届く距離ではない。ラウルの声に反応したシュエル隊長がこちらを振り返る。


 (これはどうするのが正解なんだろう……)


 考えている間にも身体は崖の下へと落ちていく。下には深い森。魔法が使えるから、落ちても問題はない。

 その瞬間、モンスターと目が合った。獲物を見つけたとばかりにニヤリと口角が上がり、他の者たちには目もくれず、こちらへと跳躍してくる。

 これはチャンスかもしれない。誰もいない所なら、このモンスターを倒しても問題はないはずだ。


 「ッ!」


 そのモンスターの後を追うように、自ら宙へと飛び出してきた人影は気のせいだと思いたい。




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