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イースグレイ王国の幽霊王女  作者: しろ
二章 嵐の前の、大切な日々
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55 シュエル隊長と②




 「と、いう訳で、だ。そっち方面へ向かうパーティーを探すぞ」


 撒いた後見つけた宿屋の中、突然話し出したシュエル隊長に、ナルはスッと手を上げた。


 「何が、という訳なのか分かりません」

 「そっち方面……?」


 ラウルも首を傾げている。

 それに対し、うむ、と神妙に頷くシュエル隊長。


 「実はな、マスターに頼まれたんだよ。アルカディアスの森の中に面倒なモンスターがいるから倒してきてくれってな」


 アルカディアスの森とはグランドアルス帝国の東南方面にある大きな森の事だ。


 「取り敢えず、帝都までの護衛任務でもあれば、それを受けて移動しようと思っている」


 ギルアは帝都より南にある。帝都との間には山々が連なっているので、遠回りにはなってしまうが比較的に平坦な道を通るのが一般的だとされている。その道の一部がアルカディアスの森を通っているのだ。


 「はぁ〜……。だけど二人をここへ連れてきたのは間違いだったかな。胸くそ悪い。人付き合いも考えて付き合ってきたつもりだけど、よりによってあいつらと出くわすなんてな」

 「あの人たちとも付き合いがあったんですか?」

 「しつこく言われてね、一回だけパーティーを組んだんだけど、味を占めちゃったみたいだね」


 下手に出すぎた、と溜め息を吐くシュエル隊長。


 「ここら辺はあいつらが特殊なだけで、他は気の良いやつらばっかりなんだけどな」


 また紹介出来ると思うよ、と微笑んだシュエル隊長の顔は髪の毛とメガネに隠れて見えない。


 「そもそも、モンスター退治なら三人でそのまま行った方が早いんじゃないですか?護衛を受けるって事は帝都まで行ってまた戻るんですよね?」

 「言っただろ、ラウル。これは俺の授業でもある。三人だけだと意味ないじゃないか」


 「モンスター退治はついでだよ、ついで」と言うシュエル隊長に、人とは出来るだけ関わりたくないラウルは眉を寄せただけで、それ以上は何も言わなかった。


 「それに、今回は護衛じゃなく荷物持ちな。は戦えないから。それに今回はお前たちもお荷物になるんだぞ。普通の子供は、重い荷物持って歩いての旅なんて出来ないからな」


 顔をしかめる二人を見てシュエル隊長は悪戯っ子のように笑う。


 「どれだけ一般人になりきれるのか、お手並拝見といこうか」


 その日のうちに帝都までの護衛依頼を見つけてきたシュエル隊長。翌朝、裏道を通って集合場所に向かいながら今日からお世話になる依頼主や簡単な注意事項を聞く。本当に滑り込みで入れてもらえたようだ。

 狭い山道を通るので馬車は無し、馬は六頭。護衛のパーティーが五組と荷物持ちが二組いるらしい。急ぎの商品らしく、最短距離を選んだ結果、馬車を使うことが出来なかったそうだ。

 荷物持ちが少なかった為、喜んで受け入れられたという。しかし、子供がいると聞いてあまり良い顔はしなかったらしい。それもそうだろう。お荷物の子供なんて邪魔なだけだ。


 「ま、お前ら子供だし役立たずだと思われるだろうが気にすんなよ。普通についてくるだけで大丈夫だ」

 「分かりました」

 「じゃ、そろそろ表通りに出るから始めるぞ」


 そう言った瞬間にシュエル隊長の雰囲気はガラリと変わる。

 オドオドキョロキョロと辺りを見回し、両手をナルとラウルの方へ差し出した。


 「ふ、二人とも行こう」

 「うん!」


 差し出された手をナルは元気よく、ラウルはそっと握った。

 門前には大勢の荷物と人が集まっていた。

 最初に向かったのは依頼主の所である。依頼主は、口髭を長く伸ばしたおじさんであった。筋肉隆々のがっしりした体型の為、若く見える。


 「昨日は突然のお願いにも関わらず、参加を許可して下さり、ありがとうございます!に、荷物持ちのシュカです。そして、同行させていただくナルとラウルです」


 二人同時に頭を下げる。依頼主はジロジロと遠慮なく二人の事を見下ろした後、一つ頷いた。


 「うむ。ディッターだ。仕事の邪魔にならんのなら何も言うまい」


 ただ、邪魔をしたら……分かっているよな?と言わんばかりの睨みつけ具合である。

 さっさと挨拶を切り上げ、シュエル隊長と三人で他の人たちへの挨拶へ向かう。


 「おっ、おはようございます!昨日急遽荷物持ちのメンバーに入れてもらったシュカです。お世話になります」

 「おっ、噂の子連れ荷物持ちか。思ったより小さいの連れてんな。そんでお前は細っこいな。仕事出来んのか?」

 「はいっ!子供たちも邪魔はさせませんので」


 そっと押しだすように前に立たせられたナルは、シュエル隊長の意図を理解して先に挨拶する事にした。


 「初めまして。ナルです」

 「……ラウルです」

 「そうか!俺はゴンズだ!ついてくるのも大変だろうがよろしくな!」


 朗らかに話しかけてくれるのは、今回護衛担当のリーダーだろうか。他の人たちは遠巻きに見ているだけだ。大半はやはり迷惑そうな顔をしている。


 「ほらよ、おめーの分だ」


 荷物持ちの人たちが集まっている場所に案内され、荷物持ちのリーダーっぽい人が指差したのは、普通に持つのなら到底持てないほど山盛りに積み上げられているたくさんの荷物だ。


 「おい、あんた収納魔法付きのカバン持ってんのか?持ってなかったら流石にこの量は……」

 「あっ、へっ平気ですよ!荷物持ちですからっ!小さめですが収納魔法付きのカバンは持ってます!」


 他の人を見ると、みんなカバンはパンパンに膨らんでいる。収納魔法に入りきらない分は普通にカバンに入る分だけは入るようなのだ。それだけ荷物が多いという事なんだろう。


 「急遽荷物持ちが増えるって事で持って行く荷物の量も増やしたみたいなんだ。無理そうならいくらか減らすとは言ってたが……」


 シュエル隊長が持つカバンはどれだけの量が入る収納魔法がかかっているか分からないので、ゴンズさんが困った顔をして言うが、彼は笑って言う。


 「だっ、大丈夫ですっ!入らない分は持てば良いですし。それに、この子たちもお世話になりますしっ」


 その分頑張って働きます!と言うシュエル隊長にそれ以上は何も言えなくなったようだ。無理するなよと言い残して、出発する前の最終確認の為か、その場を離れて行った。

 その後すぐに荷物持ちと思われるメンバーに囲まれる。


 「勘違いすんじゃねーぞ。俺たちも同じくらいの量を持ってる。それでも荷物減らしてやってんだ」

 「あっ!はいっ!ありがとうございますっ!ご迷惑をおかけします!」

 「あーあ、お前は良いよなぁ。そんなガキまで連れて。ここは遠足か?ああ?」

 「この子たちの面倒を見る者がいないので……。すみません」


 シュエル隊長がぺこぺこと謝っているのをナルたちはただ見ているだけしか出来ない。

 何もここまでする必要はないだろうにとは思ったが、シュエル隊長の授業だ。何も言えない。

 文句を言われながらも出発時間に合わせる為、手早く荷物をまとめ始めたシュエル隊長を手伝うわけにもいかず、ラウルと一緒に邪魔にならないよう木陰に入る。

 そこには一本槍を木に立て掛け、腕を組んで目を瞑っている偉丈夫がいた。護衛組の一人だろうか。

 木陰に入った二人に気がついたようで、パチリと目が合う。暫く無言のまま見つめ合う事に耐えかねたナルが口を開いた。


 「よろしくお願いします」

 「……ガキはお呼びじゃねーんだよ。さっさと帰りな」


 そう言って再び目を瞑ってしまった。ラウルと肩をすくめ合うと、二人その場で大人しくしている事にした。




 「そろそろ出発だ」


 準備が終わった事を確認したゴンズさんの掛け声により、皆が荷物を持ち始める。ナルとラウルも荷物をまとめ終わったシュエル隊長の近くに移動する。いくらかは収納魔法に入れて、入りきらなかったかのように見せている荷物は、大人一人分と更にその半分くらいの高さに上手く積み上げられロープで括っていた。


 「よっ、と」


 シュエル隊長が収納魔法に入りきらなかったように見せた荷物を背負うと、周りからの視線が集まった。

 「あいつ、マジか?」と言う声が聞こえてきた。荷物持ちの人たちを見回すと、シュエル隊長ほどの荷物を背負っている人はいない。カバンの中に収まる程度だ。

 まさか収納魔法を使えるにも関わらず、背負う人がいるなんて思わないだろう。荷物持ちは収納魔法のカバンがないとなかなか務まらないとギルドで聞いた事があった。重い荷物を持って同じペースで歩き続ける事が困難だからだ。

 それなのにシュエル隊長は結構な量を背負っているのだから、他の人たちが驚くのも頷ける。

 シュエル隊長が人より多めに手荷物を増やしてるのも、一種の訓練なのだろう。





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