54 シュエル隊長と①
大変お待たせしましたm(*_ _)m
「来たね」
「なんでこんな場所で集合なんですか?シュエル隊長」
ピンと背筋を伸ばし、黒い肩まである髪を後ろで纏め、前髪はクロスしたピンでとめている。気安く周りにも声をかけることから、初見は大多数の人にチャラい人間だと思われるだろう。しかしその見た目に反し任務では、端正に整った顔をいつもきりりと引き締め、常に周りに気を配り、先頭だって動く時はもちろん、サポートだって当たり前のようにこなす。
それが普段のシュエル隊長の姿だ。
ただ、彼には変わった趣味がある。
「ダメでしょ、そんな呼び方しちゃったら……」
シッと人差し指を口に当て、キョロキョロと辺りを見回しながらそう言うシュエル隊長には、普段の覇気が全くと言っていいほどない。話し方はもちろん違うし、いつもは綺麗に纏めてる髪を適当に下ろしているのでボサボサだ。黒ぶちの分厚い伊達メガネをかけてるので、その綺麗な顔立ちは完全に隠れてしまっているし、前髪をとめていないせいで、目もほぼ見えない。しかもオドオドと忙しなく周りを気にするさまは、彼の魅力を完全に失っていた。
「いいかい?今の僕はシュカだ。な〜んにも出来ない、出来損ないのただの荷物持ち」
「はぁ……」
曖昧な返事をしながら辺りを見回す。
ここはユニバースではなく、グランドアルス帝国にある一つの街、ギルア。帝都よりも離れた位置にあるが、その街の規模は大きい。
なぜなら側には大きな湖があり、そこを水源として人々は豊かに暮らすことができるからだ。
三人は今、ギルアの正門から少し離れた森の中で話している。
「じゃあ、シュカさん。何でここを集合場所に?しかも、転移はこの近くの森までって……」
「そりゃあ、ここが僕の拠点にしてる場所の一つだからね。転移して誰かに見つかっちゃったら面倒じゃないか。それが僕の知り合いだと特に。まぁ、そんなヘマはおかさないと思うけど」
そしてナルとラウルをまじまじと見下ろした後、一つ頷いた。
「うん、二人とも荷物無さすぎ。まぁ、仕方ないか……。便利な魔法があるとね。って事で、今回はこれを持つように」
シュエル隊長が素早く空間収納から取り出したのは、二つのリュックサックだった。
そのリュックサックにはウサギとネコを模したのか、それぞれウサ耳とネコ耳がついており、なんとも可愛らしい。
「ウサギ……」
「これはちょっと……」
二人がリュックサックを見て引いていると、笑顔のシュエル隊長が首を傾げる。
「何か文句でも?」
「「ありません」」
「よろしい。良いかい、二人は俺の遠い親戚から暫く預かる事になった兄弟だ。この間、二人とも実力を見せるのは禁止。ユニバースの隊員であることはもちろん、ユニバースのギルドに所属してる事も話しちゃダメだ。出来るだけ一般市民のフリをして過ごす事」
そこでラウルが手を上げる。
「それって必要な事なんですか?」
「必要な事だよ。君達の身を守るためにもね。あってはほしくないけど……、力を持ってるが故に、人の命を狙ってくる奴らや、君たちのその力を欲する奴らもいない事はないから。覚えがないとは言わないよね?だから、力を見せない方が良い時もある」
と寂しそうに小さくそう笑った彼は、パンッと切り替えるかのように手を大きく鳴らした。
「まっ、何事も経験!俺からの授業はどんな場所でも一般人に紛れ込めるようになること!身について悪い事は何もない。それに、ほぼ俺の趣味だしな。人間観察っていう名の。ユアーズでもやってるだろ?楽勝楽勝!それじゃ、授業を始めるぞ〜」
* * *
実はナルとラウルは、シュエル隊長から別人としての振る舞い方の指導を以前から受けていた。それは歩き方や仕草、目線の位置など多岐にわたる。二人がユアーズで働く際にも立ち振る舞いを教えてくれたのはシュエル隊長だ。直接教えてもらい、まるで別人のようになるのは見て理解していたが、他人の前でそれをやっているシュエル隊長を見ると言い知れぬ面白さが溢れてくる。
「「〜〜っ!!!」」
門の中へ入った二人は、笑いを堪えるのに必死になった。
というのも、門に入った瞬間にガラの悪そうな男達がシュエル隊長に絡んで来たのだ。
肩をガッチリと組み、「よぉ〜、荷物持ちのシュカちゃん、今日のパーティーは決まったのかぁ〜?」と。それに対応するシュエル隊長が、怯えたうさぎのように身を縮こませ、「い、いえっ……」と小さく首を振っている。
シュエル隊長の話は他の隊長たちからも聞いていたが、実際見るのとでは全然違う。
思わず吹き出しそうになったのを、瞬時に息を止め口元を手で覆って隠す。
「オメェにはまた俺たちの荷物を運ばせてやってもいいんだぜぇ〜?」
「賃金だってちゃ〜んと払ってやるぜ〜?」
そう言って見せたのは、たった5枚の銅貨だった。ナルとラウルがピクリと反応する。
(はぁっ!?たったそれだけのお金でっ!?シュエル隊長になんて事を……!!!)
男たちにはバレていないようだったが、シュエル隊長からナルとラウルに向け少しの殺気が飛ばされ、二人は気持ちを切り替えた。
門を潜る前、どんな対応をしているシュエル隊長でも、笑うな、手を出すなと言われていたのだ。
男たちにバレないよう深く深呼吸し、表情を無にするラウル。ナルは少し困ったかのような表情を作ってみることにした。
そこで男たちはようやくナルとラウルの存在に気がついたらしい。
「あぁ!!?なんだこいつら。見せもんじゃねぇぞ。ガキはどっか行きな!」
シッシッと手で払われるのを、ナルたちは何も言わずただじっと立って見ていた。
「あ、あの〜。そっ、その子たち、僕の親戚なんですっ……。暫く預かることになって、え〜と、その……、仕事する間置いとく訳にも行かないので……。一緒に行ける仕事はないか、探しに行こうかと……」
「ハッ!こいつらが?」
「おチビちゃんたちよぉ〜。仕事を甘ぁ〜くみてまちぇんかぁ〜?」
「冒険者ってのはなぁ〜、それはそれは怖ぁぁ〜いモンスターがいる森の中に行くんでちゅよ〜?」
一人は鼻を鳴らしてあからさまに見下し、二人からは赤ちゃん言葉で馬鹿にされる。
お互いの事を馬鹿にされるのは許せないが、自分の事を言われるのは慣れてしまっている二人だ。
無言で男たちを見つめる。
「何だぁ?おめぇら、その目はよぉ?」
「なっななななな何でもないですよっ!でっ、ではっ!僕たちはもう行きますねっ!」
シュエル隊長が二人の背中を押して無理やりこの場から離れようとするが……。
「待てよ」
呼び止められ、シュエル隊長が小さく舌打ちした。聞こえたのは、おそらくナルとラウルだけだろうが。
「おい、シュカ。そいつらには少ーしばかり教育が必要なんじゃねーか?」
「そっ、そんな……。この子たちはまだ幼いんです……」
「教育ってのは、早めに始めねーとなぁ〜。だろ?」
「だっ、ダメですッッッ!!!」
「えっ」
「うわっ」
二人を一瞬で抱き上げたシュエル隊長は、くるりと踵を返して走りだす。
「あっ、おいっ!!!テメェ待てよ!!!」
待てと言われて止まるシュエル隊長ではない。いつもに比べれば走るスピードはとんでもなくゆっくりだが、建物や曲がり角を上手く利用して彼らを撒いた。
「……良いんですか?」
「んん?」
「俺たち二人を抱いて走ったりして。正体隠してたんじゃ……?」
ナルが疑問を口にすると、シュエル隊長はにこりとウインクしてみせた。
「荷物持ちならこれくらいの脚力と腕力はあるさ」
うわ、イケメン……と二人が思ったのは秘密だ。




